第九話 優花ちゃんビーム!
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「優花ちゃんビームっ!!」
収縮させた霊魂がごうっ、という音とともに魔力だまりを吹き飛ばす。勢いあまって付近の固着していない霊魂も吹き飛ばしてしまったけれど、まあ誤差みたいなものだろう。気にしない気にしなーい。
「あー、かなり魂を消費しちゃったよ。これはしばらくは表に出ないほうがいいかなあ?」
生者達はまだ混乱しているようだ。さて、気づかれないうちに帰ろっと。
なんで私がこんなことをしたのかって? それを説明するためには数日前の出来事を知ってもらわなくちゃいけない。
あのキノコ狩りに行った日、リーナちゃんと別れた私は魔族(仮)の上空へ来ていた。
「角が生えてるね。本で見た特徴と一緒だ」
それにしても、見れば見るほど不快感が浮かんでくる。魂の奥底、というか勇者の称号から「こいつを殺せ」という声が聞こえてくるかのようだ。まあ無視するけどね。私の魂はこの程度の攻撃には屈しないのだ。
「何か集中してるみたいだけど、とりあえずステータス覗かせてねー」
ウルゴア・デラード 魔人族Lv.96 状態:健康
筋力:4811
持久力:4088
魔力:479/7814
抵抗力:5481
(魂力:5327/5327)
スキル
集中Lv.8 土属性魔法Lv.7 土属性耐性Lv.6 研究Lv.6 事務Lv.5 魔力中増強Lv.4 闇属性魔法Lv.6 闇属性耐性Lv.4 魔撃Lv.5 炎属性耐性Lv.5 風属性耐性Lv.3 魔力操作Lv.7 飛翔Lv.4 魔王の眷属Lv.3 邪属性耐性Lv.8 魔脈干渉Lv.2
称号
伯爵 苦労人 魔王の眷属
「って、序盤の街に出てきていい奴じゃないじゃん! 貴族なら自領にいてよ!」
おっと心の声が。それにしても強くない? 私とか精霊とかは別枠とすると、私この王都でこいつよりも強いキャラ見たことないんだけど。ちなみに二番目はレイアさんだ。受付嬢つよし。
それにしても、こっちに来てからいろいろな人のステータスを覗いているけれど、随分と差があるわね。リーナちゃんなんて100以下だし。でもリーナちゃん50数人分って考えると、弱く見えてきたかも。
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「へくちっ」
今なんかものすごく失礼なことを言われた気がするのですが。
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って、関係ない事を考えていないで、こいつの目的を探らないと。
「……たく。まお…………い」
なんだって? うーん、声が小さくて聞こえない。しょうがない。こういう時のために便利な技があるのですよ。
「霊魂を操作してっと、これで聞こえるはず」
「これで作業の6割が完了したか。まだ先は長いな。これが終わって帰国しても領地には大量の仕事が残っているのだろう? 魔王様は私を過労死させたいのか」
出張中の中間管理職みたいなこと言ってる! あ、いや、実物を見たことはないからイメージだけど。
いやいやいや、また思考が飛んでた。そんなどうでもいいことじゃなくて、私が知りたいのは魔族が何を企んでいるかなのよ。
「魔力だまりに術式を刻むことで任意の魔物を生み出す、か。魔王様は一体どこでこのようなことを学んだのだろうな」
魔力だまり? ああ。この辺は妙に霊魂が濃いと思ったら、そういうことだったのね。
「彼の言っていることって、魔物にステータスがない事と何か関係あるのかな?」
そこでふと、頭の中にある考えが浮かんだ。考えといっても明確に思考としてまとまったものじゃないけれど、それでも私はその馬鹿馬鹿しすぎる考えを無意識に確かめようとしてしまったのだ。
「は?」
なにこれ?
これは流石に想定外すぎる。流石の私も、このことが広まれば間違いなく世界に混乱が起きることは分かった。これは私だけの秘密にしておこう。そしていつか……
「ただいまー」
「あ、お帰りなさい」
冒険者ギルドで待っていたリーナちゃんの元へ帰った私は、早速見てきたことをいろいろと報告した。
「本当に魔族がいたんですね……」
「うん。強力な魔物を発生させて王都をたたくのが目的みたい」
ここは比較的魔力だまりが少ないので腕の立つ冒険者も少なく、国に仕える騎士団たちもその多くが戦争の最前線に行っているため、実は街にいる戦力というのはそこまで多くはないのだ。そういう条件下だからこそ王都として発展したともいえるんだけど。それに少ないとはいえ近衛騎士団っていうまあまあ強い戦力がいるらしいから、普通なら少数だけ潜入されても何とかなるっぽい。今回みたいに魔物を意図的に発生させられるケースというのはそもそも想定外のことなんだと思う。
「これ、どうやって伝えましょう?」
「それなんだよねぇ」
如何せん情報の出所が怪しすぎる。私のことだけど。下手をすればリーナちゃんが魔族との関連を疑われる事態になりかねない。
「だれか信頼できる人とかいる?」
「……私ずっと一人でやってきたので」
「あー」
リーナちゃんぼっちかー。そっかそっかー。
「あ、ギルドに一人だけ信じてくれそうな人がいました!」
「というと」
「レイアさんです。受付の」
あの妙にステータスの高い人か。彼女ならギルド職員だし、国の方に伝えても信憑性は高いだろう。となると問題なのはリーナちゃんが彼女を説得できるかどうかになってくる。
「その、私がこっちに来てからずっとお世話になっている人なんです。だから私が霊感のスキルを持っていることも知っています」
ふむ。それなら話が早いかもしれない。霊感のスキルで幽霊の協力を得たといえば、少なくとも根拠が全くないっていうことにはならないでしょう。リーナちゃんが誰にもスキルのことを伝えていなかった場合は荒唐無稽な言い訳に聞こえかねないけれど、あらかじめ知られているなら話は別だ。
「そう……。分かった。私から国の方には伝えてみるわ。伝えてくれてありがとね」
あのあとレイアさんに色々と事情を話したところ、あっさりと信じられてしまった。
「信じてくれるんですか?」
「もちろんよ。リーナちゃんが嘘をつくような子じゃないってことは知っているし、それに、あなたじゃまだ私を騙すには早すぎるわよー」
おどけながらそう言う彼女にリーナちゃんは緊張が解けたみたいで、ほっと息を吐いた。この子は天涯孤独の身だって聞いていたけれど、ちゃんと親身なってくれる人はいたんだなって。正直私はそこに今一番安心感を覚えている。信頼できる相手が誰もいない状況というのはとてもつらいものなのだ。とても。
「それで、その幽霊さんはここにいるのかしら?」
「はい。ここに浮かんでいます」
彼女はこちらに体を向かせると、真剣な眼差しで言い始めた。
「幽霊さん。この子を助けてくれてありがとう。しっかりしているようで肝心なところで抜けているから、これからも力になってあげてね」
言われなくてもそうするつもりだ。初めは打算で近づいたけれど、数日を一緒に過ごして既に別れがたく感じている。たかが数日、されど数日。話せる相手の少ない私にとっては十分すぎる時間だ。
横を見ると自分のことを言われたリーナちゃんは耳を真っ赤にしてうつむいていた。
「「可愛い……」」
ん? 今ハモった?
「こ、こほん。とにかく私はこれから近衛にこのことを伝えに行ってくるわ。あそこなら顔が利くからね」
そう告げると、彼女は部屋を発って行った。近衛に顔が利くって、彼女一体何者なんだろう。
「ギルマスー! 緊急の用事ができたから王城に行ってくるわねー!!」
「おいちょどういう、ちゃんと説明してから行け!」
あのじゃじゃ馬娘めという声が部屋の外から聞こえてくる。……彼女何者なんだろう。
そんなことがあったあと、森へ向かう騎士団を見かけた私は彼らについていった。そこで勇者四人組がそこにいることや彼らのステータスがかなり上昇していることに驚いたり、レイアさんの暴れっぷりに思考を止めたり、奏音ちゃんの歌に聞き惚れたりとしていたらチャンスが来たので、慌ててビームを打ったというわけだ。
あの魔族が魔力だまりに干渉した時、一瞬だけ固まっていた霊魂が解けた。本能的にあいつがしていることの危険性と、そして今の一瞬であれば私が干渉できることに気づいた私は、とっさに全力の一撃を放ったのだ。どうやら私の勘は捨てたもんじゃないらしい。
あいつの切り札を潰した以上、いずれレイアさん達が勝利を収めると確信した私は、魂の過剰消費のせいで体の形状を保てなくなりながらリーナちゃんの元へ帰るのだった。
実はレイアもリーナと同じで天涯孤独の身でギルドの門を叩いた過去があります。そういう背景から、自分と同じ境遇の少女を気にかけていたという訳ですね。性格は全く異なりますが。