第十九話 防衛戦2 異変
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今回は長めです。戦闘メインのはずなのに、どうしても会話ばかりになってしまいます……。
「流石に疲れました……」
数時間の先頭の後、私たちは1度控えの人達と交代をして体を休めることができていた。
「かなり多かったからねぇ。でもその代わり、レベル1個上がったじゃん」
「だからなんで知っているんですか」
あっはっは。
「まあでも、このままいけばもう波も半分過ぎそうだよ? あとちょっとの辛抱ね!」
「本当ですか!? それを聞いて安心しました」
視線の先では相も変わらず魔法が飛び交い、視界に移る霊魂の量が目まぐるしく変化している。別に壁の外で休んでいる訳ではない。単に透視をしているだけだ。
おや? どうやら顔見知りが来たみたいね。
「アーシャさん!」
彼女に気づいたリーナちゃんが手を振る。そちらを向くことなく存在に気づけるとは、日常でもシン・霊感を使えるほどに慣れてきたのか。良い事だ。
「リーナ! 活躍上から見てたよ! なんかこう、すごく、すごかった!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねながら感情を露わにするアーシャちゃんに、まさか賞賛されるとは思いもよらなかったであろうリーナちゃんは顔が真っ赤だ。可愛い。
「そ、そんな、相手は小鬼とかですし」
「それでもだよ! くーっ、私も前衛選べば良かったなぁー」
反応がクルト君に似てる。物心ついた頃からの幼なじみということだし、感性が近いのかな?
「あ、そうだ! クルト探しに来たんだった! どこにいるか知らない?」
あ、リーナちゃんこっち見た。こりゃ完全に困った時に私を見る癖ができてるな? いや、お姉ちゃん的には嬉しいんだけどさ、ね?
それより今はクルト君だ。あー、彼はねぇ。
「私たちと入れ替わる感じで戦場に戻ったよ」
「えと、その、クルトさんならもう行っちゃいました」
「えぇ〜、せっかく来たのにー。まあいいや、じゃあ代わりにカレンの所行こっと」
またねー! という声を置き去りにしながら、彼女は走り去っていった。
え? 休憩じゃなかったの……?
「……カレンさんのところに行ったらまた怒られるんじゃ?」
「そこはほら、お約束だと思うよ」
私も比較的騒がしい方だとは思っていたけど、やっぱり彼女には勝てる気がしない。
はい休憩終わり! 第二ラウンド開始! ここからが本番よ!
魔物の進行は現在が丁度ピークとなっていて、前線の方では探知範囲を広げずとも視認できるほどの激しい戦いが繰り広げられている。当然ながら彼らには雑魚を相手にする余裕はなくなってきており、後方の私たちの元へやってくる魔物の数も一層増えていた。
「視界に入る敵をすべて相手にしていたらキリがなさそうですね」
「うん。だから私たちはバフを使っている魔物を優先的に倒したほうがいいと思う。私がマーカーを付けておくから、リーナちゃんはそいつらを狙って」
魔物の中には強化系の魔法を使用できる存在はいる。厄介な存在ではあるが、逆にいえばそいつらをつぶせば少しは楽になるというわけだ。私には魔力を直接見ることはできないが、奏音ちゃんの魔法を見ていたおかげでバッファーの特定が可能なのだ。ありがとう奏音ちゃん。あとついでにあの魔族も。
霊感によって攻撃がどこから来るのかが見えている以上、自分よりも遅い攻撃にあたるはずもなく、魔物の壁を縫って的確に目的を切り伏せていく。周りにいたバッファーを減らしたおかげか、少しばかり魔物の動きが落ちてきた。
「軽くなった、やあっ! とはいえ、はっ! 少し、とりゃ! 潜り込みすぎ、邪魔! ました!」
「切るのか喋るのかどっちかにしようね。まあでも、心配はいらなさそうだよ?」
ごうっ、という音とともに、魔物の一角が吹き飛んだ。これは流石といったところか。伊達に最後の砦をしているわけじゃないみたい。
「大丈夫か!?」
「はい! せりゃっ! ありがとうございます!」
「それはよかった! 取りあえずいったん下がるぞ!」
助けに入ってくれたのは後方で控えていた『さざ波』の剣士の人。名前は……。
「まずはお嬢ちゃんが無事で何よりだ。そうそう、自己紹介がまだだったな。おれは四級冒険者のヘイムだ」
「本当に助かりました。私はリーナです。改めてお礼を言わせてください」
ヘイムさんっていうのか。ステータスは3000ほど。うん強い。リーナちゃんが単身で魔物の中に飛び込んでいったのを見て、慌てて救出しに来てくれたらしい。
……いやまあ、来ているのが分かったから突っ込ませたんだけどさ。
「リーナはどうしてあんな無茶を?」
「魔物の中に強化魔法を使用しているものがいたのでその数を減らそうとしたんですが……その……」
あ、この目は私の考えがバレている眼だ。でも、私はリーナちゃんを危険にさらした覚えはないよ? 現に今も無傷でいるわけだし、最悪の場合にも軽いけがで済むようなことしかさせていないからね?
「ああなるほどな……って待て、強化魔法を使っている魔物がわかるのか?」
「ええと、一応は」
バフを使うからと言って、魔物の見た目が大きく変わることはない。一応ほんの少しだけ見た目に差はあるようだが、こんな混戦で見分けるというのは不可能に近い事だろう。というより、そもそも魔物に強化がかけられていることに気づいている人自体が少ないみたいだし。
「本当か!? それなら少し協力してもらいたいんだが、構わないか?」
「え? あ、はい! 勿論です!」
毎回私に確認を取るような視線を送るの可愛い。
会話をしながらもヘイムの手は止まることはなく、小鬼の群れを吹き飛ばし、石くれ数体を一刀両断し、ミーアキャット似の魔物を一蹴している。オーバーキルが酷い。しかも驚きなのは、この人これでも状態:疲労(中) なのだ。そう考えると、彼と同レベルの人が大怪我を負ったという魔物の大量発生時はよほど恐ろしい状況だったらしい。もし私たちがそんな状況に直面したらと思うと、ゾッとするね。
彼に連れられてやってきたのは壁のすぐ近く。ここも魔物が寄り付くことができないようで、あたり一面に魔石が無造作に打ち捨てられていた。
「お、ヘイムちゃんと……そう、リーナちゃん! 二人してどうしたの?」
「え? どうして私のことを知っているんですか?」
「ハセって知ってるでしょ? 僕彼と知り合いなんだー」
ハセさんというと、あの行商人か。どうりでリーナちゃんのことを知っているわけだ。まあかなり気に入られたみたいだし、たぶん世間話かなんかで話題に出たんだろうね。
「僕はアウレムっていうんだ。よろしくー。で、どうしたのよヘイムちゃん。もしかしてナンパ?」
「違うわ! 彼女が強化魔法を使っている魔物の位置がわかるらしくてな、お前と協力すれば一掃できると思って」
「ほほう。そりゃ面白そうだね! で、リーナちゃん、そいつらはどの辺にいるの?」
「あ、え、ええと、まず北北東15メートルの位置に一体、それから……」
「おっけー、それじゃ行くよー」
その声と共にアウレムの周りの霊魂が渦を巻き始める。さらに周りに打ち捨てられている魔石からも霊魂が吸われ、彼を中心に大きな流れが出来上がった。
「《ヴァンス・アカート・フィーテム》」
力ある言葉と共に彼の上空に出現したのは無数の水でできた巨大な刃。かなりの魔力が込められているのか、リーナちゃんの作る風の刃とは霊魂の濃さも大きさも段違いだ。
「行け!」
その声によって一瞬動きを止めた水の刃は、直後、標的へと向かって真っすぐに飛び立った。目的地へと着弾した水の刃は、地面に接触すると同時に爆発を巻き起こし、バッファーの数を一気に減らす。
彼のおかげで魔物の勢いが弱まった今をチャンスと見たのか、冒険者たちが一気に攻勢へと転じる。八、七級と言えど何度も魔物と戦ってきた彼らにとって、戦闘中の魔物の隙は絶好の攻撃チャンスらしい。大勢の味方のおかげで、私たちの作りだしたチャンスが後方の流れを大きく傾けたのだ。
「いやいや待て待て待て。なんだ今のは。明らかに第六階位の範疇じゃなかったぞ!」
「ヘイムちゃん。魔法ってね、魔石を使うと威力が増すんだよ?」
「おまっ、まさか、このあたりの魔石を」
「使っちゃった」
キラン、という音が聞こえてきそうないい笑顔でヘイムさんに笑いかけるアウレム。うん。見事に何も見えなくなっているね。明らかに彼が自分で討伐した以上の魔石を使ってる。新人たちにどう説明するんだよぉ、とヘイムさんは頭を抱えている。その……どんまい?
「わ、私は気にしていませんから!」
「そんなカリカリしないでよ。ね、リーナちゃんもこう言っている事だし」
「お前はちょっとは反省しろ!」
後方に関してはもう問題なさそうだ。あとは前線の冒険者や兵士たちが、あの強力な魔物たちを討伐すれば、この攻防戦が終わる。そう思った矢先のことだった。
ゾクッ
「リーナちゃん! 急いでここから逃げて!」
「皆さん! 警戒してください! 魔物が湧きます!」
私がリーナちゃんに声をかけたのと、彼女が叫んだのはほとんど同時だったと思う。
どうしてこう、世界はうまくいかないのだろうか。死んだ時以来しばらく感じていなかった理不尽さを久しく感じる。ああ、本当に、世界は不条理だ。
私たちの目の前に広がっていたのは、何の前触れもなく発生した魔力だまりが、その範囲を徐々に広げる光景だった。
順調であった攻防戦。あと一歩で戦いが終わるかと思われた矢先、史上最高のピンチが訪れてしまいました。
果たしてリーナはこの試練を切り抜けることができるのか、そして優花は彼女を救えるのか。攻防戦3に続きます!




