第十一話 冗談です……よね?
久々のリーナのターン。
また時間が飛びます。
ブクマ、評価、感想、レビューをいただけると幸いです。
「えいやっ!」
「グギャーっ!」
私が切り付けた個所から魔力を吹き出しながら、ついに最後の小鬼が倒れました。
「ふー」
「お疲れー」
優花さんと会って二か月が過ぎたころ、私は八級冒険者として活動を行っていました。最近では魔物との戦闘にも慣れてきて、小鬼の集団とも難なく戦えるようになっています。
「いやー、最近はリーナちゃんも逞しくなってきてて、私感動したよー」
「そうですか? えへへ」
何度も討伐をこなした結果、優花さんの謎の術の効果もあって、私のステータスは結構成長しました。
リーナ 人族Lv.24 状態:疲労(小)
筋力:498
持久力:507
魔力:472/472
抵抗力:486
(鬲ょ鴨??1/491)
スキル
シン・霊感 料理Lv.3 荷運びLv.2 下位剣術Lv.3 威圧耐性Lv.1 霊魂操作Lv.1
称号
なし
ステータスってすごいですね。筋トレとかをしなくても、レベルを上げるだけで簡単に重い荷物とかを持ち上げられるようになるんですもん。こんなことなら早くレベルを上げておくんでした。
……威圧耐性には触れないでください。
あ、あと、私もついに霊魂を自分で操作できるようになりました。といってもほんの少しだけですけれど。優花さんってこんなに難しい事を息をするようにしているんですよね。凄すぎです。
「今日の依頼はこれくらいで終わり?」
「はい。群れに遭遇しちゃったので予定よりも討伐数が多いくらいです」
魔石の需要は尽きることがないので、予定以上の討伐は余分な収入になります。普段であればためておくところですけれど、たまにはおいしいものとか頼んでみたいですね。
夕日を眺めつつ街へと帰ると、何やら少し騒ぎになっているみたいです。どうしたんでしょうか?
「何かあったんですか?」
「なんでも明日、国王陛下から重要な知らせがあるらしいです。祭典でもない日に陛下が我々にお言葉をかけられるなど滅多にないので、皆戸惑っているのですよ」
門番のおじさんに聞いたところ、そんなことを教えてくれました。いったい何でしょう? 魔族騒ぎのことかとも思いましたが、情報統制を敷いていたのに今明かすのも変ですよね。
「あー、そういえばあれまだ発表してなかったねー」
「なにか心当たりがあるんですか?」
「今は秘密。明日になれば分かるしね。そうだ、せっかくだから明日は休みにしない?」
そう言われると気になるんですが。まあ、こういうときって優花さん絶対に答えてくれないので、わざわざ聞きませんが。
そんなことより今は臨時収入の使い道です。思っていたよりも稼げたので、今日は奮発しますよ!
翌朝。今日は休むことになったので、ちょっと仕事に使う雑用品の買い出しに行こうと思います。前までなら休日なんてとっている余裕がなかったんですが、八級になって収入が増えたおかげでちょっとぐらいなら働かない日をとっても良くなったんですよ。
「せっかくの休日なのに、仕事道具買いに行くの? もうちょっとこう、ファッションとかさ」
「そんな贅沢品を買っている余裕はないです」
優花さんて基本的には頼りになるのに、金銭的な感覚は変なんですよね。生前はいいところのお嬢様だったのでしょうか? 普段の恰好も上等な生地っぽい見たことのない服装ですし。
商業地区をまわりながらいろいろと必需品をそろえていたら、あっという間に国王陛下が発表をなさるという時間が近づいてきました。役人らしき人たちの姿がチラホラ見えます。あっ、徐々に人だかりができていっていますね。
「リーナちゃんは行かないの?」
「そうですね。せっかくなので聞きに行ってみましょうか」
人だかりへ近づくと、大人たちの背中に隠れてよく前が見えません。仕方ないのでシン・霊感で透視することにします。
「注目! では、これより陛下からの御言葉をお伝えする。『長きにわたる魔族との争いにより、人族は疲弊してきておる。しかし、それも今日までのこと! エリエシア王国は二月前に四人の勇者の召喚に成功し、彼らは今日、前線の帝国へと出立する! 国民よ、人族よ、聖神を崇める全てのものよ。我らの勝利はもうすぐだ!』以上だ」
その言葉に周りの人々が一気に沸き立ちました。思わず私も歓声を上げます。勇者ってあのおとぎ話の英雄ですよね。もう魔族なんて怖くないじゃないですか! 王都はまだ戦争の影響が少ないとはいえ、このままではいずれよくない影響が出ていたのは確実です。心の片隅にあった不安が取り払われてホッとしました。
そこでふと、優花さんの声が聞こえないことに気づいて隣を見てみました。
「ひっ」
そこには顔から表情が完全に抜け落ちた霊がいました。魂に揺らぎはなく、普段通り、いえ、普段よりも威圧が少ないくらいなんですが、そこがなおさら不気味さを引き出しています。
「あ、あの、優花さん?」
「ん? ……ああごめん。怖がらせちゃったね。いや、異世界から罪のない人々を拉致しておいて何を白々しく、って思っちゃって。国としてはそれが正解なんだろうけど」
彼らのことを考えたら自分でも想像以上に怒りがわいてきちゃって、といいつつ、アハハと笑う優花さん。いつもの雰囲気が戻ってきて安心しました。
「優花さんは勇者様たちを知っているんですか?」
「知っているも何も、私も勇者の一人だからね。異世界から呼び出された五人目の勇者」
…………え?
気が付くと日は傾き始め、周囲は閑散とした様子になっていました。衝撃のあまり数時間呆然としてしまっていたようです。
「え、あ、あの、優花さんが勇者様ってどういうことですか?」
「あ、やっと帰ってきた。どうも何も、そのままの意味だよ」
優花さん曰く、地球という異世界? で日常生活を送っていたところ、突如としてこの国に召喚されてしまったんだとか。それって……。
「完全に誘拐じゃないですか!?」
「うん。私はさておいて、彼らには元の生活があったと思うんだよね」
今すぐにでも地球に帰りたい子もいるみたいだし、と続ける優花さん。まさか勇者様がそんな存在だったなんて……。
「あれ? じゃあなんで優花さんはこんなところにいるんですか?」
「召喚される前にもう死んでるから」
「へ?」
「召喚されるま」「ええーっ!!」
ばっ、と周りの人が驚いた顔でこっちを見ました。あう。またやらかしてしまいました。
「それってつまり、勇者様の人数が少ないってことですよね!? 色々と大丈夫なんですか!?」
今度は気を付けて小声で叫びます。叫ばないと頭がおかしくなりそうなので、小声でも叫ぶには叫びます。
「さあ? 私はすでに終わった身。浮世のことはよく分からないからねぇ」
謎のポーズを決めながらクルクルと回る優花さん。あの、今結構まじめな話の最中だったと思うんですけれど。この人は定期的にふざけないと成仏する呪いにでもかかっているんでしょうか?
「……あの、まさかとは思いますが、私に代わりをさせようとかしてないですか?」
そうだとすれば、優花さんが私を妙に強くさせようとしていることにも納得がいきます。よく考えると変なんですよ。私に労力を割いたところで優花さんには何のメリットもないんですから。
やや身構えながら尋ねたところ、帰ってきた答えは予想外のものでした。
「なるほど! その手があったね」
「あ」
「冗談冗談。リーナちゃんにかまうのは私がやりたいからだよ。死んでからの唯一の友達だしね」
今後増える可能性は限りなく低いからなるべく大事にしないと、と微笑みかけてくる優花さん。
友達だって言ってくれるのは嬉しいんですが、その、すごく重いです。これ私死ぬまで、いえ、死んでも解放されないんじゃないでしょうか? 普段は気にならない彼女の笑顔が、今日は妙に怖いです。
スキル:威圧耐性Lv.1 がスキル:威圧耐性Lv.2 になりました。
トモダチッテナンデショウネ。
ヤンデレ系主人公(?)
勇者が本来五人であることは一部の人間しか知りません。平民の間で伝わっている伝説では勇者は複数人とだけ明かされています。




