捨て駒
「白錬様。ラドルを勝手に行かして良かったのですか?」
「大丈夫大丈夫。どうせ負けると思うし、あんな捨て駒いらないから」
話しかけたのは、金髪の眼鏡の殺人機。その質問に適当に答えているのは、殺人機の主である『白錬』。
病的までに白い肌に、白い髪。
更には赤い瞳を妖しく光らせて、椅子に座ってラドルにつけられたカメラをモニターで見ていた。
「じゃあ、あのまま見殺しにするおつもりですか?」
「うん、だってあいつ雑魚だし。いらなくない?」
「左様ですか」
「えっ、もしかしてラドルと友達だった?」
「いいえ、違います。ご冗談はやめてください」
「だよねー?」
白錬にとって殺人機は自分のことを楽しませる道具に過ぎない。そんな道具がどうなろうと、どうでもいい。
モニターを見ていた白錬が、ある人物を見たときに楽しそうに笑みを浮かべた。
「こんなところに居たのかぁ……。鬼の一族の片割れ」
「氷ノ神の妹ですか?」
「うん、そうそう。僕、見てみたくなっちゃったなぁ──姉妹喧嘩」
そう言った白錬の顔はとても歪んでいた。
◇◇◇◇◇◇
朱子にとって殺人機対策室とは、真宵とほぼ毎日のように会える場所である。
つまりは同棲していると同義であると感じている。
朱子は真宵が大好きだ。結婚したいとも考えている。
そこまで慕っている理由は、初めて自分を負かした自分よりも強い存在だからだ。
そんな人と居られる大切な場所を壊された朱子は凄くキレていた。
「ねぇ? まだ生きてるでしょ? 早く壊されにきなよ?」
ラドルはパラパラと瓦礫を押し退けて、身体に少し砂ぼこりをつけながら立ち上がった。
「おいおい……! ただのまぐれ当たりでいい気になるなよ……! くそガキが……!」
額には青筋を浮かべて、朱子を睨み付ける。
「そう思うなら、さっさとかかってくれば?」
それが合図になり、両者はまた戦いを再開させた。
「【操衝波・暴風拳】」
「鬼丸流 肆ノ型【十分ノ四】」
拳に風を纏わせた一撃。空中での拳と拳のぶつかり合い。勝ったのは朱子の方だった。
だが、軽く吹き飛ぶだけで態勢をすぐに整えた。
「ちっ、今の攻撃でも駄目か……。なら、次だ次!」
「もう、めんどくさいなぁ……。鬼丸流 伍ノ型【十分ノ五】」
朱子の頭には一本の赤い角が生えた。
鬼丸家は鬼の末裔の一族。彼女達は力が強すぎる。そのため、その力の制御するための型が存在する。
それが鬼丸流の型である。伍ノ型以上となれば、本来の力の一部を解放して、その力を身体全体に行き渡らせることが出来る。
「【操衝波・暴風連け……「うっさい」──がっ!!」
ラドルはいつの間にか顔を殴れて、二十メートルぐらい吹き飛んでいた。
顔にはヒビがはいっていて、奥歯まで見えている。
そんなラドルは空中で笑いだした。
「良いねぇ! 最高だよお前! これなら本気を出してもいいよな?」
「はぁ……。めんどくさいから、はじめから出せば良いのに……」
「それだと戦いの醍醐味が無くなるだろ? 戦いってのはなぁ「話長い? なら、私聞きたくないんだけど?」……ちっ、はぁ……」
頭をボリボリと掻いてため息をもらした。
「まぁ、いっか……。しっかり見とけ……。これが俺の本気……。【操衝波・風神纒】」
ラドルの身体から、まるで台風かのような風が吹き荒れる。普通の人なら飛ばされている。
だが、朱子は普通の部類には入らない。むしろ化け物の部類に入る。
「で……? この風がなに? 強くなったの?」
「それはてめーの目で確かめて見ろよ!」
ラドルは空中を飛ぶように一気に加速する。そして、朱子を殴ろうと拳を突き出す。
それを軽く避けた朱子はラドルの顔面にカウンターをいれる。
朱子の拳のカウンターはラドルに届くかと思われたが、急に弾かれた。
ラドルは少し動揺した朱子の脇腹に、容赦ない風を纏わせた蹴りを放つ。
「おらっ!!」
「──ぐっ」
声にならない声をあげて、落下して地面に叩きつけられた。
朱子の周りは陥没して、その威力の高さがうかがわれた。
「おいおい! 今ので終わりかよ? 以外とたわいもないな! 冥土の土産に教えてやろうか? どうして届かなかったか?」
「いや、いらない……。どうせ……風を常に纏わせて、攻撃を受けた場所に一点集中させて弾いただけでしょ?」
そう言ってむくりと起き上がり、身体に付いた埃を払う。
多少はダメージがあったみたいだが、なんともなさそうだった。
「ちっ、正解だ……。まぁ、正解したところで、俺のこの──絶対防御は破れないけどな?」
「──は? 絶対防御? 馬鹿も休み休み言いなよ。そんなのは絶対とは言わない」
「いちいちムカつくなてめーは……! じゃあ、てめーはこの絶対防御破れんのかよ! ああん!?」
「はぁ……当たり前じゃん。これから一方的にやらせてもらうから覚悟しておけよゴミクズ。鬼丸流 漆ノ型【十分ノ七】」
◇◇◇◇◇◇
ラドルと朱子が激戦を繰り広げている最中、真宵達は天井が無くなった殺人機対策室で、のんびりとしていた。
「あの子強いわね」
「はい、強いですよ」
「私とどっちが強いかしらね?」
「互角くらいじゃないですか? シェリルが本気を出せばの話ですが」
シェリルは本気を出したことがない。出す前にだいたいの奴は殺してしまうからだ。
本気を出せるとすれば、朱子か真宵と戦う時くらいだろう。
まぁ、戦いを望んでいない彼女にとってはどうでもいいことだが。
「ところで」
「何かしら?」
「外神さんって何処にいきました?」
「確かにいないわね」
「これから美女とデートするので、帰って行きましたよ」
真宵の疑問に答える天草。
惣助がいないことに、今頃になって気付いた真宵とシェリル。
それもそのはず、惣助はめんどくさがって、天草にしか声をかけずに帰った。
「そうですか」
「あっ、それと……あの殺人機に部屋の弁償代請求しとけって言っていましたよ?」
「そういえば、天井壊されましたね。このぐらいの破損だったら、私がお金を出すから大丈夫ですよ?」
「流石は皇財閥のご令嬢ですね……」
この建物ぐらいなら、余裕で何回でも造り直すことも可能だろう。
朱子達が壊した建物や道路も、真宵は自分のお小遣いから出すつもりでいる。
「そろそろ戦いも終わりそうね」
「はい、そうですね」