第四話 冒険者リーナの受難
事実上の主人公の登場です。
優花は主人公(笑)なので……。
私の名前はリーナ。10級冒険者です。故郷の村で飢饉が起こって、追い出されるような形でここ王都へやってきました。日々街中で受けられるクエストをこなしてその日の食費を稼ぎながら、平凡な毎日を送れていると思っていたのに……。
「ねえねえ。魔物の討伐とかはしないの?」
「できませんよ! というかしたこともないです!」
「じゃあ薬草の採取とかは? ずっと街中にいて、冒険者としてそれでいいの?」
「どうして私を危険に追い込もうとするんですか!? 私は冒険がしたくて冒険者になったわけじゃないって言いましてよね!?」
拝啓、私が幼いころに死んじゃったお母さん。この幽霊連れて行って下さい。たすけて。
≪数時間前≫
霊感というスキルがあります。後天的に取得することができない珍しいスキルで、効果は『完全なる死者』を見ることができるようになる、というものです。精霊や不死者は魔力操作が上達すれば後天的にも見ることができるようになるらしいんだけど、魔力を持たない幽霊はこのスキルを持っていない人には一切見ることができません。私はそんな霊感スキルを持って生まれました。
幼い頃はそれはもう大変でした。物心つく前からこの世ならざるものが見えていた私は周囲の人から不気味がられ、お母さんが死んじゃった時なんかお母さんの魂についていこうとして死にかけたりもしました。今ではこの力との付き合い方にも慣れて、視界に映る霊たちにも反応しなくなっていたんですけど
「なんかヤバい霊がいる……」
え、何あの濃さ。周りにいるのは、精霊? 精霊よりも濃い幽霊ってどう考えてもおかしくないですか……。
見ないふり見ないふりって、うわこっち見ました。お願いです来ないでくださ
「ねえ。もしかして私のこと見えてる?」
ん? 今なんか空耳しました? と、その時私は思わず当たりを見回してしまったのです。幽霊の声など聞いたことがなかった私は、それがあの化け物の声だとは想像できなませんでした。わたしの大馬鹿!
「あ、やっぱり見えてる。こんなに早く霊感持ってる人を見つけられるなんて、今日はツイてるね」
「へ……。しゃ、しゃべったー!?」
あ、周りがこっち見ました。恥ずかしいです……。
******
「へえ、リーナっていうんだ。私は霊群優花。霊群が姓で、優花が名前よ」
「へ、ヘェ。ソウナンデスネー」
いやー、この世界にも霊感持ってる人っていたんだね。これで現世に対してちょっとは干渉できるようになるわ。
ちなみに彼女のステータスはこんな感じ
リーナ 人族Lv.1 状態:健康
筋力:78
持久力:80
魔力:51/51
抵抗力:62
(魂力:71/71)
スキル
霊感 料理Lv.3 荷運びLv.1
称号
なし
おそらくこれがこの世界の平均的な人族のスペックなのだろう。勇者はLv.1の時点でほかの人族より三倍近くステータスが高いのに、さらに成長補正もかかってるんでしょ? 将来すごいことになりそう。
「あの、初対面で部屋に勝手に上がり込むのってどうかと思うんですが」
「そんな生者の基準持ち出されても」
「そこは生死関係ないと思いますよ!?」
あー。こういうの久々だから、ちょっと嬉しいわ。幽霊っていうのは基本的に思考能力が弱いから、ボケても反応薄いのよね。
「まあいいです。ところで、どうして私は優花さんの声を聞くことができているんですか?」
ん? と思い彼女をよく見ると、
「私が声を伝えるのがうまいからだと思う」
「え?」
「リーナちゃんは特別目がいいみたいだけど、別に耳が聞こえないってわけじゃないんだよ。ただ、肉体の耳に比べて魂の耳が弱いから音を認識できなかっただけで。その点、私は他の幽霊に比べて声を伝え慣れてるから、リーナちゃんにも聞こえたんだと思う」
魂の扱いというのはなかなかに難しいものなのだ。
「なるほど?」
うまく伝わらなかったようだ。まあこればっかりは死なないとわからないからね。
「それよりさ、リーナちゃんは普段何してるの?」
「冒険者ですけど……」
冒険者! 異世界ファンタジーの定番じゃないですか!
「あれ? それにしては弱くない? レベル1だし」
「何で知ってるんですか!?」
あ。
「ぼ、冒険者って魔物と戦ったりするんじゃないの?」
知らん顔知らん顔。とはいえ、別にばれても大した問題じゃないんだけど。
「…………冒険者っていうのはですね」
彼女の話によると、どうやら冒険者というのは派遣に近いものらしい。街中での仕事もかなり多いようだ。リーナちゃんは食い扶持に困って冒険者になったくちで、可能なら街中の安全なクエストだけやっていたいんだとか。外へ行くことを誘ってみたが駄目だった。
「でもリーナちゃん。街中だからって安全とは限らないよ? 実際私は死んでるし」
日本の街だけど。
「うっ、実際に亡くなってる方が言うと説得力が段違いですね」
「でしょ。というわけでリーナちゃんは強くなったほうがいいと思うんですよ」
私と現世の橋渡し役になってもらうためにも。
「まさか私に魔物を倒せっていうんですか?」
「いやいや、それで死んじゃったら元も子もないでしょ。もっと安全な方法だよ。……滅茶苦茶痛いけど」
「え、ちょっとすごい不安なつぶやきが」
「えい」
ブスっ。
******
優花さん、いえ、あの腐れ幽霊はあろうことか私の目に指を突っ込んできました。
「あがっ」
「えーっと、ここをこうして」
ね、やめ、痛い、痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ………………。
気が付くと私は宿の床に倒れ伏していた。
「目が覚めた?」
心なしか優花さんの声がはっきり聞こえるようになっている気がします。それに何だか妙な違和感が。
「あ、今目は開けられないようになってるから。あと2時間ぐらいはそのまま我慢してて」
え?
「あと声もしばらく出せないと思う」
どういうことですか!? と聞こうとして本当に声が出ないことに気づきました。それにさっきから妙に肌がゾワゾワするんですよね。
「核は傷つけてないし、それ肉体との結合もいじってないからそのうち馴染むと思う。最悪うまく馴染まなくても再手術すればいいだけだしね」
再手術!? またあの痛みを経験しろと!? こいつは私に死ねっていうんですか!?
なんとしても早くちゃんと動けるようにならないと。魔物の前にこのヒトデナシに殺されてしまいます。とはいえ、どうすればいいのか全く分からないのでひとまずベッドへ向かいます。
「あれどうしたの?」
ベッドに行きたいんですよベッドに。身振りで説明したらうまく伝わったようで、ちゃんとベッドにたどりつくことができました。1日の中でいろいろなことがありすぎて疲労困憊だった私は、ベッドにたどり着くと同時に倒れるように寝てしまいました。
ちゃんと目覚めることができるのかすごく不安なんですが。
勇者召喚の一番の被害者は勇者でも魔王でもなくリーナかもしれません。