壊される覚悟
「というわけで、連れてきました」
「いや……どういうわけで?」
ここは中央区にある国家殺人機対策室。ここから殺人機が現れる度に、五つある区に派遣されている。
そして、七人いる通称『死地の侍』。
その現在の室長である『外神惣助』は頭痛がした。
普段から何を考えているのか分からん奴だと思っていたが、ついに敵である殺人機。
その中でも、とりわけ危険な七ノ神を連れてくるとは思ってもいなかった。
そもそも、惣助は美女とデート中だった。そこに堂々と現れた真宵に、ここまで連れてこられた。
「はぁ……。で? そいつが殺人機の……「シェリルです」……あっ、そうそうシェリルさんね……。彼女を仲間に入れたくて、本人もそれを望んでいると?」
「はい、そうです」
「とはいってもね? 彼女は殺人機だろ? 無理なもんは無理だぞ? というわけで、もといた場所に返してきなさい」
「では、父にお願いしてきます」
「俺が悪かったから、それだけはやめてくれ」
全力で真宵が父親にお願いしに行くのをとめる。
無理もないだろう。真宵の父親である『皇創真』は皇財閥の現当主である。
皇財閥といえば、国家の重鎮との繋がりも深いうえに、金銭面でも多大なる影響を与えている。
その額はおよそ国家予算の六割にも達していると言われている。
そんな彼は家族のことを愛していて、特に娘の真宵にはとても甘い。今回のことも娘の為ならば、国に直談判するに決まっている。
「はぁ……。俺から上に掛け合ってみるわ」
「はい、ありがとうございます」
「ああ。これから違う美女とのデートが入っているから、俺は帰るわ」
「はい、分かりました。さようなら」
腰かけていた少し高級そうな椅子から腰をあげ、タバコに火を着けて立ち去ろうとしたら、部屋のドアが突然破れて人が入ってきた。
「ドアを壊すなよ……はぁ……」
その人物は赤い髪を揺らす朱子だった。
後ろには同じ殺人機対策室に勤めている『天草柊太郎』も控えていた。
「真宵先輩! 遅くなってすみません! 寂しくなかったですか? もう大丈夫です! 私が来ましたので、もう寂しくありません……よ?」
言葉の途中で真宵の隣にいるシェリルを見た。一瞬固まって、わなわなと震えだした。
「──こっ、この人は誰ですか!? 真宵先輩!」
「新しく仲間になったシェリルさんです」
「いや、まだなんだが……」
「それにしては、やけに近くないですか!?」
真宵とセリアは寄り添うようにソファーに座っている。確かに近いは近いのだが、あんな話をされた後ではしょうがないだろう。
あと、惣助のツッコミは完全に無視されていた。
「そうですか? 朱子も何時もこのぐらいじゃないですか?」
「私は良いんです! でも、そんないかにもクソビッチそうな女は、真宵先輩には近づいたら駄目なんです!」
「私、この人怖いわ……。それにクソビッチなんて酷いわ……」
シェリルはそう言って真宵との距離をさらに近付けた。もう、真宵の胸に顔をうずめている。
「よしよし。駄目ですよ朱子、そんな言い方したら」
「うぐっ……」
そんなシェリルの頭を撫でてあげて注意をしている様は、まさにお母さんそのものだ。
それに朱子はうろたえる。自分がいちゃもんをつけていることは確かなのだから。
でも、うらやましい。うらやましすぎる。私も真宵先輩の胸に顔をうずめて、くんかくんかすーはーすーはーしたい。
そんな思いが頭の中を駆け巡る。
そして、未だに真宵の胸に顔を擦り付けているシェリルに視線を向けた。
シェリルはその視線に気付いて、朱子の方に向いて「にやっ」と勝ち誇った顔をした。
「よしっ、殺す……」
腹がたった朱子が、一発殴ろうと足を進めた瞬間に、大きな音が鳴り響き天井が破壊された。
辺りには大量の砂埃が舞っている。
それが晴れると、空中に浮かんで、こちらを見下ろしている緑髪の男がいた。
「──おい! ここにいるんだろ!? シェリル!」
「あら? ラドルじゃない? どうしてここに?」
「てめーが裏切ったって聞いて、てめーを始末しに来たんだよ!」
「そうなの? それはご苦労様」
「てめーはまた俺をバカにしやがって……!」
始末しに来たと聞いても焦る素振りもないシェリルに、ラドルと呼ばれた男は怒りをあらわにさせていた。
先程の攻撃が余裕で防がれたことも勘にさわったらしい。
「誰ですか?」
「あの殺人機の名前はラドルよ。一応、七ノ神の一人で『風ノ神のラドル』。衝撃波で攻撃してくるわ」
真宵の質問にシェリルはそう答える。シェリルと同じ七ノ神なら、かなりの強敵だろう。
「おいおい! 俺の情報をペラペラと漏らしてんじゃねーよ!」
「あら、ごめんなさい? 確かにあなたはクソ雑魚だから、こんな情報必要無かったわね?」
「【操衝波・連刃】」
連なった空気の刃がシェリル襲う。だが、シェリルにはそんなものは効かない。容易くコードで防いでしまう。
「怒ると直ぐに攻撃してくる癖、やめた方が良いわよ? なぜ、あなた程度の七ノ神が一人で来たのかしら? もしかして、誰にも言わずに此処に来たとか?」
「お前は俺の獲物だ! 他の誰にも渡さない! 俺がお前をぶっ殺して、最強の座を貰う!」
「はぁ……。そんなのあげるから、もう帰ってくれないかしら? 私はあなたに構っている暇なんてないの」
呆れた声色で帰るように促す。
そもそも私より強い七ノ神はいるのだが、こいつはなに言っても聞かなそうだなと思った。
そんなことよりも、真宵とイチャイチャするために早めに帰って欲しい。
そうとも知らずにラドルは彼女を挑発した。
「おいおい! 何時からそんな腑抜けになったんだよ? なんだ? 今さらビビってんのか? 今までの事を謝れば、命まではとらないでおいてやるよ!」
そうは言っているが、本当は命をとる気満々だろう。溢れでている殺気を押さえられていない。
そんなことはどうでもいいと、シェリルは真宵とのイチャイチャプランを考えていた。
「悪いけれど、もう一度言ってくれる? 話聞いてなかったわ」
「お前はまた──「あのさぁ? さっきからお前うっとうしいよ? 鬼丸流 参ノ型【十分ノ三】」
「──がはっ!!」
いつの間にかラドルの目の前まで移動していた朱子が、一撃の殴りを腹に叩き込んだ。
ラドルは近くにあったビルに激突した。ガシャーンと音がし、ガラス片などが辺りに飛び散った。
「私と真宵先輩のイチャラブハウスを壊しやがって……。壊される覚悟はできてるよね?」