第十五話:会談
「まあ……! お兄様か私に会いたいと申していたのは、貴方だったのね」
「お嬢さま……!」
お兄様か、私に会いたいと申してした一団と会う交渉の後。約束の日時に、約束の場所に現れたのは、皆、私も知る者でしたわ。先頭にいますのは、オーケ領の領都近郊の庄屋、ベンノ。私が子どもの頃から知っている、誠実な男ですわ。
「ベンノ……、辛い思いをさせたのですわね。一揆に加わるなど……」
「お嬢さま……! 儂らは、儂らは先のご領主さまには、それはそれは良くして頂きました!
お家が苦しくなろうと、儂らに重税を課すお心など、微塵もないお方でした!」
ベンノは会ってすぐ、泣きながら窮状を切々と語り始めましたわ……
「しかし、今のご領主さまは……!」
「ワシラの事なんざ、これっぽっちも考えて下さらねえ……!」
「儂らの食い扶持がなくなろうと、ご領主さまの欲しい税を課されます!」
「んだ! それに、痩せた土地には勿体無いと、農具まで取り上げなさるだ!」
「なんですって? 農具を?!」
農具を与え、そして少しでも収穫量を増やし、貧富の差がなくなるような政策を行って参りましたのに……! 何て事を……
「それだけではありません! 安く貸して下さっていた、最新に近い農具。それを、古い農具に変えられるならまだまし。取り上げただけで、たいした農具もなく、今まで以上の税を課されなさるのです……!」
「ワシラは、そんなにされては食っていけませんだ……!」
「領地の売買には、そこに住まう者も一緒に売られます……」
「農民は、勝手に住む所を変えられねえ……」
「だから、儂らは一揆に加わったのです……!」
「ワシラは、お優しいエイナル坊ちゃまやカナリアお嬢さまの元で働きたい……」
「坊ちゃまやお嬢さまの元でなら、儂らは頑張れます」
「ワシラは、ただ、坊ちゃまやお嬢さまの元に帰りたいですだよぉ……
そのためにゃ、こうして一揆に加わるしかなかったですよ…………」
「良くして下さっていたご領主さまのお顔に泥を塗るまいと、歯を食いしばり頑張りました。
んだど、もう無理ですだよ……!」
きっと、無理というのは本当でございますわ。肌艶の良かったしっかりした体は痩せ衰え、骨と皮に近くなっておりますもの……
「……カナリア嬢のお父上、祖父君の治める領の領民は、領主を大変慕っているという噂は真だったのですね」
「勿論です! 儂らは作物を作る事しかできません!」
「そんなワシラから、誤魔化して税を多く取る事もなさらねえ!」
「毎年、きちんと税をありがとうと、労ってさえ下さるだ!」
「それは当然だわ。私たちは、一粒の麦ですら育ててはおりません。それでも飢えないのは、皆が麦を育て、税を納めてくれるからですもの」
「これ程領民を思い、領民から慕われる領主も珍しい。
そんな領主に仕えていれば、重税を当たり前と思う領主に仕えるのは、さぞ辛かっただろう……」
「はい。儂らは、お仕えするのが嫌なんじゃねえです。
お仕えして、税を納めても惜しくない方にお仕えさせてもらいてえだけでさあ……」
◇
キャレさまは皆に充分な食事を与えられ、更に詳しくお話しをお聞きになられましたわ。
そして、当然ながら、誰も一揆を起こしたくて起こしていないと締め括られましたの。
「無能者は、民ではない。一揆を起こされるような政策を敷く、臣下の方だ」
そう仰られ、農民一揆の平和的な平定と、農民一揆が起きた領の領主への対応を開始されたのですわ。
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