第三話 できること、できないこと、そしてできないこと
説明会です。
***は視点の変更を表します。
そんなこんなで四人の方針が固まったのを見届けた後、私は教会を徘徊していた。
そう。どうやらここはエリエス教というという宗教の教会だったらしい。お仲間(幽霊)を見ないと思っていたから納得がいった。私たちにとって神社のような神聖な場所というのは近寄りがたいものなのだ。私も例外じゃなかったはずなんだけど、どうして教会の中にいたのに全く気が付かなかったんだろう?
彼らと別れた理由は単純に一緒にいるメリットがあまりなかったからだ。私自身が質問することができない以上は書庫のような場所に忍び込んで本を読んだほうが早いし、それに情報を仕入れるためにも早くこの世界の霊に会いたいしね。最悪、分霊くっつけてるからあとで情報仕入れればいいし。
ちなみに別れる前にこっそりとラルファスさん達のステータスは覗いておいた。
ラルファス 人族Lv.57 状態:小崩壊
筋力:1577
持久力:1437
魔力:114/4841
抵抗力:2899
(魂力:11/2381)
スキル
奉仕Lv.8 祈りLv.8 体力小増強Lv.3 話術Lv.9 神聖魔法Lv.5 体術Lv.2 魔力大増強Lv.4 邪属性耐性Lv.5 聖属性耐性Lv.8 (召喚魔法Lv.15) 崩壊Lv.5
称号
奉仕者 枢機卿 愚者 勇者を呼びしもの
見ての通り触れたらダメな奴でした。私たちの召喚で魂をすり減らしたのか、私が見た限り彼の魂は相当ボロボロになっていた。彼の作ったような笑顔はどうやら痛みをごまかすためだったようだ。胡散臭そうとか思ってしまって、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「あの光が彼の魂を保護しているんだとすると、彼に召喚魔法のスキルを押し付けて私たちをここへ呼んだのと同じ存在かな」
私たちをここへ呼んだ人がああなっている以上、私はさておき他の四人は同じような状態になってしまう可能性が高い。今のところ伝える手段はないけれど、彼らのためにも早めにスキルとステータスに関する情報を仕入れたいところね。
とまあなんやかんやで思うところがありつつも、神官っぽい人たちの会話に聞き耳を立てることによってなんとか書庫らしき場所を見つけることができた。幸いにして人が少ないみたいだから、堂々と本を読むことができそう。
「さてと、スキルに関する本は……」
言語自動翻訳のおかげで文字は読めるみたいだったから、早速見つけた本を手に取る。手に取るとはいっても、私の手は飾りみたいなものだから実際は本の持っている霊魂に干渉しただけだ。
地球に存在するあらゆる物質には霊魂が宿っていて、私たち幽霊はそれに干渉することでものを少しだけ動かすことができた。いわゆる生物の持つ魂というのはこの霊魂が集まったものだ。この世界もそこは変わらないようで安心した。といっても物質同士の干渉に比べてかなり弱いから、私レベルで魂の密度が濃くても本を浮かせるぐらいがせいぜいだ。幽霊がいかに現世に干渉できないかがよくわかるね。魂に直接攻撃とかできないのかと思われるかもしれないけれど、肉体に入った状態の魂というのはいわば密封された器に入ったビーズのようなもので強度が段違いなのだ。ぶっちゃけ肉体を持たない私が全力で殴ると私の手が消し飛ぶ。
「え、私魔法使えないの? 自分のスキル見て嫌な予感はしていたけど、えー……」
何冊か本を読んでいるうちに称号の『完全なる死者』の意味が分かった。どうやらこの世界には不死者と呼ばれる魔物がいるらしいんだけど、それとの対比みたい。違いとしては「魔力を持っているか否か」で、霊魂のみで構成される、物質にも魔力にも触れることができない現世から切り離された死者のことを『完全なる死者』と呼ぶらしい。つまり私はちょっと人を脅かすことができるだけの無能ということだ。
おいコラ責任者出てこい。
あと流石は教会の書庫というか、この世界の神話についてもよく分かった。エリエス教が信仰しているのは人の守護神こと聖神らしい。エリエスというのはこの世界の古い言葉で「神聖な」という意味だそうだ。この聖神と対になっているのが魔族の崇める邪神。魔王の親玉だ。そしてこの魔王を打ち砕く聖神の眷属を勇者と呼ぶらしい。魔王と戦う以前の問題の私からすると、「あ、そう」という感じだけれど。
「ふむふむ。聖属性には霊を成仏させる効果があると……。ということは私がここにいても平気なのって聖属性無効のおかげだったのね。え? 私無敵では?」
まず誰かと敵対すること自体がほとんどないけどね!
さて、ここで調べられることは大体見れたと思う。残念ながらここには勇者の能力に関する記述はないみたい。まあ国家機密扱いされてるだろうから、こんな普通に入れる感じの書庫にはないよね。
というわけで勇者のみんなのところへやってきました。ラルファスさんの魂がなんか光っているから見つけるのは簡単だった。壁を通り抜けて最短距離で来ましたとも。といっても彼らにくっつけてた分霊を回収しに来ただけだけどね。さーて、ちゃんと情報の記録してるかな……?
「では僕たちはこれから王城に向かうっていうことですね?」
「ええ。その通りです勇者様方」
「私こう見えてもお城マニアですのよ。お眼鏡にかなうかしら?」
「んなこと知るかよ。早く行くぞ」
なるほど。勇者のスキルは成長補正をしたり、攻撃に魔族に対する特効効果を付与したりするスキルなのね。そして聖剣召喚はそれぞれの勇者の個性にあった聖剣を呼び出すスキルと。聖剣を使えば現世に干渉できるようになるかも!
……期待しないほうがいい気がしてきた。
考え事をしていたらいつの間にか勇者たちはいなくなっていた。もうどこかへ行ってしまったらしい。全くせっかちなことだ。生き急いでも良いことないのにね。
ここにいてもすることがないので再びラルファスさんに纏わりついている光を追いかける。
「わあ」
私はこの世界にきて初めて外を見た。中世ヨーロッパのような街並みに、道を走る見たことのない生物。街を行き交う人々の服装が綺麗なのはここが教会のすぐそばだからだろうか? もしかするとここは貴族街というやつなのかもしれない。そして極めつけは大通りの奥に鎮座する巨大な建造物。おそらく王城だと思われるそれは幾本かの塔に囲まれ、天守閣は街を見下ろしていた。
「やっぱり初めて見る景色に感じる感動は一入大きいわ。まああそこは例外だけど」
もう勇者とかどうでもよくなった私は街をフラフラと飛ぶ。
「なんだ姉ちゃん。見ない顔だな」
「最近ここに来たのよ。しばらくよろしくねー」
教会から離れると普通に幽霊がいたので、適当に挨拶を交わしながらいろいろと見て回る。幽霊は一般的に生前よりも土地にこだわる人が多いから、生前よりも引っ越しの挨拶が大切だったりするのだ。
「なにおまえなにおまえ」「へんなかっこう」「まりょくないよ」
とか言っていたらなんか変なのに絡まれた。薄く緑色に光る、小鳥?
「初めまして。私は優花っていうんだけど、えっと、あなたたちは?」
「かぜ、かぜ」「せいれい」「かぜのけしん」
ほほう。彼らが精霊というものなのね。教会にあった本によると、この世界には精霊というものが広く生息しているらしい。なんでも強大な魔力を持ち、様々な自然現象を引き起こしているんだとか。
名前なし ルーリアLv.12 状態:正常
筋力:‐
持久力:‐
魔力:8022/8471
抵抗力:8599
(魂力:8513/8513)
スキル
精霊Lv.2 風属性魔法Lv.8 風属性無効 風の噂
称号
下級風精霊
一匹? 一人? だけステータスを覗いてみたけど、なるほど。下級でも勇者召喚を行える術者のラルファスさんと比べて相当魔力多いみたいね。ファンタジーの定番としても流石精霊といったところかしら?
***
「なんかヤバい霊がいる……」