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コーヒー

作者: コメタニ

 旦那がマグカップを片手にリビングにやってきた。ソファーでスマホを眺めているわたしの隣に腰を下ろす。

「インスタントコーヒーを淹れていて思ったんだけどさ」彼がいった。

「うん」スマホから顔をあげ、わたしは興味なさげに応える。

「スプーン一杯のコーヒーをカップになみなみとお湯を注いでつくった薄いコーヒーと、カップに半分ほどでつくった濃いのとでは後者のほうが夜眠れなくなる感じがするよね」

「そうかな、んーそんな感じもするかな。それがどうしたの」

「カップの中のコーヒーの成分量は変わらないのにだよ。だけどそれから受ける印象というか反応は違ってくる」

「それはそうだろうけど」話の要点が見えずに少しイライラしてくる。

「そこで思ったんだ、人生における幸せや愛情なんかはそれと似たようなものなんじゃないかなって。人生というとなんだか大仰だけど日常生活と言い換えてもいいかな。うまく説明できなくて分かりづらいとは思うけど」

 彼はそこに潜んでいるなにかを見つけようとしているかのように手に持ったカップの中を見つめる。わたしは言葉の意味を理解しようと考える。

「でもわたしは、コーヒーが薄かったり濃かったりしたらひと口飲んで捨てちゃうな。美味しくないから」

「いや、捨てるなよ。薄かったらコーヒーを足したり、濃かったらお湯で薄めればいいだろ」彼は笑いながら突っ込みをいれた。

「現実は自分好みに調整できるほど甘くないよ」

 わたしがいうと、彼は一瞬ぎょっとしたような真顔になったがすぐにまた笑顔をつくった。

「たしかにそうかもしれないな」マグカップを手に取りひと口すする。

 しばしの沈黙があったあと、それを破るようにわたしがいった。

「ねえ、わたしにもコーヒー淹れてよ」

「うん、そうだね。ちょっと待ってて」彼は席を立ちキッチンに向かった。わたしはその後姿を見送る。

 すぐに彼はわたしのカップを持って戻ってきた。

「おまちどうさま」

「ありがとう」

 彼の淹れてくれたコーヒーは少し薄かったけれど、わたしは美味しそうにそれを飲んだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 確かに現実は自分好みに調整はできないけれど、簡単に捨てることもできませんよね。味が薄くてもそこに幸せを見出せた主人公、何だかいいなと思いました。
[一言] うわーメンドクサイ苦笑。願い下げだと思ったこれが不味かったら捨てるって事かと気づいてうわーコワいと……コワいから好いって時はあるのですが支配される恋愛……、相手によりますかも。小鳩の如き可憐…
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