ガラクタ
その頃、『雷ノ神』であるミカヅチは建物の上を滑走していた。
彼の目的は白錬に頼まれた神核の回収。
そして、もう一つ──
「(白錬様も困ったものです。あの女の妹に会いたいだなんて……)」
朱子を連れてくること。
どうやら、だいぶ御執心のようで『神核の回収より優先して欲しい』とまで言われていた。
そんな事、素直に朱子がのむわけなく、戦闘になるのは必須である。
でも、ミカヅチは逆に楽しみだった。
以前から気にくわなかった、あの女の妹を完膚なきまでに叩きのめせると。
「(どうやって痛め付けてやりましょうかね……?)」
そんな事を考えていたら、目の前から三発の銃弾が飛来した。
一発は建物の床に突き刺さり、残り二発はミカヅチが握り潰した。
「そこに隠れているのはバレていますよ? 出てきたらどうですか?」
立ち止まり、目線を二棟先の建物に向けた。
「──やっぱりバレたか……」
そう言って現れたのは、帰ったはずの外神だった。
「はい、もちろんです。それにしても、隠れるの下手ではないですか? 教えて差し上げましょうか?」
「おー、言ってくれるねぇ……。今度からは迷彩服とか着てくることにするわ」
「今度? 今、ここで死ぬのにですか?」
「他人の生き死にを勝手に決めんなよ。お前は神にでもなったつもりか?」
「はい、私は雷ノ神ですから」
「そうかいそうかい。まぁ……俺から言わせれば、お前らなんてただの──ガラクタだけどな?」
外神が懐に隠しておいたスイッチを押すと、突き刺さった銃弾が爆発した。
建物の上半分程が崩壊。そして、ミカヅチの姿は消えていた。
いや、消えたわけではない。外神がいる二棟先の建物に移動しただけであった。
「いきなりは随分と卑怯ではないですかね?」
「そうか? 勝つためには何だってするのが戦いってやつじゃねーか?」
「確かに一理ありますね」
「だろ?」
二人とも軽やかに会話をしているが、お互い臨戦態勢にはいっている。
外神は両手に銃を構え、ミカヅチはバチバチと体に帯電をさせていた。
どちらから攻撃してもおかしくはない状況の中で、外神は空に向けて一発の銃弾を撃った。
「戦闘開始の合図というわけですか?」
「まぁ、そんなところだ」
「では、いかせていただきます。【雷踵】」
足に電気を集中させ、踵落としを放った。轟音とともに屋上が崩壊。外神は一個先の建物に移っていた。
「ワイヤーですか……」
「おいおい……はえーな……。もう少し余裕を持たせてくれよ……」
数秒後には、ミカヅチも外神と同じ建物に移動し終わっていた。
「そう言うわりには、驚いた顔一つもしないんですね」
「まぁな。お前より速い奴を知っているからなぁ……」
「ほう……。それはぜひ一度手合わせ願いたいものですね」
「やめとけやめとけ、自信なくすぞ」
遠い目をしながら言う外神。過去の事を軽く思い出したみたいだ。
「そんなにですか?」
「そんなにだ。あいつは次元が違いすぎる。俺が言うのはなんだが、あいつ──『皇真宵』に出会ったら全力で逃げたほうが良いぞ?」
「ご忠告ありがとうございます」
「あっ、それと……。そこから直ぐに離れた方が良いぞ?」
ミカヅチが気付いた時には、もう爆発していた。
またしても爆弾を仕掛けていたみたいだ。ワイヤーで上空にいる外神は、下の様子を伺っていた。
「(多分、あんなのじゃ全然ダメージはいらないだろうなぁ……)」
外神も予想はしていたが、完全に無傷だった。
「【雷飛弾】」
煙が晴れる間もなく、左手を銃に見立てて電気の弾を放つ。その弾は高速で外神に迫っていく。
上空で体をひねってかわすが、間髪入れずに放たれる弾丸。何発か体を掠めていく。
「いや、撃ち込み過ぎだろ。さっきから当たってるっつうの」
「完全には当たってないですよね?」
「いや、一発でも当たったら死ぬからね? 俺、普通の人間だから」
「殺人機と戦えている時点で普通の人間ではありませんよ」
「戦えてねーよ。どう見ても一方的だろうが。一端、逃げさせてもらってもいいか? 返事は後で聞くわ」
ワイヤーを全て外し、煙幕を周りに放つ。視界は完全遮られて、辺りが見えた時には外神の姿は消えていた。
「(屋上のドアが開いていますね……。中に入りましたか……。私も……いや……罠の可能性もありますね……)」
この屋上のドアがわざと開けてたとしたら、どうせ爆弾が仕掛けられているだろう。
ならば、やることは決まっている。建物ごと破壊して罠など無くす。
今出せる最大限の攻撃を建物に叩き込む。
「【雷神化・超雷踵】」
電気なんてそんな生易しいものではない。雷が建物全てを包み込み、まるでそこに元々何も無かったかのように建物が消滅していた。
◇◇◇◇◇◇
「(くそくそくそっ……! これじゃ一方的じゃねーか……!)」
何度も何度も繰り出される拳。朱子の攻撃を弾こうとしているが、ラドルの纏っているはずの風は意味をなしていない。
あれだけ自信があった絶対防御が、今や完全攻略されて拳を全て受けてしまっている。
身体中はボロボロ。まさに一方的だった。
「(負けられない……! 俺は負けたくない……! 俺は強くなったはずだ……! あの日誓ったんだ……! もう誰にも負けないって……!)」