第十二話 師匠ムーブ
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リーナちゃんに私が勇者であることを明かした後も、特に関係が変化するようなことはなかった。一時的に敬われたりはしたけれど、少し弄っていたらあっという間に元の態度に戻った。ちゃんと私の聖剣も使ってくれているみたい。
それにしても、今日はいつにも増して天気がいい。こんな暖かい日は外でのんびりとピクニックとかをしたいものだ。
「ね、リーナちゃんもそう思わない?」
「いま、はなし、かけ、ないで、くだ、さい!!」
息を上げながらだけど、反論できる元気はまだあるみたいね。うむ。この調子ならもうちょっとペース上げても大丈夫かな?
「あ、ちょ、はやっ」
レベルを上げてから数秒間後、リーナちゃんはあっという間に弾に飲み込まれてしまった。最初に比べれば随分と見切れるようになってきたけど、やっぱりまだまだだにゃー。
リーナちゃんは完全に体力を使い果たしてしまったようで、ぜえぜえ言いながら体を休めている。うーん、体力も付けたほうがいいし、そろそろ昇級試験受けさせたほうがいいのかな?
今やっていたのはちょっとした訓練だ。訓練内容は私がリーナちゃんに霊魂の弾を撃ち込んで、彼女がそれを剣ではじくというもの。普通なら霊剣の能力を使えない彼女が弾をはじくことはできないんだけど、そこは私の工夫だ。彼女が振るう剣に合わせてちゃんと弾が壊れるようにしてある。まあ主導のVRみたいなものね。ミスはないのかって? 私からすればリーナちゃんの剣なんて止まって見えるから問題ナッシングよ。
「疲れ果てているリーナちゃんに悲報です。北東から魔物。これは……鬼兎かな」
鬼兎、小さな兎型の魔物だ。動きが素早いが、リーナちゃんにとっては本来なら大した脅威ではない。ただ……
「はあ、はあ。え、いまです、か?」
「うん。一匹だけね。さて、リーナちゃんの今の体力じゃ逃げるのは無理な距離。かといって剣を振るのも厳しい。さ、どうする?」
体力を使い果たした今は別問題だ。ジトっとこちらを見つめてくるリーナちゃん。あっはっは。そんなにこっちを見つめても何も解決しないよー?
「ほらほら。早くしないともう来ちゃうよ?」
彼女はもう一度私をにらんでから深呼吸をし、集中を始めた。そう。それが正解。私みたいな幽霊と違って、生者は使えるリソースが三つもあるのだ。最悪体が全く動かなくても何とかする方法はいくらでもある。
「《ラ・ウル・フィート》」
力ある言葉とともに放たれた風の刃が、こちらに迫ってきていた兎の前足を切り裂く。最初に首じゃなくて足を狙ったのはポイントが高い。第一階位の魔法じゃ火力が低すぎて決めきれないからね。
その後数発の魔法を撃ち込まれたことで魔物は石になった。
「ふぅ」
「今日はもうこれぐらいにしよっか。日が暮れる前に帰るよー」
「……わざとですよね」
「はて? なんのことかな?」
うっ、視線が痛いっ。
「……なんでもないです」
「そう?」
そんなこんなで、今日の訓練は終わった。これだけ動けるようになったんだったら、そろそろ本格的に遠方の依頼を受ける準備をしても良いかも。
「もう七級の試験を受けるんですか?」
翌朝、私は街を出るための先駆けとしてリーナちゃんに昇級の誘いをしていた。冒険者は七級から四級までは、昇級にちょっとした試験が必要なのだ。一般的に七級からが一人前と呼ばれていて、遠方へ行くような依頼も受けられるようになる。私的にはいつまでも王都にいるつもりはないから、早いところ上位の冒険者になってほしいのだ。
余談だけど、三級以降はさらに冒険者ギルドや貴族、果ては国家元首からの推薦が必要となってくる。権利を手にするためには力だけでなく信用も大切なのだ。
閑話休題
「うん。リーナちゃんはいつまでも下級の魔物を狩っているつもりなの?」
「そういうわけではないんですが、ちょっと早すぎではないですか?」
「早いことはないよ。私が見てる限りだとリーナちゃんは十分いろんな場面に対応できているし、実際ステータスだけ見れば七級でも上位の方だし」
私式パワーレベリングのおかげで。最初は若干体の感覚が慣れていない感じがあったけど、その辺りは訓練をすることで治した。私はただ魂が多いだけじゃないのだ。
「そういうことなら……」
「よしじゃあ決まりね。というわけで、今日はお勉強です!」
「え? いきなりですか?」
冒険者だからといって勉強が必要ないわけではない。いや、むしろ冒険者だからこそ勉強が必要なのだ。素材や魔物、サバイバルの知識は身を守るために必要なもの。そのため最低限の知識を持っているかどうかが確認されるのだ。ちなみにそのあたりの知識はギルドで読むことのできる本にのっている。なお有料。
「戦闘は文句なしだからね。それにどうせ今日は筋肉痛で動けないでしょ」
「それは、はい。じゃあ今からギルドで本を借りるんですか?」
「いや、あそこに書いてあった内容は丸暗記したから私が教えるよ」
書いてあった情報を複写して私の魂に刻んである。今の私の容量は一般的な人の脳の三倍くらいあるから、いくらでも記憶し放題だ。
「……暗記したとかはともかく、いつ読んだんですか?」
「みんなの寝静まった深夜」
「犯罪じゃないですか!?」
「犯罪なんて、そんな生者の道理を持ち出されても」
私は肉体と法律から解放されているのよ! ……はしゃぎすぎてブラックリストに載ってしまっているけど。いや、過去は気にしない! 前だけ見るのよ私!
「? どうかしました?」
「別に何でもないよ。それより、早く始めてしまおうか」
「分かりました」
「じゃあまずは……」
「……です。」
「正解。うん。基本的なところは大丈夫そうね。あと問題なのは野営の仕方か。リーナちゃんは経験あるの?」
「村から王都に来るときに少しだけ。といっても私はほとんど何もしていなかったので経験がないのと同じですね」
「そっか。それに関しては私にも教えることができないからねえ。誰かに聞く?」
「そうですね。そうしようかと思います」
とはいえ誰に聞くのが一番なのか。妥当な線だとレイアさんだけど、あの人なんだかんだ仕事が忙しくてそんなに予定とれなさそうだしなぁ。リーナちゃんの頼みなら無茶してでも聞きそうな雰囲気があるから、こんなことで相談するわけにもいかない。
「あ、そうです!」
二人でうんうんと頭を悩ませていると、ふとリーナちゃんが何かを思いついたように声を上げた。
「何かいい案があるの?」
「ギルさん達に頼みましょうよ。もちろんちゃんとお金を払って」
なるほど。確かに依頼としてなら特に相手の事情を気にする必要はないし、それに彼らなら多少は交流があるから依頼もしやすい。
「いい案じゃん。流石だよ」
「そうですか? えへへ」
可愛い。くっ、なでなですりすりしたいのに肉体がないっ! なんで私は幽霊なんだっ!
「じゃあ今日はもう遅いから、明日とかに探しに行く?」
荒れている内心を一切表に出さず、彼女にそう尋ねる。私の霊魂操作技術をなめるな。
「ですね。あ、でも適正料金ってどれくらいなんでしょうか?」
「それぐらいは夜のうちに調べておくよ」
「ありがとうございます」
「いいよいいよ。私にできることは少ないから、それぐらいは手伝うって」
何より私のためでもあることだ。何だかんだで上を目指す気になってくれたリーナちゃんが心変わりしないように、私にできることは私が引き受けよう。ギルドに登録はされていないけれど、私はリーナちゃんのパーティメンバーのつもりなのだ。
というわけで修行パート? でした。しれっと風属性魔法を覚えているリーナ笑
第一章も半分が過ぎ、いよいよ本格的に優花とリーナの冒険(の準備)が始まっていきます。




