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第二十五話 魔族の青年

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 近くに魔族がいる。


 そのことに気づいた私たちは、街道の真ん中で立ち往生していた。私的には無視するのが難しいけれど、リーナちゃんのことを考えると無暗に突っ込んでいくわけにもいかない。


「えっと、どうするんですか?」


「うーん……。少しだけ近づいても良い? 今は遠すぎてほとんど感知できないから」


「もちろんです」


 少しづつ奴に近づいたところ、すぐに違和感に気がついた。


 魔族の存在が衝撃的過ぎて最初は気が付かなかったんだけど、そいつの周りには複数人の人族がいたのよ。しかも険悪な感じというわけでもなく、少なくとも表面上はお互いにリラックスしている様子だ。


「なんで……?」


 ナンデセイシンサマノシモベガジャシンノケンゾクトイッショニイル?


「ひっ」


 待て。落ち着け私。思考を飲まれるな。急に勇者スキルからのノイズが大きくなったから、一瞬レジストに失敗してしまったみたい。……やっぱりこのスキル相当厄介ね。


「怖がらせちゃってごめんね」


「い、いえ」


 また威圧耐性のレベル上がりました、とボソッとつぶやく隣の少女。本当に申し訳ない。


 ん? あいつ、こっちを見てる? 今ので気づかれた? いやいやまさか、そそ、そんな都合のいい話がそうそうあるわけ……。


「あ、嘘。こっち来るの?」


「へ?」


「り、リーナちゃん。魔族がこっちに向かって来てるみたいだけど、どど、どうしよう?」


「え、あ、えと、その……む、迎え撃ちましょう!」


「そ、そうだね! 迎え撃とうか!」


 この時私たちは完全に混乱していたと思う。私はスキルからのノイズで思考力が大分落ちていたし、たぶん私が慌てちゃってたせいでリーナちゃんも混乱しちゃったんだと思う。


 まあそんな感じで、私たちは警戒しながら村の方向へと進んでいった。今から思えば、私たちはあの時かなり運が良かったと思う。もし相手が私たちに敵対的だったならば、私の存在が魔王に知られてしまうってことなんだから。





「お前、いや、()()()()はいったい何者だ」


 私たちの目の前に現れたのは18,19程度の年に見える魔族の青年だった。この辺りでよく着られている簡素な民族衣装を身にまとい、警戒心むき出しの目で私を見つめている。


 あー、やっぱり見えてるのか―。そっかそっかー。


「あ、怪しいものじゃありません! べ、別に魔族さんを迎え撃とうなんて思っていませんよ!」


「……なんで私が魔族だと知っている」


 リーナちゃん……。仕方ない。ここは私が一肌脱ごうじゃないか。


「人に素性を聞くときにはまず自分からだよ、ライヒム君?」


「っ!」


 あ、思いっきり警戒心が跳ね上がった。うーむ、ここからどうしようか?


 セ……ゾクハ…………ロセ……。


 あーはいはい。うるさいうるさい。今は少し引っ込んでなさい。


「……私はライヒム。魔人族だ」


 おろ? 意外と聞き分けがいいね。まあ、私っていう存在がいる以上、下手な手は打ちなくないのか。実際は私にできることってあんまりないんだけど。


「これはご丁寧に。私は霊群優花。この子の、まあ、守護霊みたいなものね。で、こっちの可愛い子はリーナちゃん。六級の冒険者よ」


「それだけの気配を放っておいて、その説明で納得できると思うか」


 そもそも言葉を話す幽霊自体初めて見た、と呟くライヒム。ふぅむ。この世界の霊感持ちは霊の言葉を聞くことはできないのか。


「そう。別に納得してもらう必要はないけど?」


「それは」


「にーちゃん、そのひとしりあい?」


 !? わ、私としたことが、子供の接近に気が付かないなんて。ダメだ。冷静ぶっていても完全に知覚能力が低下していた。これじゃあ隣でオロオロしているリーナちゃんのことを言えない。


「キール!? 村の外は危ないから出ちゃダメだって言っただろ!」


「だって、にーちゃんがきゅうにむらをでてっちゃうから……」


 急な部外者のご登場で完全にやる気がそがれちゃったわ。なんか、こういうのを見ると警戒していたのが馬鹿みたいね。


 …………ゾクトシタ………ドモヲ………セ…………。


 黙れ。スキルごときが私に命令するな。


 頭中に鳴り響くノイズを強引に無視して、ライヒムとキール君から眼を逸らす。視界に入れているとノイズがうるさくて仕方がない。


「あ、あの。キールさん」


「なにおねーちゃん?」


「その人は魔人族ですよ? その、怖くないんですか?」


「どうしてこわいの?」


「どうしてって……」


 こんな辺鄙な村では聖神教の教えや魔族との戦争の影響が少ないと、そういうことなんだろうね。元日本人の感覚としては、この子の気持ちは良ーくわかる。


「あーもう仕方ない。そこの幽霊と、リーナ、だったか? もし私に敵対心がないのだったら、少し村で話をさせてくれないか?」


 私たちは予想だにしない提案に、思わず顔を見合わせてしまったのだった。







 私たちが案内されたのは村の中央にある一回り大きな家だった。どうやら村長の家らしく、彼女を交えて話をしてくれるらしい。取りあえず私は思考が暴走するといけないので、エーレタイトのペンダントにすっこんで話だけ聞くことにする。


「どうして魔人族である私がこの村で馴染んでいるのか、気になっているのだろう?」


「ええと、はい。もし失礼でなければ、お聞かせ願えませんか?」


「村長」


「構わぬよ。そもそもお主のことじゃ。儂に聞かんでもええ」


 彼の話によると、彼はある目的のために人族のような精神を信奉する種族たちの土地、魔族の間では聖神の領域と呼ばれているらしい、を訪れていたのだが、ある日偶然先ほどの少年キールを助けて以来、この村の住民たちと交流するようになり、いつの間にかすっかり村の一員になっていたのだという。


「その目的って……もしかして、この国に魔物を大量発生させる、とかじゃないですよね?」


「そんなわけがないだろう! 私はこれでも貴族なのだ。民の命を削るような禁呪などっ」


「きっ!?」


「あ」


 あ。


「おやまあ」


「きき、貴族様!? だ、大丈夫ですか? 処刑とかされません?」


「そ、そんなことするか! そもそも私はお忍びだ!」


 いやそういう問題じゃないと思う。


 それにしても。リーナちゃんが『禁呪』の部分を聞き流してくれたみたいでよかった。この子には魔物の大量発生のために多くの命が使われたことは伝えていないからね。あんなことは私が知っていれば十分だ。


「ねえライヒム?」


「っ! な、なんだいきなり」


「リーナちゃんには魔物の大量発生に魂が使われたことは黙っていてくれない? その理由は、同じ霊感持ちのあなたなら分かるでしょ?」


「お前はいったいどこまで知って……。いや、分かった。そこは伏せておこう」


 これで良しと。それにしても、アレはもし知られれば相当な反感を買う事実だから、魔族の中でもかなり権力がある人しか知らないと思うんだけど、こいつもしや結構偉い? ……いや、それはないか。そこまで高いステータスでもないし、なにより『魔王の眷属』スキルが存在しない。


「逆だ」


「逆、ですか?」


「ああ。私は種族間のこのくだらない代理戦争を止めるために聖神の領域を訪れたのだ。決して魔王様、いや、邪神のために来たのではない」


 はは。邪神のためじゃない、か。神様を呼び捨てにするなんて随分と大きく出たね。


 それから語られた内容はあまりにも衝撃的で、そして私にとって都合が良すぎるものだった。嘘をついている様子もないし、そういうことなら協力してもいいかもしれない。


 ただまあ、いきなりというのもなんだし、本当に信頼できるのかどうか少し見極めさせてもらう必要はありそうね。


「ねえリーナちゃん。お願いがあるんだけど……」


「それは……。いえ、分かりました。優花さんが言うなら危険なことはないんでしょう」


「ごめんね。また帝国までの道のりが伸びちゃった」


「それぐらい大丈夫ですよ。それに、私も少しワクワクしているんです!」


 リーナちゃんが楽しそうで私は何よりだよ。


 私たちはライヒムと村長さんに頼み込み、少しだけこの村に滞在させてもらうこととなった。


 ちなみに、ステータスのお陰で荷運びがやたらと得意になっているリーナちゃんはあっという間に村に受け入れられた。まったくもって現金な奴らだ。

というわけで暫く村にお世話になることになった優花たち。


果たして優花はスキルに抗いきれるのか、そしてライヒムの素性とは? 次回、『勇者スキル(仮称)』へと続きます。

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