第十一話:町歩き
「お疲れになったでしょう? 少し休みましょう」
剛力熊の討伐以外何事もなく、私たちは王都へ到着できましたわ。
到着した当日の昨日はゆっくり過ごし、旅の疲れを癒やしましたわ。
翌日の今日は、王都でパンツドレスを作りましょうというお言葉通り。キャレさまが、パンツドレスをお作り下さいましたの。
総仕立てのパンツドレスが一つ。半既製品のパンツドレスが二着。乗馬の時に使える、半既製品も二着。
その他、王都で流行りの総仕立てのドレスに、半既製品のドレスが三着に……
勿論、数が多うございますからご遠慮したのですが……
「貴女に似合う物を見てしまったから。贈らせて頂ければ、とても嬉しい」と仰って、お断り仕切れませんでしたの。
そして、どうにか仕立て屋を出ましたわ。
見ているだけで、うっとりするような数々のドレスもあり……。かなり時間が過ぎましたのは……、仕方ありませんでしょう?
「最近、王都にも『喫茶店』ができたのですよ。飲み物も食べ物も美味しく、人気なんですよ」
「まあ、王都に喫茶店が?」
「この国は、伝統を重んじるばかりに、すっかり遅れを取りましたからね。やっとです」
「きゃ、キャレさま……っ」
確かに、我が国は伝統を重んじます。そのため、新しい物を受け入れるのは時間がかかる傾向がありますわ。
ですが、こんな人の多い所で、そのような事を……!
「大丈夫ですよ。この国は、変わりつつありますから」
我が国は、例えば、肉屋が扱っている肉は、何かの肉の専門店が普通。豚なら豚、牛なら牛。それ以外の肉は、扱っておりませんでしたの。
しかし、それは買い物がとても面倒でしょう?
我が兄の領地では、最新の店に致しましたの。
肉屋では、あらゆる肉が扱える事とする――――
たったこれだけでも、反発はございましたわ。やってみれば売上が上がり、今は定着の方向に向かっておりますが……
野菜は八百屋、果物は果物屋――
これも、生鮮食料品店とし、野菜も果物も扱えるように致しましたのよ。
喫茶店も、そんな一つ。
休憩所があり、そこへ果実水の店、ワインの店、パン屋といった専門店から、それぞれ欲しい物を取り寄せるのが一般的でしたの。
あらゆる店や職人が、専門なのですわ。
それを改め、店で調理して飲み物や食べ物を提供する形態を推進しましたの。それは、この国では驚くような改革でしたのよ。
「貴女が進められた、他国と同じ仕組みにする領地改革。今、多くの領に飛び火しているのですよ」
手を引いて下さっているキャレさまが、そう教えて下さいましたわ。
「まあ、そうですの? 専門のものも必要でございますが、一所に集まった店に慣れると」
「便利さが分かりますね」
「はい。私、領地で喫茶店がとても好きになりましたの」
煌々しいキャレさまから視線を外しておりましたが、つい、キャレさまを見上げてお答えいたしましたわ。
仕立て屋から五軒先の喫茶店まで、そんなお話をしておりましたらすぐでしたわ。
「こちらです。さあ、どうぞ」
キャレさまに案内して頂き、店の前に立つと、店の従業員がすっとドアを開けて下さいましたの。
そのドアを潜り、店内へ。キャレさまが店の執事とお話になり、案内された席へ。
「ケーキスタンドの下段には、フルーツサンドのロールサンドと野菜のミニサンドを。上段には、お勧めの焼き菓子を」
注文が終わると、店の侍女が美しい跪礼をして下がりましたわ。
「どうですか? この喫茶店は?」
「王都の喫茶店は、とても洗練されておりますわね。一部屋が客間のように設えられ、お店の侍女も有能な方のようでしたわ。
何より、『エレベーター』が設置されていて……。大変、驚きましたわ」
甘やかに微笑まれるキャレさまに、少々興奮気味にお話ししてしまいましたわ! だって、自領の喫茶店とは全く違うのですもの……!
「王都にも、いずれ貴族の館が立ち並ぶでしょう。そうなれば、このような店は不要かもしれません。
今は貴族専門の宿がありますが、外でこうして休めるのも悪くはないでしょう?」
「はい。一組で一部屋利用できますのは、落ち着きますわね」
自領の喫茶店は、もっと庶民的なものなのですわ。貴族や大店の為の喫茶店を作りましても、黒字になる程の利用者がおりませんもの……
「一階は何組かで利用します。個室なら、このようにゆっくり出来るのが評判なのですよ」
お話ししておりますと、頼んだ紅茶と二段のケーキスタンドが届き、すっかり話し込んでしまいましたわ。
「さて、次の店へ行きましょうか」
「まあ? 次はどちらへ?」
「カナリア嬢は、かなりの読書家のご様子。アルヴァー自慢の書庫の本も、お越しになった時には、既にかなりの数を読まれていたでしょう?
本がお好きなようなので、本屋へご案内する心算です」
「まあ?! 本屋?! 楽しみですわ!」
「シュシェーナ王国の本も多いですよ」
「本当でして?」
「ええ。多分、国内で一番、シュシェーナ王国の本を扱っている本屋です」
本屋までは、少し距離があるとの事。馬車に乗り、本屋まで移動ですが……
「王都は道が広いですわね。それに、家並がとっても綺麗……」
「我が国は、帝国が分裂した後、長らく混沌としておりました。
王国となり、国を立て直すにあたり、広い道と区画整理に注力した結果ですね。家並は、各貴族が現代建築の白い家を、競って建てている結果ですよ」
「現代建築の家は、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせますものね。白壁は、やはり皆様、憧れなのでしょうか?」
「白く保つには、お金も掛かりますから……
憧れであり、貴族としての象徴でもあるのでしょう」
「そうなのですね」
我が家には、そんな余裕はありませんが……。近く、現代建築の館に立て直しが出来そうとの事。それで宜しいですわ。
「着きましたよ。どうぞ、お手を」
「ありがとうございます」
本屋に着き、キャレさまのエスコートで馬車を降り、店の中へ。公爵閣下の居住塔城へいらっしゃる度、エスコートをして下さって、慣れた先導。
そのお手をお借りし、お店へ入れば……
「まあ! 凄い……っ!」
「そうでしょう? お好きそうな本は、あちらにありますよ」
手を引かれ、導かれるまま進みましたわ。
「あ、ほら。これなどお好きでは?」
「……『シュシェーナ王国……旅行記? ジスド子爵著』……? まあ、面白そうですわ!
あら、こちらはキャレさまがお好きそうですわ」
「ん? 『引き算の部屋作り』?
これは、……ほう……。ああ、確かに。好きですね」
何度もお会いし、好みも理解しておりますから。お互いの好きそうな本を勧めたり、自分で見付けた本を手にしたり……
本屋の後、別の喫茶店へ行ったりと……
キャレさまと、楽しい町歩きの一日を過ごしましたわ。
明日は神話劇の観劇。それも、とても楽しみですわ。
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