第十六話 昇級試験
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「やっと終わりました……」
「お疲れ様ー」
今日は冒険者ギルドにリーナちゃんの昇級試験を受けに来ていた。今やったのは冒険者として必要な最低限の知識と技能の確認だ。実のところ、こういった基礎的な内容に関しては七級が最も難しいらしい。この先は実力がものをいう世界ということだ。
あ、もちろん私はカンニングの手伝いとかはしていないよ。流石に命に関わりかねないことだからね。
「それで、残すところはギルド指定の依頼を一つこなすことですか」
「それで、どんな依頼だった?」
「えーっとですね、鉱山での蝙蝠の間引き、ストーンゴーレムの魔石収集、あとはラセットガゼルの肉の納品の三つから選ぶみたいですね」
ふーむ。三つのうち得意なものを選ぶってことか。蝙蝠の間引きに関しては暗い中で空中を飛ぶ蝙蝠を討伐する手段が要求される。魔石収集はゴーレムに攻撃を通せるだけの火力が必要で、肉の納品は平原を逃げ回るガゼルを狩れるだけの技術が必要、って感じかな。
「その中だとゴーレムが一番相手しやすいんじゃないかな? アレディアがあれば攻撃は通るだろうから、鈍重な相手で一番処しやすいと思う」
「確かにそうですね。そうしましょう。それじゃあ受けてきます」
ゴーレムねぇ。問題はないと思うけど、念のためちょっと見てみるか。
おっ、はっけーん。そのまんま石の人形が歩いているって感じの見た目なんだ。実際は魔力の塊だから本当に見た目だけだけど。うん。実際に見ても大した相手じゃないね。これなら私のサポートがなくても余裕でしょ。
「あ、帰ってきた」
「無事に依頼受けられました! もう行っちゃう感じで良いですか?」
「うん。距離的に考えても十分今日中に間に合うよ。魔力だまりの場所はもう見つけてあるから案内するねー」
というわけで、所変わってコレット鉱山に来ております。コレットの街の近くにある鉱山で、ここでは魔力を含んだ鉄などが多く産出されている。普通の鉱山であれば冒険者が立ち入ることはないんだろうけど、ここに関してはいたるところに魔力だまりがあるから冒険者の入りも多いみたい。
「森と比べると岩山って歩きやすいんですね。ここに慣れちゃうと後々苦労しそうです」
「あはは。確かに地面の状態って大事だよね」
「優花さんってずっと浮いているのに、地面とか関係あるんですか?」
「大有りだよ。実際のところ、浮いているよりも地面に立っていたほうが体は動かしやすいんだよね」
「そうなんですね。あれ? それじゃあなんで浮いているんですか?」
「そこはほら、ロマンってことで」
なんて会話をしながらも警戒は怠らない。リーナちゃんも探知をしながら雑談できるようになったみたいで、私は嬉しいよ。
魔物や危険な獣、ついでに人の反応も避けつつ進んでいるから、まったく危険な目に合うこともなく目的地へと到着した。うん。今のところ誰もいないみたいね。
「あれがストーンゴーレムですか。思っていたよりも大きいですね」
「見た目だけはね。ほら、来るよ?」
リーナちゃんに気づいたゴーレムがこちらへと走ってくる。図体が大きい分迫力満点だ。石人形はそのまま腕を振り上げ、
「せいっ!」
振り下ろす前に足を切りつけられてバランスを崩した。やっぱりこいつ遅い。これ私の実況いる? え? おとなしくやれ? あ、はーい。
リーナちゃんはその後も石くれの攻撃を避けつつ何度も足を切りつけるが、あまりダメージが通っていない様子。なんか再生してるし。削れていないわけじゃないみたいだけど、霊魂量に比べて何か……。
「あ。リーナちゃん、一回下がって」
「分かりました!」
バックステップで石くれから距離を取るリーナちゃん。短い期間で随分と身体を動かすのが得意になったね。ステータス補正ってすげー。
「思ったんだけどさ、ゴーレムって石の塊じゃん。実際は魔力の塊とはいえ、動いている石の手足を切り付けたところで倒せると思う?」
「確かにそうですね。今だって魔力を削れてはいるみたいですけれど、このままだと魔力が尽きるまで動きそうです」
小鬼とかの動物型の魔物はまともな動物なら死ぬような傷を与えれば勝手に魔石になって倒れていた。じゃあゴーレムのような無機物型の魔物が倒れるラインってどこだって話なわけよ。魔精? あれはまた別枠だから……。
「というわけで調べてきました」
「ア、ハイ」
「なんでもゴーレムはコアなるものをつぶせばいいらしいよ。私には見分けがつかないけれど、胸元に埋め込まれている少し色が違う石らしいよ」
正直ちょっと舐めすぎていたかもしれない。どんな魔物相手でも予習を怠っちゃだめだね。
「なるほど、あれですね。では」
石くれから距離を取りつつ話を聞いていた彼女は今の説明で合点がいったご様子。奴の足を切り落とすことで巨体を引き倒す。
「これで、とどめです!」
胸元に突き立てられた剣から霊魂が噴出す。いつものように、霊魂に無駄が出ないように結界を張ってリーナちゃんに吸収させる。
「……やっぱりズルくないですか?」
「ズルじゃないズルじゃない。わたし、ゲームのバグ技はできるように作った製作者が悪いと思うタイプなんだよね」
「何の話ですか……」
それはさておき、残された魔石を見る。これやっぱり……
「小さいですね」
「小さいねぇ」
小さい。これじゃあ八級相当の魔物と大差がない。もしや最初に削りすぎた??
「ね、念のためもう一匹狩っておこうか」
「そ、そうですね。魔物なので多少狩りすぎても問題ないでしょうし」
そうと決まればレッツたーんち! この辺りにストーンゴーレムはっと、あー、今は人がいる狩場にしかいないみたいだね。しかも孤立した個体はいないと。私たちはちょっとばかし成長が早すぎるから、なるべく戦っているところを見せる人数は少なくしておきたかったんだけど、まあ仕方ないか。どうせこの街はそのうち離れる。
「あっちの方に何体かいるみたいだよ。ほかにも人がいるから、奪い合いにならないように注意しないと」
「みなさん結構簡単に倒していますね」
「そうだねー。弱点さえ知っていれば本当に雑魚なんだろうね」
よしゅうだいじ。わたしおぼえた。あの場所では情報も何もあったもんじゃなかったけど、この世界ではちゃんと先人の知恵というものがあるのだ。
「あ、あれって」
ふと、リーナちゃんが何かに気づいたようなので視線の先を見ると、彼女と同じくらいの年の子たちが丁度ストーンゴーレムを倒すところだった。
「知り合い?」
「はい。試験でたまたま一緒になった人たちです。彼らも同じ依頼を受けていたんですね」
「へー」
私は彼女が試験を受けている間、集中を乱さないためにペンダントにすっこんでいたから一緒に試験を受けた人とか見ていないのよね。
ステータスは平均300程度か。パーティとしての七級であればこんなもんだろうなというステータスだ。年齢も考えるとそれなりに優秀なほうなんだろうけど。
「今朝ぶりです。カレンさん、アーシャさん、クルトさん」
「あ、えっと確か……。」
「リーナだよ、アーシャ」
最初に反応したのはアーシャという人らしい。快活そうな子だ。そして彼女をこそっとサポートした利発そうな少女はカレンというそうだ。
「それ! リーナもゴーレムの魔石収集の依頼を受けたの?」
「はい。ここで狩ろうかと思いまして」
「そうなんだ! 頑張ってね!」
じゃあねー! という声と共にあっという間にカレンちゃんを引っ張って行ってしまうアーシャちゃん。せわしない子だな。元気があっていい事で。
「あ、待てお前ら! ……なんかアーシャが悪かったな」
「い、いえ」
最後の一人はクルト君。女子二人に置いて行かれた哀れな男の子だ。ご丁寧に荷物までおいて行かれている。これが男子の宿命というやつなのだろうか。
「あー、俺ももう帰るけど、リーナもしっかりと依頼を達成して来いよな。応援してるぜ」
「ありがとうございます。勿論達成しますよ!」
彼も帰った後は難なく石くれを倒し、無事に進級することができた。
それにしても、王都では同年代の子と喋っている様子がなかったリーナちゃんだけど、こうして別の街で知り合うことができてよかった。彼女も楽しそうだし、修行を兼ねてもう少しだけ滞在予定期間を延ばしても良いかもね。
リーナの動きがよく見えるのはそれだけゴーレムが遅いからです。
装甲を貫ける手段あれば、ストーンゴーレムは本当に雑魚な魔物なんですよ。要するにチートアイテム(聖剣)のせい。




