第八話 魔族との遭遇
投稿が遅くなって申し訳ありません。
ブクマ、感想、評価、レビューなどいただけると幸いです。
今回は少し長めです。勇者の一人、新島祐樹視点です。
南の森に魔族が潜んでいるらしい。
僕たちがその知らせを聞いたのはこっちの世界にきて数日が経ち、生活にも徐々に慣れ始めた時だった。
「もしかして、ついに僕たちが働かされるということでしょうか?」
さすがにまだ数回魔物と戦った経験しかないため、不安に思って聞いてみると
「いえ、今回は私どもで対処いたします。しかしいざという時のために、一度勇者様方には魔族のことを見ていていただきたいと思いまして」
彼の名はレンデル=アルシード。この国の騎士で僕たちの護衛だ。多分監視役も兼ねているのだと思う。こちらに来てから僕たちが最も多くかかわっている現地人でもある。
「ただ、その情報が本当かどうかを確かめるために、西園寺様にご協力をお願いしたいのです」
「私?」
同じ部屋で魔法について話していた亜香理さんが疑問の声を上げる。どうやら用事があったのは僕ではなく彼女だったみたいだ。
「はい。西園寺様の固有スキルによって森を探っていただきたく。できれば奇襲を仕掛けたいので、より気づかれにくい方法を用いたいのですよ」
なるほど。確かに彼女のスキルなら探っているとばれることはないだろう。万が一の時でも人的資源が失われずに済む。
「それぐらいなら構わないけど、私のスキルじゃ細かいところはわからないわよ?」
「構いません。詳細な情報は上がってきているので、その情報が信用できるかどうか知ることができれば十分なのです」
さらに数日後、魔族自体は見つからなかったものの、森の中に生物が入れなくなっている場所があることは分かった。
「持ち帰っていただいたサンプルから魔族の魔力が検出できました。どうやら魔族による魔法結界が張られていたようです。しかもかなりの高度な」
「ということは」
「魔族が何かを企んでいるのは間違いないでしょう」
まさか本当にいるなんて。正直なところ内心は不安でいっぱいだったけれど、それをなるべく表情に出さないようにする。勇者四人の中で最年長なのは僕なのだ。後輩たちを不安がらせないためにも、折れるのは僕が最後じゃなきゃいけない。
「それで、いつそいつの元へ行くんだ?」
そんな僕の心を知ってか知らずか、蓮はぶっきらぼうな口調でそう尋ねる。彼はこっちに来てからずっと不機嫌なままだ。まだ彼とは話せていないから、今回のことで仲良くなれたらいいと思っている。
「明日にでも。皆さまはもう準備ができておりますよね」
「はい」
といっても、必要なものはすべてメイドさんが用意してくれた。僕らはほとんどやることがないから、心の準備とかもそこまで気を付けなくてもいい。問題は
「えっと、奏音さん大丈夫?」
彼女の能力は支援に特化しているため、今回の遠征でも役割が振られている。明らかに顔色が悪いし、目に見えてわかるくらいに震えているのだけれど、本当に大丈夫だろうか?
そんな奏音さんは亜香理さんに連れまわされた結果、かなり垢抜けてきているような気がする。初めて会った時の暗い印象は薄れ、だんだんと警戒心の強い小動物に近づいている。これはいい事なんだろうか?
「厳しそうでしたら無理していただかなくても」
「い、いえ、やります。でも、そ、その」
「何? はっきり喋りなさいよ」
「はひゃっ! あ、えと、目隠ししてください!」
目隠し? 思わぬ言葉に思考が一瞬止まったのは先を急かした亜香理さんも同じだったみたいで、きょとんとした顔を浮かべている。
「その、ひ、人の顔が見えていると、うまく歌えないとおも、思う、ので」
何度もどもるためかなり聞きづらかった彼女の話を要約すると、人の顔を見ると緊張してしまうので見えないようにしてほしいとのこと。顔さえ見えなければ大勢の前でも大丈夫らしい。
「かしこまりました。ではそのように手配させておきますね」
南の森はそこそこの大きさを誇る広葉樹林だ。ただ、大きいとは言っても魔力だまりが少なく、危険な野生動物は奥のほうにしか生息していないため、ステータスを持つこの世界の住人にとってはそこまで危険なものではないらしい。
僕たちはそんな南の森へ足を踏み入れていた。騎士団や魔法師団、それに今回のために雇われた冒険者に囲まれながら歩くので、だんだん護送されている気分になってきた。
「勇者様は森を歩くのは初めて?」
「あ、いえ。訓練で何度か歩いたことがあります。まだ回数が少ないので、全然なれませんが」
「そうなのね。今回は歩きやすい道を選んでいるから、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
そう言われて自分の体がこわばっていたことに気づく。無意識のうちに感情が体に表れてしまっていたようだ。それに今日の森からは妙に嫌な感じがする。何もないといいのだけれど。
「ありがとうございます。レイアさん」
「いいのよ。私も昔はそんな感じだったからね」
彼女はレイアさん。普段は冒険者ギルドで受付を行っている元三級冒険者で、この中でも指折りの実力者だ。本来なら引退した身であるらしいのだが、国からの依頼ということで一時的に復帰したんだとか。身の丈より大きな大剣を軽々と担いで歩くので、見ていて頭がこんがらがりそうになる。
ドサッ。
「痛っ」
「……僕よりも奏音さんを助けてあげてください」
「……そうね」
どうやらまた転んだらしい。彼女は本当に大丈夫だろうか? 亜香理さんが駆け寄っていくのを横目で見ながら、僕たちは顔を見合わせるのだった。
「そろそろ目的地だ。魔法の準備をしろ。一気に畳みかけるぞ」
「「「了解!」」」
そうこうしている間にだんだんと嫌な気配が強くなってきた。そしてその時は唐突に訪れる。
「打て!!」
こちらの魔法使いたちが次々と魔法を放つ。何もない空間を進んだそれらは、あるところで見えない壁にぶつかった。
パリン
ガラスが砕けるような音とともに壁が砕け散る。その奥には魔力だまりの中心にたたずむ、驚いたような表情を浮かべる角の生えた男の姿が見えた。あれが、魔族。彼を見ていると心の底から妙な嫌悪感がわいてくる。そのためか、かなり人に近い容姿をしているにもかかわらず、まったく人のようには思えない。
「なっ、バレていただと?」
「総員かかれ!」
騎士たちが魔族に切り掛かる。このまま決着がつくかとも思ったが、現実はそうはうまくいかないらしい。
「奇襲程度で俺を討てると思うな。《デライズ・レブン・ウルゼオート》」
魔族が何かつぶやくと、彼の周囲の土が轟音を立てて吹き飛んだ。その衝撃はすさまじく、かなり距離をとっている僕らのほうまで巻き込まれた石礫が飛んでくる。
「っ!」
思わず腕で顔を守ってしまったが、想定していた痛みが来ることはなかった。
「ご無事ですか?」
見ると、レンデルさんが僕らの前に盾を構えて立っている。彼の盾からは光があふれ、僕たちの周りを薄緑色のドームで覆っているようだった。
「え、ええ」
「よかったです。どうやら、想像以上に大物が潜んでいたようですね」
戦場を見ると、魔族とともに無数の魔物が暴れているようだった。それに恐らく魔力だまりだと思われる場所から、次々にあふれ出てきている。
「というわけで姫島様、そろそろ支援をお願いできますか?」
「わ、わかりました!」
いつの間にか目隠しをしていたらしい奏音さんはそう返事をすると、一つ深呼吸をした。
「いきます。『聖剣召喚』」
その声と共に彼女の前に奇妙な形の一本の剣が現れた。剣の部分は空洞となっており、中には弦楽器のように幾本かの糸のようなものが張られている。その剣でなによりも特徴的なのは、その柄の先にマイクのようなものが付けられていることだ。剣でありながら、全体として音楽の道具のような様相を見せる聖剣、これが彼女の『唱剣クリスタ』だ。
「打合せ通りでかまいませんか?」
「はい。お願いいたします」
そして奏音さんはふっと息を吐くと、歌を歌い始めた。
「~~~~」
戦場に響き渡る力強い歌声に、体の奥底から力が湧き上がってくる。彼女の固有スキル『歌魔法』によるものだ。術者が歌っている間は歌の聞こえる味方全員に対してバフがかかり、かつ人数に応じた能力向上値の減少がないという中々にチートじみた能力で、まだレベルが低く一人に対する効果がかなり薄い現在ですらこちら側の兵力に勢いがつくほどだ。レイアさんなんか水を得た魚みたいになっている。
「やっぱりこのスキルって狡いわよね」
知らぬ間に隣に来ていた亜香理さんがそう告げる。彼女のスキルもなかなかだと思うんだけど。
「ちっ。まだ早いがやむを得んか」
どうやら奏音さんの参戦は魔族に対して焦りを覚えさせたようで、魔力だまりに対して何事かをしたようだ。
「不味い! 一度距離をとれ!」
「逃がすと思うか」
魔力だまりの発する光が徐々に強くなっていく。僕は猛烈に嫌な予感がして思わず逃げようとすると、
ごうっ
と、そんな音が聞こえた気がした。僕らは何もないはずの空間から飛んできた白い光にのまれる。そして、あたりが見えるようになった時には魔力だまりは消滅していた。
「え?」
今回はいくつか解説を入れておきます。
・魔力について
魔力は基本的には見ることはできませんが、魔力だまりのように密度の濃い魔力があると周りの空気など が薄く光って見えます。祐樹が見えていたのはこれです。
・魔族と魔物
魔族と魔物は全くの別物で、魔族に魔物を操る力はありません。ネタバレなので詳しくは言いませんが、今回はいろいろと仕掛けがあるのです。
・祐樹の実況
実は彼、こっそりと光属性魔法を使って望遠の魔法を使っていました。戦地から離れているにもかかわらず人物の判別ができていたのは、こういう理由です。
・謎の白い光
なんでしょうねえ?