第十話 チート? いやいやただの技術よ。
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「おめでとう! 今日からリーナちゃんは九級冒険者よ」
例の魔族事件があったあと、リーナちゃんと私はいろいろと依頼を(時にズルをしながら)こなし、ついに九級冒険者になることができた。ちなみに魔族には逃げられたらしい。レイアさんが切れなかったと嘆いていた。ひぇ。
「おぉ……」
「おめでとー」
パチパチという音を拍手に付けながら、新しい冒険者カードを覗いてみる。十級のプレートとそんなにデザインは変わらないみたいだけど、それを見るリーナちゃんの目は嬉しそうだ。
九級冒険者からはいよいよ簡単な魔物の討伐が可能になってくる。十級は森等での動き方になれたり、冒険者の活動に触れたりするための準備期間なのだ。なんでも初心者冒険者の死者が多いことに嘆いた先代の勇者が考案した仕組みなんだとか。なんというか、私の全勘がオタクの気配を伝えてきている。
リーナちゃんはまだしげしげと九級の冒険者カードを眺めている。
「こほん。そろそろ詳しい説明してもいい?」
「あ、はい。すみません」
「いいのよいいのよ。ランクが上がった時の反応なんてみんな似たようなものだからね」
そういうのはどの世界でも変わらないんだね。
説明によると、九級ではなんと動物の狩りが依頼に追加されるらしい。この世界で食肉を集めるのは主に冒険者の仕事なのだ。ちなみに狩りでもかなりの微小量ながら経験値はたまる。それもあって、塵も積もればなんとやらといったところか、牧場経営者は非戦闘職にもかかわらずレベルが上がっている人がいるみたい。これちょっと不具合じゃないの?
そして二つ目の特徴が九級のメインディッシュ、魔物の討伐依頼だ。討伐対象となってくるのは魔精という一種類だけで、この魔物は魔力だまりのある所ならどこでも発生するらしい。まあこれが本当に魔物かは、いや、それは今はいいか。とにかくこの魔物は触れている生命の魔力を吸い取ってしまうという性質を持っているんだけど、動きが遅いから別に人間とかの動物にとっては全く脅威じゃない。問題は植物の魔力を吸い取って枯らしてしまうということで、放置しすぎると森が枯れたり作物に被害が出たりするのだ。魔精自体はとても弱いので、大量にいる初心者冒険者に討伐を任せている、っていうことなんだそうだ。
「大まかな追加点はこのくらいね。何か質問は?」
「えっと、討伐はどうやって証明すればいいんでしょう?」
「魔石を持ってくれば大丈夫よー。えっと、魔精の魔石は……あった。これを持ってきてね」
なるほどなるほど。確かに微量だけど少しだけ霊魂が濃い気がする。気が、す、んん?
「分かりました。ありがとうございます」
「そう。他には……ないみたいね。それじゃあ今後も冒険者活動頑張ってねー」
「ねえねえ、リーナちゃんには魔石ってどういう風に見えてるの?」
「どういう風って、魔力の込められた赤い石ですけど……。あ、もしかして優花さんは分からなかったんですか?」
「うん。私が見えているのはあくまでも物質や魔力に重なった霊魂だから、ちょっと色とかの違いが分かりにくくて」
オークの魔石は普通にわかったから、たぶん魔力の量が少なすぎたせいで霊魂の量がほかの物質と変わらなかったんだと思う。
「そうだったんですね。まあ採集依頼みたいにどこにあるかわからないものを探さなきゃいけないわけじゃないですから、別に問題はないと思いますよ」
「あはは、確かにそうだね」
ちょっと見てみたい気はあるけど、私は今の私も好きなのだ。細かいことは気にしないようにしよう。
「それで、今日はどの依頼を受けるの?」
「せっかくなので魔精の討伐依頼を受けてみようと思います。優花さんに教えてもらったことも試してみたいですし」
あんなに冒険を嫌がっていたリーナちゃんがアグレッシブになってる!? 私の作戦が功を奏した、というよりはどうやら完全に食わず嫌いだったみたい。リーナちゃんも少年の心を持っていたのね! 私たち二人とも女だけど。
「おっけー。それじゃあ早速、初の討伐依頼にれっつごー!」
「おー!」
「見つけたよー。右手200m先ー」
「ありがとうございます」
久々にやって参りました南の森。あの戦いの後しばらく立ち入りが封鎖されていたんだけど、最近になってようやく立ち入りが許可されたのだ。
近づくと、リーナちゃんに気が付いたらしい魔精がこっちに向かってふよふよと飛んできた。
「うぅ、緊張してきました」
「大丈夫大丈夫。それでブスっとやるだけだよ」
リーナちゃんには私の聖剣を貸している。リーナちゃんに能力は使えないけれど、剣自体は普通に軽くて丈夫な業物なのでそのへんの店売りのものよりは断然いい。正直、リーナちゃんのぼろい装備と私の聖剣が合わさると見た目の違和感がすごい。
「い、行きます。えいっ」
気の抜けるかわいらしい掛け声とともに剣が前に突き出され、魔精の中心を貫いた。その直後魔精の霊魂は崩壊し、その一部
「ゆーかちゃんふぃーるどー」
だけだと勿体ないので、結界を張ってその全てをリーナちゃんに吸収させる。
「……あの、今のは?」
「レベルアップの仕組みを利用した経験値増量技術」
この世界におけるレベルアップは他者の命を奪いその霊魂の一部を吸収することによって生じる。一般的に生者は霊魂を外部から吸収できないんだけど、どうやら生者から離れた直後の魂は性質が変化して吸収できるようになるらしいのだ。その変質した霊魂は普通ならば拡散して大部分が吸収されず、時間が経てばまた吸収できなくなってしまう。私はそれを結界で閉じ込めることによってリーナちゃんの経験値を大幅に増幅させたのだ。ちなみに吸収できるようになる仕組みは何度か観察してみたけど仕組みは全く分からなかった。恐るべし、異世界。あと、スキルに関しては全く別の仕組みが働いているっぽい。
「えっと……レベル2になったんですが」
「おぉ。おめでとー」
「なんかズルくないですか!?」
「ズルだなんて人聞きの悪い。これは私が頑張って開発した立派な技術だよ」
リーナちゃんが寝ている間に。リーナちゃんは私のアバターみたいな存在なのだ。その強化に対して一切の自重はしない!!
「レベルが早く上がるのはうれしいですけれど、なんか、こう、釈然としません」
「細かいことは気にしない気にしない。それより初の戦闘はどうだった?」
「こまか……? あ、いえなんでもないです。戦闘も何も優花さんの行動のほうが衝撃的過ぎて、感慨とか吹き飛びましたよ」
「あ、それはごめん」
初めての感動を奪ってしまうなんて、私ってばなんてことを。
「まあ思っていたよりもあっさりと終わったので、若干拍子抜けだったかもしれません。ずっと怖がっていたんですけれど、魔物って案外大したことないんですね」
「リーナちゃんリーナちゃん、これ最弱の魔物だよ。ちょっと調子に乗りやすすぎない?」
「あ……」
普段はしっかりふるまっているのに、こういうところはまだ子供なんだなって感じる。レイアさんが放っておけなかった気持ちがよくわかるわー。
リーナちゃんは赤面しながら剣を構えると、あたりを見回した。
「こ、この調子でどんどん行きましょう! 次はどこですか!」
「リーナちゃん、それはダメな姿勢だよ。前に教えたよね。また戻ってる」
「あう」
彼女にはもう少し感情を制御できるようになってもらいたいものだ。あとで何か方法を考えてみようかな?
実はポンコツチョロインなリーナちゃん。そのうち詐欺にあいそう。
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