2019.4.8
初めての小説投稿になります。
最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
曇天。
そして散りかけの桜。
思わずため息が出る。
マスクを片手で引きはがし、強引に制服のポケットにねじ込む。
どうしよう。
さっきからずっと、頭を支配している問題がある。
ああもう、どうしたらいいっていうの?
そもそもなんで、そういう決まりがあるの?
答えの出ない問いを引きずりながら、教科書がパンパンに詰まったカバンよりも重い気持ちで家のドアを開ける。誰もいないのは分かっているのに、「ただいま」という言葉が口をついて出る。昨日の晩ごはんの残りの酢豚をレンジに放り込んで、今日学校からもらってきた手紙を全部床にぶちまける。
学年だより、進路だより、一週間の時間割、大学説明会の案内が何枚か、行事予定表…。
山のようなプリントの中から、一枚のパンフレットを手に取る。入学式後のホームルームで、担任が言っていたことが思い出される。
「桐葉高校では部活は全員入部となっているので、明日の部活紹介までに入りたい部活をある程度考えておくように。その一週間後ぐらいに入部届を全員出す時間を設けるので、それまでには入る部活を確定させておくこと」
これを聞いたとき、衝撃が走った。つまり、帰宅部に人権はないと。
中学校の時は周りのほとんどの子が部活に入っている中、面倒だという理由だけで一人帰宅部を貫いてきた私。
それが高校になって突然、「部活は全員入部です」。
もっと高校のことちゃんと調べておけばよかった。この地域ではそこそこの進学校だということ以外ほとんど情報がないまま進学した結果がこれだ。
でも入学した次の日に高校を辞めるのは、流石に良心が咎める。
何かいい方法はないんだろうか。
Yahooo知恵袋にこう入力する。
「高一です。学校の部活が全員入部です。でも部活に入りたくありません。練習はどこも厳しいです。何かいい方法はないですか?」
「投稿する」を押す。最終手段だけど、仕方がない。惰性でLINEを開く。
数少ない友達にも相談はした。でも、結局みんな「とりあえずなんか入っておけばいいんじゃない」という返事だった。
桐葉高校の部活は運動部・文化部関係なく練習が厳しいというのは、うわさで聞いている。
平日七時までみっちり練習はもちろん土日のどちらか一日、さらに大会前には土日丸々一日部活、ということもあるということを、桐葉高校でバスケ部のお姉ちゃんがいるという友達から聞いたことがある。
さらに、部活を休めるのは病気も含めて月一回まで、休む時には理由を書いた紙を提出などのルールがあり、それを破るとどうなるか分からない…ということらしい。
それは、桐葉高校に入学確約書を提出する前に言ってほしかった。それを提出してしまった以上、どうあがいても進学するしかないのだ。
失敗だらけの、いや失敗しかない私の人生。
それは、全て私の雑で適当な性格が招いた結果だ。
そして今、私はまさに人生最大級の失敗をしてしまった。
「失敗をマイナスだと捉えているうちは成功なんてないよ。『失敗は成功の基』なんてきれいごとでしかないかもしれないけどさ、成功は失敗なしでは生まれない。失敗なしで成功できる天才なんて、この世にそうそういるもんじゃないんだから、いろんなことに挑戦しちゃいなさい。そして、失敗したらいい。そしたらいつか、『自分の人生、成功だったかも』って思える時が来るよ。私の人生は成功だったと心から思うよ」
祖母が亡くなる直前に、私にかけてくれた言葉が思い出される。
失敗してはすぐに泣いて落ち込む性格の私に、祖母はいつも「失敗しないと成功できない」って励ましてくれてたっけ。
じゃあ今回のことも、成功につながる…?
でもそれは、今のところ全く分からない。
ピーピーピー
そういえば、レンジで酢豚温めてたんだった…。
取り出してみると、湯気一つ立たないお皿が。
もう一度温める気も失せて、スマホを触りながらお肉を口に運ぶ。
あまり味がしなかった。
その日の夜。
お風呂から出てきてYahoo知恵袋を開くと、既にいくつかの回答が来ていた。一つひとつ見ていく。案の定、「楽な部活を何とか探してみる」「先生にそのことを話す」などの回答が多い。
それができないからここで聞いてるんだよね…。
下から二番目に、他の人とはちょっと違う雰囲気の回答を見つけた。
「部活の全員入部はつらいですよね。自分も高校生の時は全員入部だったので、気持ちはよくわかります。そこで提案ですが、質問者さんが自分で部活を作ってみるのはどうでしょうか?学校によって条件は違うと思いますが、一定数の部員、活動場所、顧問がいるなどの条件を満たせば作れるのではないかと思います。自分で部活を作れば練習量なども自分で考えられるため、自分に合った部活を作れるのではないでしょうか。よかったら参考にしてみてください。質問者さんが楽しい高校生活を送れることを願います。」
「部活を作る…か…」
今まで考えたことがなかった。
何も、今ある部活に入る必要はないってことだ。
ついでに「部活 作る」と検索してみる。
回答を見てみると、部活を作るのは難しいというものが多かった。
理由は、今年度の担当が決まっているため顧問がなかなか見つからない、少子化で部活の数を減らしていく方針になっている、運動部の場合今まである部活と活動場所がかぶらないようにしないといけないため場所の確保が難しい…などたくさん出てきた。
そんなに簡単に作れるものじゃなさそうだ。しかも部員が必要だ。誰が部員になってくれるのか?
ピロリン
学年のグループLINEだ。強制加入させられた学年のグループLINEからは、毎日たくさんの通知が来る。そろそろ通知音がウザくなってきたから通知オフにしようと思っていたのに、すっかり忘れていた。表示されたポップアップをちらっと眺める。
「みんな部活何に入るー?」
投票系か。普段なら投票なんか参加しないし、ましてや学年のグループLINEを見に行くことなんて絶対にしない。でも、「部活」というワードに引っかかって、私はポップアップをタップした。
もう何十票か集まっている。早っ。みんな暇か。まあ、私が言ってられることでもないけど。
選択肢にはたくさんの部活が並んでいる。私の求めているものではないので、どんどんスクロールしていく。一番下に、それは、あった。
「決めていない」
一瞬、迷った。もしかしたら誰もそこに投票していないんじゃないかと。でも、こんなところで嘘ついても、現実は変わらない。投票ボタンをクリックして、そのあとに結果を見る。
「決めていない」3票。
正直、びっくりした。私と同じ状況の人が、あと二人いる。誰だろう。
気になって投票者の一覧を見る。匿名投票になっていないのが救いだ。
「西川紗穂」これは私。
「中根悠斗」「村田美月」誰?
名前も顔も知らない二人が並んでいる。
でも、もしかしたらこれで…?
部活が作れるかも。
桐葉高校の部活を作る条件は全く知らない。でもこれで、部員は3人確保できた。
久しぶりにこんなに頭使ったかも。
中高一貫校で高校受験を経験していない私は、成績なんて下から数えた方が早い。中学校の時もそうだったから、きっと高校でもそんなに変わらないんだと思う。
そんな私がここまで考えたんだから、今日はいったん考えるのはストップ。
時計は、夜の12時を指している。布団に入ると、一気に眠気が襲ってきた。
そのまま私は、吸い込まれるように夢の世界へ入っていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
☆5、ブクマをつけてもらえると飛び跳ねて喜びます。
更新がなかなかできない時もありますが、気長に待ってもらえたらと思います。
初めての小説なので拙い部分もあると思いますが、感想などくれるとうれしいです。