第十三話 未練
パソコンとchromeの不具合で更新が遅れてしまいました。申し訳ありません。
今回の話は若干短くなっています。
「それで俺たちのところに来たって訳か」
冒険者ギルドでパーティ『岩牙』を見つけることのできた私たちは、早速彼らに声をかけた。少し渋っているようなので、駄目でしょうか? と、リーナちゃんが不安げに尋ねる。
「普段であれば俺たちも後輩のそういった頼みは断らないようにしているんだが、今はちょっとタイミングが悪くてな」
「実は私たち、今ちょうどある護衛依頼を受けているところなのよ」
だから1週間以上は王都を離れることになるわ、とコリーナさんが言う。あー、確かにタイミングが悪い。あと数日早ければすぐに教えてもらっていたようだ。最近はリーナちゃんにつきっきりで情報収集を怠っていたのがあだになったみたい。
「そうなんですね。そういうことなら私も無理にお願いは……」
「いや、ちょっと待て」
「どうしたんだリジル?」
「こいつを一時的にパーティに入れるのはどうだ?」
「え!?」
おや?
「お前たちも知っているように、リーナの索敵能力には目を見張るものがある。護衛依頼で大切なのはいかに外敵を避けることができるかだ。斥候の俺としては感知系スキル持ちの彼女がいると今回の依頼が遂行しやすくなるはずだ。これならついでに野営の方法も教えることができる」
おお。まさかこの前とっさにリーナちゃんを誤魔化そうとしたのが今になって生きてくるとは。グッジョブ一月半前の私! 褒めて進ぜよう。
「確かに言われてみればそうだな。以前に比べるとかなり体力もついてきているようだし、パーティに加えても問題はないだろうな」
「私も賛成よ。ねえ、リーナちゃんはどう思う?」
「えっ「ぜひお願いしますって言って!」と、えっ!?」
「ど、どうしたの?」
おっと、つい気持ちが流行ってしまった。あんまり人前では話さないようにしないと……。
「あ、すみません。なんでもないです」
きりっとした表情でそう告げるリーナちゃんに、何でもないならいいんだけど……と、若干変なものを見るような眼をするコリーナさん。ごめんリーナちゃん。謝るから私をつねろうとするのはやめて欲しいな。
「ま、すぐには決められないだろうから一時間後にもう一度ギルドで会おう。俺たちも一人人数が増えても問題ないかどうか依頼主に聞かなきゃならないしな」
ギルさんのその言葉と共にこの場は一度お開きとなった。
「急に話しかけるのはやめてくださいって、いつも言っていますよね」
「ごめんって。ほら、反省してるから」
あっ、視線が痛いっ。
でも、正直なところこれに関してはどうしようもない部分があるのよね。何せ私の、幽霊のアイデンティティなんだし。
生物は死んだ後、魂が肉体から分離するけど、その中でも幽霊になるのはほんの一部に過ぎない。それを分けているのは何かというと、現世に対する「未練」なのだ。ゆえに自然発生した全ての幽霊にとって「未練」は存在意義であって、それに逆らうことは決してできない。私の場合のそれは「もっと世界を見たかった」という思いだ。
生前の私は旅が好きだった。お父さんとお母さんに連れられてあちこち回って、とても楽しかったことを覚えている。そして、15歳で死んでしまったときはまだ少しも世界を見れていないことが悔しくて悲しくて、気が付いたら幽霊になっていた。だから私は自分の「まだ見ぬ景色を見たい」という気持ちを何よりも優先している。そのために現世にとどまっているんだもの。
「という感じだから、反省はするけど改善は難しいと思う」
「……そうだったんですね。知らなかったとはいえ、無茶なことを言ってすみません」
「ううん。伝えてなかった私も悪かったし。私もなるべくリーナちゃんを驚かせないようにするからさ」
「ありがとうございます。優花さんが今までやってきたことは、全部そのためだったんですね」
道理で私にやたらと冒険を勧めるわけです、とリーナちゃんはしみじみとつぶやく。あーうん。あの時の私は異世界に来たこともあってちょっとテンションが高くなりすぎていたかもしれない。
「そうなるのかな? あ、でもリーナちゃんのことが大事なのは本当だよ?」
本当に。ただの霊能力者としてではなく、友人として本当に大切に思っている。
「うっ。そ、そういうふうに急に好意を向けられると恥ずかしいです……」
はい可愛い。
「そ、それじゃあ一緒に依頼を受けたいってお願いしましょう!」
「いいの?」
「もちろんです。私もその、と、友達の心からの願いは叶えてあげたいですし……」
天使だ。天使がいらっしゃる。私が初めて出会った霊能力者が彼女でよかった。ちょっと心が広すぎる気がしないでもないけれど。
「改めまして、これからまたお世話になりますリーナです。よろしくお願いします!」
『岩牙』は依頼主さんから許可をもらえたみたいで、私たちは彼らのパーティに加われることになった。ちなみに報酬金は相談のうえ、一割弱をリーナちゃんがもらえることになった。八級で受けられる依頼と比べると妥当な額といった感じだ。
「ギルさん達の稼ぎが減ってしまいますけど、いいんですか?」
「子どもは大人を気遣わなくていいんだよ。それにこれでも普段より若干多いくらいだしな」
といいながら、リーナちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でるギルさん。うらやま、じゃなかった。出費を覚悟していただけに普通にありがたいことだ。このギルドは善人しかいないの?
「こらギル。女の子に乱暴しないの。ああもう、髪が乱れちゃって」
「お、おう。すまん」
うん。やっぱりこの二人が特に世話好きって感じかな。リジルさんは呆れた感じて二人を見ているし、ネイさんは我関せずって感じだ。というか、私ネイさんが喋っているのをほとんど見たことがない気がする。『岩牙』の面々がまったく気にしていないところを見るに、もともと無口な人なんだろう。
「そうだ。午後から出立の予定なんだが、旅に必要なものはそろっているか? 共有で使うものははこちらで用意するとして、最低限————が必要なんだが」
「あ、それなら揃っています」
ふっふっふ。リーナちゃんはいつでも冒険に出かけられるように準備させてあるのだ。そこに関してはこの優花さんに抜かりはない!
「よし。なら予定まで少し時間があるから、もう一度我らが後輩のために各自の動きを確認しておこう」
今回の護衛対象は小規模な商隊のようで、基本的にはリジルさんが索敵を、ほかの面々は商隊近くで警戒しておくとのことだ。
「リーナちゃんはこの時に感知系スキルで周りを見ていて頂戴」
「分かりました」
「もし実際に戦闘となったときには俺たちが戦うが、そのときは念のために依頼主の傍にいてくれ。あ、当然だが無茶はしないようにな」
まあ大丈夫でしょ。今回通るルートは比較的安全っぽいし、念のために私も警戒を最大にしておくから危険な輩がいれば余裕をもって回避できる。私は旅のためなら一切の妥協をしない!
……フラグじゃないよ?
「知らない土地を旅行(冒険)がしたい」というのが優花の「幽霊としての」原点となっていて、その目的達成のためには彼女は人の迷惑などあまり気にしません。
これは優花が特別に自己中心的というわけではなく、幽霊全般に言えることです。そもそも生きている者と死んでいる者では思考回路が全く異なるのです。
次回はいよいよ王都の外へ。ついに二人の冒険譚が(一応)始まります。




