第十八話:悩む兄妹
「キャ……キャレさま、あ、あの……」
びっくりして、どのくらい固まっていたでしょう?
やっと頭が回り始め、出た声は震えてしまっておりますわ……
だって……
「この話は、帰ってからゆっくり」
キャレさまはそう仰り、にこりと微笑まれましたの。
……そう言えば実家で、どなたか高貴な方とのお引き合わせする為のお仕事ではないかと話しましたわね。
キャレさまが立太子なさる王子殿下と知り、私とでは身分違い。お引き合わせしたいお方は、キャレさまではないのだろうと考え直しておりました……
いえ、そもそもキャレさまで合っているのかしら……? 引き合わせたい方がいらっしゃると考えたのが、間違いなのかしら?
◇
予定より一日長く会談場所に留まり、キャレさまのお考えを携えた者たちを改めて送り出しました。
そして、私たちも帰途に付きましたの。その翌日でしたわ。お兄様が王命を拝し、合流しましたのよ。
「ドゥールムン男爵エイナル・トロッチェ・トゥ・ロワイにございます。
キャレ王子殿下をお守りする王命を拝し、御前に参じましてございます」
「ドゥールムン男爵、ご苦労。
戦地に妹君をお連れしたからね。さぞ心配しただろう。
戦で魔物が刺激され、あちらこちらで跋扈している。安全を確保する為、今日はここでこのまま野営だ。ゆるりと体を休めながら、兄妹で語らうが良い」
「はっ。ご配慮、痛み入ります」
「カナリア嬢には私からも護衛を付けておくが、油断なきよう」
「御意に」
「カナリア嬢、今夜はドゥールムン男爵と気楽に過ごされよ」
「有難きお言葉。感謝申し上げます」
お兄様と共に御前を辞し、私に充てがわれている天幕へ下がりましたわ。そこまでは無事を確かめる、差し障りのない会話しかしておりませんでしたが……
「お兄様……。どうなっているのかなど、私にも分かりませんわ……」
天幕に入り人払いいたしましたら、込み入った事を話せますわ。
「お会いした男性がキャレ王子殿下お一人だとしても、カナリアが殿下のお相手とは考え難い。
かと言って、殿下自ら、臣下の花嫁選びをなさっているとも考え難い……」
戦の事は私には分かりませんし、口を挟む事も許されませんわ。ですから、会談の事を申し送りしましたら、文のやり取りが間に合わなかった事をお兄様と話す事になりましたの。
「以前のお立場なら、カナリアをお妃にというお話もまだ有り得なくはないが……
立太子が決まっておられる今のお立場で、カナリアをお妃にというのは更に考え難いね」
やはり、お兄様も同じお考えですわ。
「あ、もしかして? これから、別の方とのお引き合わせが決まっているのかしら?」
「それなら立太子がお決まりになった時に、もうカナリアに会わなくなっている筈だろう?
そうなさらず、ずっと会っていらっしゃるのが分からないんだよ」
それもそうですわね。
「ただ、カナリアをとても大切にして下さっているのは分かるよ」
「え?」
どうしてそんな事が分かるのかしら?
「天幕は王族の方が使うような、魔法と物理攻撃に強いお品。天幕には暖房が備えられている。簡易とはいえ、寝室は空調の効く個室カプセルとシャワー室まである。カナリアが纏っている衣装も、王族の方が使う生地の装備のようだ。
怪我をしないように、快適に過ごせるように、細部までお心を配って下さっているからだよ」
気付かなかったのか? と、お兄様は不思議そうになさるけれど……。私がそんな装備にまで、詳しい訳がございませんでしょう?
「領地の見回りに行っていた時のお品より、良いものだとは思っておりましたわ。ただ、そこまでのお品だとは思いませんでしの」
「まあ、そうだろうね。良いお品だと思っても、どこまで良いお品かは分からないね」
お兄様によれば一般の兵の天幕も、冒険者であればそれなりのランクの者が使える良い装備だとか。
「一般の兵の天幕まで?」
「ああ。普通は、我が領の領兵と変わらない物を使う。ここで見たのは、それより上等な物ばかりだった」
領地の見回りには、お兄様が買って下さった小型移動式住居を使っていましたの。護衛達の使う天幕も、やはりお兄様が選んで買われたお品。
他のお品を見る事がなったから、ここに来た者に揃えられている物が上等な物だと気付きませんでしたわ。
◇
「ドゥールムン男爵、カナリア嬢。キャレ王子殿下より、夕食を共にとの事でございます」
考えても分からない事に考え疲れた頃、キャレさま付きの小姓より、夕食のお誘いが参りましたの。
それは、私にはいつもの事。ただ、お兄様は、「王子殿下と食事を共にし、戦地とは思えない食事をしているのか?」と、ますます混乱なさいましたわ。
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