第003話 商人と女3人
翌朝、クレモンに起こされた俺はクレモンから色々渡され、出発する準備を終えた。
そして、街道まで案内されると、立ち止まる。
「クレモン宰相! 色々とありがとー」
「笑いながら宰相って言うな…………気にするな。ご先祖様の意志だし、君からはそれ以上の情報をもらった。足りぬくらいだ」
「当たるかはわかんないけどね」
これをちゃんと言っておかないといけない。
しょせんは占いなのだから。
「それを調べるのが私の仕事だ。ではな。私も国に帰るが、気を付けて行け」
「ああ。本当に助かったよ。ばいばーい」
俺達はお互いに手を上げると、逆の方向に歩きだした。
俺は剣を片手に持ち、色々入った袋を担ぎながら舗装もされていない街道を歩いていく。
方向は南だ。
目指す先はエーデルとかいう国である。
俺は電源を切っていたスマホを起動させ、アプリを開いた。
カウントダウンは12時間を切ったあたりだ。
ここで12時間を待ってもいいが、カウントダウンを終えて、地球に戻れる保証はない。
だったらエーデルを目指して進むべきだろう。
俺は時に無駄に剣を抜いたり、もらった本を読みながら歩いていった。
ある程度歩くと、人をちらほらと見るようになる。
馬車に乗っている商人らしき者、鎧を着て馬に乗る兵士っぽい者、複数のパーティーで歩く冒険者っぽい者など、様々だ。
そいつらは俺をチラッとは見るが、すぐに興味なさそうに視線を外していた。
思ったより危険は少なそうだなー。
俺はモンスターや獣も出ないし、楽だなーと思いながら歩いていく。
そして、2時間近くは歩いたと思う。
俺は街道の十字路の木の下で休んでいた。
「…………疲れた。足は昨日、クレモンに治してもらったけど、普通に疲れた」
怪我をした足は回復魔法とやらで治してもらったが、単純に疲れた。
体力はそこそこ自信があるが、舗装もされていない道を2時間も歩くのはさすがにきつい。
俺は休憩の間にちょっと占いをしてみることにした。
「うーむ……北と東が良くないことが起きる。南は普通。西はちょっと良いことありか…………」
どうしようか?
北と東はない。
そもそも戻りたくないし。
普通に行けば、南なのだろうが、西か…………
「別に急ぐ旅でもないしなー。西に行ってみるか……」
俺は行き先を急遽、変更し、街道の十字路を右に曲がり、西に向かって歩き出した。
それから15分程度歩いていると、木が増え、森っぽくなってきた。
そして、前方に街道のはずれに停車する馬車が見えてくる。
そのまま歩いていると、どうやら休憩所みたいな所らしく、商人らしきガタイの良いおっさんと冒険者っぽい若い女が3人ほど、座りながら何かを話しているのが見えた。
俺はせっかくの休憩所だと思い、昼ご飯を食べるために、その広間に立ち寄った。
おっさんと女3人は俺をチラッと一瞥したが、すぐに会話に戻る。
俺は気になったので、声が聞こえる程度の距離まで近づき、座った。
そして、クレモンにもらった干し肉を一生懸命に食いちぎる。
もぐもぐ。
塩辛いだけで美味くはないなー。
俺は干し肉を食べながらチラッとおっさんと女3人を見る。
おっさんが商人で女3人が護衛の冒険者かな?
女3人のうち、1人は長身の剣士であり、身長が170センチの俺よりも高いだろう。
持っている剣は俺がクレモンからもらった剣よりも大きく、ちょっと怖い。
もう1人は小柄な子で150センチ程度だと思う。
というか、猫耳が見える。
コスプレではないだろうなー。
そういう種族なのかもしれない。
最後の1人は長い金髪の子だ。
この子の身長は剣士と猫耳の中間くらいで155センチ程度だろう。
杖を持っているところから見て、魔法使いかもしれない。
まあ、見た感じはどちらかというと、ヒーラーっぽい。
実は気になったのはこの女だ。
だって、かわいい顔をしてるくせに、身体にでっかい蛇を巻いているんだもん。
しかも、本人は気付いていないっぽい。
多分、霊的なもんだろう。
祓ってあげるかわりに金銭を受け取りたい気分だが、正直、怖い。
うるせーって言って、あの長身の剣士に一刀両断されそうなんだもん。
「うーん、そっちは遠回りになるなー……」
おっさんが困ったような声を上げる。
「仕方がないだろ」
多分、長身の剣士がリーダーだろうな。
おっさんとメインで話しているのはこの人だ。
「そっちに行くと、積み荷が腐っちまう」
「がけ崩れなんだから仕方がないだろ」
がけ崩れ?
もしかして、この先はがけ崩れで道がふさがっているのかな?
しかし、あの蛇、気になるなー。
巻きつき方が何かエロいし……
あ! 今、チロって頬を舐めたぞ!
「おい!」
俺は急に大声がしたのでビクッとなった。
慌てて、声がした方を向くと、長身の剣士が俺の方向を見ていた。
俺は後ろを向き、誰かいるのかなって思ったが、俺以外に誰もいない。
「いや、お前だよ! 他にいねーだろ!」
俺は何も答えずに自分の顔を指差す。
「そう、お前! いや、何、まさかーって顔してんだよ!!」
どうやら俺らしい。
カツアゲかな?
「何ですー?」
「いや、それはこっちのセリフだ! 堂々と聞き耳を立てて、フィリアをガン見してただろ」
「うーん、めっちゃ怪しすぎだな、そいつ」
不審者ですわ。
「お前だよ!!」
上手なツッコミで…………
俺はスッと立ち上がった。
すると、長身の剣士は剣の柄に手をかけ、他2人の女も構える。
「あー……怪しい者ではない。ちょっと小耳に挟んだんですけど、この先はがけ崩れです?」
俺は優しそうな顔だが、身体はごつい商人っぽいおっさんに話しかける。
「ええ。そうなんです。お前ら、やめなさい」
商人のおっさんが女3人を止めると、3人は警戒を解いた。
「じゃあ、俺も引き返さないとだなー。おっさんは商人?」
「ええ。そうですよ。この先の町に積み荷を売りに行こうと思ったんですが、がけ崩れでねー。仕方がないから別の町に売りに行きたいんですが、その前に腐る可能性があって」
そら、大変だ。
積み荷が売れないと赤字になってしまうだろう。
「ふむふむ。それでどこ行くの? エーデル?」
「それが一番なんですが、あそこの関所は審査に時間がかかるんですよ。下手すると、10日以上かかる時もある。そんなに待ってたら腐っちまう」
へー。
あー……だからクレモンが通行手形をくれたのか。
宰相の通行手形ならすぐだろう。
「なるほど。足ゲット!」
「足?」
「おっさん、あなたは運がいい。実に運がいい! 私と取引をしませんか?」
「取引?」
おっさんが首を傾げる。
「うさんくせー……」
「詐欺師臭がすごいですね…………」
「ふ、2人とも!!」
長身の剣士と猫耳が俺を怪しみ、金髪蛇女がそんな2人をたしなめる。
「まあ、たいした取引ではありません。私はこう見えても体力があまりなくてですねー。歩くのに疲れたんですよ」
「どう見ても体力はなさそうです……」
猫耳がボソッとツッコんでくる。
「黙れ、猫! 撫でてやんねーぞ!」
「こっちからお断りだ!」
猫耳がシャーッ!と怒る。
「語尾に“にゃ”くらいつけろよなー……おーっと、話がそれました。私は体力がないのでエーデルまで馬車に乗せてほしいんですよ」
「なるほど。しかし、エーデルには…………」
「いや、みなまで言うな! 実は私はこういうものを持っているのだ」
俺はカバンからクレモンにもらった通行手形を見せる。
「こ、これは!? 宰相閣下の名が入った通行手形!? どこでこれを!?」
「ふふふ。何を隠そう私はクレモン閣下とは大の親友なのだ。この国がきな臭くなってきたということで、私にエーデルに行くように言ってきたのであーる。それでこれを書いてもらった」
嘘も方便。
クレモンも許してくれるだろう。
「ほ、ホントですか!?」
「ぜってー嘘だろ」
「怪しすぎ」
「………………」
今度は2人をたしなめない金髪蛇女。
「ほうほう……! 奥の3人はこう言っているが、商人殿はどうなされます? 私は金品を要求しているわけではない。ただ、足が痛いから馬車に乗せてくれと言っているだけだ」
「ふむー…………」
まだ決めかねているみたいだな。
「では、これを見るがよい」
俺は今度はクレモンに貰った本を出し、商人に見せる。
「これは?」
「ここを見るがいい」
「こ、これは、クレモン様の名前!?」
「クレモンにもらった。魔法を覚えたいと言ったら餞別にくれた」
これは本当。
「盗んだんじゃ…………」
猫がまたしても余計なことを言う。
「猫ーっ!! 水をぶっかけるぞ!!」
「いや、別に水は嫌いじゃない」
だから“にゃ”をつけろ!
「いやはや、わかりました。我が馬車にお乗りください」
どうやら商人は俺を信じたようだ。
「いいのか?」
長身の剣士が呆れた感じで商人のおっさんに確認する。
「このままでは大赤字だ。かけてみる」
「そうそう。それが商人ってもんだ」
「いちいち、発言が胡散臭いな、こいつ…………」
よく言われるー。
やはり西に行くのが正解だった。
良いことがあったぜ!




