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慎ましやか〜偽りの慎ましさ〜

作者: ボギー

 WEB小説を読んでいると「慎ましやか」という言葉が気になることがある。

 私はこの言葉が出てくると、登場人物の描写から推測して「慎ましい」の誤りではないか、と思うことが多い。


 なぜなら「慎ましやか」の意味は、「慎ましい様子は見せかけだ。実際はそうではないのに、慎ましさを装っているさま」だからだ。意味として近いのは「借りてきた猫」だろうか。


「〜しやか」は「あたかも〜を装っているさま」を表している。

 この「〜しやか」を用いた言葉の中で最もよく知られるのは、「まことしやか」だろう。

「まことしやか」とは、「いかにも本当らしく言うさま」(出典:広辞苑 第6版(発行所 株式会社岩波書店))という意味である。

「まことしやかな噂」、「まことしやかに囁かれる」などと書くと、信憑性は薄いと感じ、事実では無いと受け取られる。


「慎ましい」と「慎ましやか」について、仮にこれが意味の取り違えだったとして、このことは何故起きたのか。思い当たることはある。


「(お)しとやか」や「さわやか」「すこやか」などという言葉だ。

 この「〜やか」という音に引っ張られたのでは?もしくは、「〜やか」も様子を表す形容動詞である。これを「慎ましい」から「慎ましーやか」と変化させてしまったのではと。


 しかしながら「〜しやか」という言葉は、正しくは「まことーしやか」で区切る。

 つまり「慎まーしやか」なのである。


 ここで「慎ま」は変ではないかと思われるだろう。「慎ましい」の元は「慎む」であるので、間違いではない。(話が脱線して長くなるのでここはここで止めておく。)


 さらに、「慎ましやか」を「慎ましい様子」を表す言葉として「〜やか」に分類するには、致命的な問題がある。

 なぜなら、「〜やか」の前に「し」があるため、多くの読み手は「〜しやか」の法則に捉われて、人物を誤解してしまうことが危惧される。例えば「慎ましやかな女」と書かれていたら、実際は慎ましくないんだなと思われてしまうなど。


 よって、残念ながら現時点の日本語では「慎ましさ」や「控えめで謙虚な様子」を、「慎ましやか」で表現することはできない。


 あくまでも「慎ましやか」は偽りの慎ましさを表している。

 「控えめな様子」を表す「慎ましい」や「上品な様子」を表す「(お)淑やか」などとは異なり、偽りの意味を含んでいることを理解して使ってほしい。


 しかしこの「慎ましやか」という言葉は、(意味としては誤っていることがあるかもしれないけれども、)「〜しやか」としては誤った言葉ではない。

 具体的にいうと、心底からの健気さにはそぐわないが、本性の悪い人物の借りてきた猫感を表すにはいいかもしれないという話だ。


 ところが最近、WEB小説の中の「〜しやか」に「大人しやか」が加わった。これは意味も文法も完全に誤りである。


 なぜなら、これも「〜やか」の前に「し」がある。

 その上、仮に「〜しやか」の法則に則って区切ると「大人ーしやか」となり、「大人」だけでは「大人しい」の意味にならず、偽りの「大人しさ」を装うことができないのである。

 では「大人」ではないのに「大人」を装っている意味なのかといえば、文脈からそうは受け取りづらい。「大人しい」様子を表しているつもりなんだろうなあと察するのみ。


 今後「大人しやか」を認めてほしいというならば、まず「大人」という言葉に「大人しい」という意味を持たせる努力が必要となる。そして、もしもそういう将来が来たとしても意味は、「いかにも大人しそうだが、本当は大人しくないさま」という意味になるので要注意である。

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