雑魚は雑魚
ここは東区。普段なら人通りが多い駅前広場があるのだが、今はそのかげもない。
殺人機が表れた時に避難警報が出される。区民達はそれを聞いて、どこに近づいていけないのかを知る。
今回は駅前広場に出現して、手当たり次第に殺戮を楽しんでいた。
「ざっと十人程度は殺したか……。もっと殺してーなー」
殺人機は改造人間である。だから、元々は人間なのだが、もう人の心は持ち合わせてはいないみたいだ。
この男の名前はガイズ。派手な金髪に伸ばした髪を後ろで纏めている。
身長は二メートル近くあり、大きな血の付いたハンマーを片手で軽く持ち上げている。
先程まで人が多くいたのだが、皆逃げ出してしまった。
ガイズはというより、殺人機は基本的に人を殺したがっている人がなると言われている。
そんなガイズがいる場所に、一人の少女が歩いて近づいてきた。その少女は真宵に連れてきてもらった朱子である。
朱子はその場を一瞥し、ガイズがこれをやった犯人で殺人機なのだと直ぐに理解した。
「これやったのお前だよね?」
「ああ、そうだ。素晴らしい光景だろ?」
朱子の質問に挑発するように返す。どうやらガイズも、朱子が死地の侍だと分かったみたいだ。
「これからお前を壊すから」
質問には答えず。ただそれだけを告げて走り出した。
物凄い速さで近づいて、腰にさしてあった刀を横凪ぎに振るった。
だが、簡単にガイズにハンマーで受け止められて後退した。
そこに、ハンマーを真上から叩き付ける。ガイズは手応えが無かったことを感じとり、視線を少し先に向けた。
朱子は何事も無かったかのように余裕で回避して、元の位置に戻っていた。
「……やっぱり死地の侍だけあるな。今までのやつは直ぐに死んでいって、殺し甲斐が今一つだったが……。てめーはなかなか歯ごたえあるじゃねぇか」
「お前は歯ごたえないけどね」
「口だけは達者だが、押し負けてるのはてめーだぞ?」
ガイズはそう言って馬鹿にしたように笑う。
「はぁ……。実力差も分からないようなゴミカスを相手にするのも疲れるなぁ……」
「──あ? それは俺のことを言ってんのか?」
「それ以外に誰がいるの?」
「むかつくやろーだな……。一撃で殺してやろうと思ったが、気が変わった……。出来るだけむごたらしく殺してやるよ!」
それを聞いた朱子は刀を鞘に納めて、拳を構えた。
そして──
「かかってきなよ」
と、くいくいと人差し指を曲げて挑発した。
ガイズはその挑発にイライラが抑え込めなくなり「ぶっ殺す!!」と朱子に向かって行く。
朱子に目の前まで行き、ハンマーを振り落とすが、片手で受け止められた。
ガイズは驚いた。次は潰そうと全力で力を込めたが、びくともしなかった。
「(こいつ……なんて力してやがる……!)」
「これが全力? やっぱり、雑魚は雑魚だね」
男に冷めた目を向ける。ガイズは悟った。強い弱い以前の問題で、次元が違いすぎると。
多分、こんな奴に勝てるのは『七ノ神』ぐらいだろうと。
「真宵先輩に会いに行きたいから、そろそろ終わりにしよ」
ガイズのハンマーを押し退けて、構えをつくる。
「鬼丸流 壱ノ型【十分ノ一】」
「──ごっ!!」
繰り出されたのは一撃の拳。その拳はガイズがもっていたハンマーを砕き、そのまま腹に直撃した。
ガイズは吹き飛び、何度か地面にバウンドしながらとまった。
辺りに砂ぼこりが舞い上がる中、仰向けに倒れているガイズにゆっくりと近付いていく。
そして、冷たい目でガイズを上から見下ろした。
「バラバラになってないところを見ると、結構頑丈だね」
「だろ? 人を殺すのにはとっておきの身体だ」
「でも、その人に今から壊されるけどね」
「ちげぇねぇな……」
ガイズはそう返して、目を閉じた。それを見た朱子は拳を構え──
「鬼丸流 弐ノ型【十分ノ二】」
先程より少し強い一撃はガイズの胸を貫き破壊して、地面に拳が突き刺さり、コンクリートを意図も容易く陥没させた。
ピクリとも動かないところを見ると、完全に破壊したようだ。
朱子は手に着いた砂ぼこりを払う。そして、耳に手を当てて何処かに電話をかけた。
「もしもし?」
『鬼丸か……。どうしたんだ?』
「ねぇ、外神。真宵先輩が今何処にいるか教えて?」
『はぁ、そんなことか……。まず、お前は教えた所でたどり着かんだろ?』
「なら、道案内もお願い」
『嫌に決まってんだろ』
「なんで?」
『俺はこれから美女とデートだからな。お前に構っている暇はない。というわけで、じゃあな』
その言葉通りに電話を切られた。朱子は少し腹を立てたが、今は真宵先輩に会いに行くのが優先事項。
なので、外神は後でぼこぼこにするとして。どうしようかと悩んでいたら、一人の優しそうな黒髪の男が近づいてきた。
「朱子さん、悩んでいるようですけど。どうしたんですか?」
「あっ、天草。いいところに」
真宵に会いに行きたいけど、外神に道案内を断られてしまった経緯を話す。
そうすると、天草が「僕が案内しましょうか?」と名乗り出てくれた。
朱子はそれに──
「じゃあ、さっさと案内して。あと、居場所も分からないから、電話して聞いて」
こんな酷い返しにも顔色一つ変えずに電話をかけはじめた。
「大体の場所は分かりました。それでは、行きましょうか?」
そして、天草の案内で真宵の所に向かって行った。
◇◇◇◇◇◇
「さっきから着いてくるけど、あなた私のファンとかかしら?」
中央区の誰も寄り付かないような、錆び付いた建物が並ぶ場所。
そんな場所に、黒髪の美女と銀髪の美少女が対峙していた。
「いえ、違います。私は死地の侍です」
「そんなこと知っているわ……。はぁ……冗談が通じない子」
「それはすみません」
「はぁ……もういいわ。それで私になにか用かしら?」
「あなたをビルの殺人事件現場で見かけたので、着いてきただけです」
どうやらこの黒髪の美女は真宵達がいた現場にいたみたいだ。
「なら、もう用事は済んだでしょ?」
「いえ、まだです。これからあなたを壊さないといけませんから」
そう言った真宵の身体が一瞬消えた。次に現れた時には、黒髪の美女の右腕を切り取っていた。
ガシャッと音を鳴らしながら地面に落ちていく右腕を、ただ呆然と眺めている黒髪の美女。
「あなたねぇ……私がただの人間だとしたらどうするつもり?」
「全力で謝ります」
「もう……そういう問題じゃないでしょ……」
ため息をつきながら右腕を拾う黒髪の美女。右腕を切られたというに痛がる素振りも見せない。
「やはりあなたは殺人機ですか」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私は七ノ神が一人『死ノ神のシェリル』よ。よろしくね?」