ユージの部屋で二人きりで(健全)
健全なのです!
ニンニク入りの美味しいすき焼きを食べたけど、心ここにあらずだったボク。
気が付いたら、ユージの部屋でゲームをしていた。
この家にはユージと二人っきり。
誰にも邪魔をされないというか、お互いの両親公認というか…。
ボクたちまだ付き合ってないし、高校生にもなってないんだよ。
『私も恵ちゃんもこのくらいの年で経験したから、大丈夫よ』
大丈夫じゃないからっ!
親としてどうなのそれ?!
うちの親に文句言おうと思ったけど、藪蛇になりそうだから電話できないし!
「なあ、ゆかりん」
「ひゃ、ひゃいっ?!」
「何かぼうっとしてないか?」
「そ、そんなことないよ。うん」
「それならいいけど…そう言えばさっきお父さんが来てさ」
「ユージのお父さん?」
ボクの家に行く時に『にやり』として出て行ったのが気になってたけど。
「こんなのを置いて行ったんだ」
「何、その小さな宝箱?」
『ゆかりちゃんの許可が下りたら開けろ』
と書いた紙が貼ってある。
ボクの許可で開けていいなんて、いったい何が入ってるの?!
「開けてもいいかな?」
「いい…だ、だめっ!やっぱりだめっ!」
今、すごい可能性を考えてしまった。
まさか、あの中に入ってるのは…。
「ねえ、ちょっと喉が乾いたなっ」
「そうか?飲み物取ってくるよ。何がいい?」
「じゃあコーラで!」
「カロリーある方な!」
「もちろん!」
ボクもユージも食べても太らないので、というかよく運動しているからカロリーがある飲み物のほうがいいんだよね。
「よし、今のうちに…」
宝箱には鍵が無いので、手で開けられるようになっている。
きっと中に入っているのってアレだよね?
『東京ドーム』的な名前のやつ。
コンド…
かちり
どきどきどきどき
ぎいい
フタを開けて出てきたのは、小さな箱。
『ブレス・スッキリ』
…
…
…口臭防止のタブレットっ?!
お義母さんがあんなこと言うから、てっきりエッチなアレかと思ったのに!
で、でも、これってつまり『キス』のためのだよね?
「持ってきたぞ」
「ひゃっ?!」
がちんっ
「にぎゃああっ!」
いきなりユージが戻ってきたから、思わず宝箱を閉めて指を挟んでしまったよお!
「何やってるんだよ」
「いたたたあ」
「あれ?それって…」
あっ、指を抜く時に宝箱開けちゃった!
「何だ、口臭消す奴だったのか。ニンニク食べたもんな」
「そ、そうだね。ユージのお父さんったら、ボクがユージの口臭を気にするとでも思ったのかな?」
「俺はゆかりんの口臭とか気にならなかったけどな」
「ボ、ボクもだよっ」
「まあ、せっかくだから食べておくか」
よく見ると、このパッケージに『恋人たちの息に』とか書いてあるんだけどっ!
ユージは鈍感だから全然気づいていないんだろうなあ。
気づかれても困るような困らないような…。
ん?
箱の中にまだ何か入ってる?
…
…
…やっぱりあったよおおおっ!
しかも5つも?いや5枚って数えるのかな?
単位とかどうでもいいよっ!
まさか遠野家は『絶倫』ってやつなの?
ボク、無茶苦茶にされちゃうの?!
…ユージなら、いいかも…
と、とにかくっ!
とりあえず箱ごと確保して、ユージに見つからないようにしておくからねっ!
「ん?空き箱捨ててくれたのか?」
「残った分持ち帰ろうかと思って」
「そっか」
とにかくゲームやろうよっ!
「ふわあああ」
「ゆかりん、眠くなってきたのか?」
「うん…ほら、もう夜中の2時だよ」
「ちょっと目の覚めることでもしようか」
「んー、なにするのお?」
眠くって、頭が働かなくなってきたあ。
「乱取りするか」
「うん…え?乱取り?!」
ボクとユージは近所にある総合格闘技の道場に小さい頃から通っていて、そこでは二人とも黒帯なんだけど、この部屋で乱取りする気なの?!
こんな狭いところでできる乱取りなんて、『寝技』の乱取りしかないじゃないかっ!
「ほら、来いよ」
ベッドでボクを手招くユージ。
ちょっと待ってよおおおおっ!
畳や床の上で背中合わせになって、合図とともに右回転して、腰を浮かせること無く相手をいかに抑え込むか、関節技や締め技を決めるかが勝負となる『寝技乱取り』。
「何でベッドでやるんだよお!」
「だって、この部屋でベッドが一番広いだろ?床でやったらどこかに頭とか打ちそうだし」
「そうだけどさあ」
もうやだ、この鈍感系主人公。
ボクだってもう高校生になる女の子なんだよ。
道着を着て立ち技や寝技の乱取りをユージとすることあるけどさ。
今、二人とも普段着というか部屋着だよね?
パジャマよりマシなのかもしれないけどさ。
でも、ベッドの上だよ!
どうしてユージは平気な顔をしているのさ?
「来ないなら、こうだっ!」
いきなりベッドに引きずり込まれるボク。
「わああっ!」
「さらにこうだっ!」
布団をかぶせられて、押さえつけられる。
「さらにこうだっ!」
こちょこちょこちょっ
「きゃははははははっ」
布団の中に手を突っ込んで、ボクの脇腹をくすぐり始めるユージ。
「よくもやったなあっ!」
布団を押し返すようにしてユージを抑え込んで、今度はボクが布団の中に手を入れて脇腹をくすぐる。
「ぎゃははははっ!や、やめろおっ!」
ばっ!
布団が飛んで、ベッドの上で睨み合う形になるボクたち。
普通なら恥ずかしいけど、ボクたちはこういう状況に慣れている。
いつもの寝技乱取りの睨み合いと同じだからだ。
「たあっ!」
「やあっ!」
お互い相手の足をすくおうとしたり、相手を押し倒そうとしての一進一退。
そのうち、ユージがボクの体をうまく抑え込んで縦四方固めっぽい状態になる…ってちょっと!
この固め技はボクの両腕をユージが抱え込むように極めて、ボクの両足もユージの両足で抑え込んでいるんだけど、つまりはボクの目の前にユージの顔があって抱き合っているような体勢になってるんだ!
道場なら気にならないけど、ここベッドの上だからさっきまでの『楽しさ』や『興奮』が一気に冷めちゃって…。
「ほらほらっ、降参かっ?!」
さらに極めた両腕を締めて来るけど、ユージのこぶしがボクの胸をぐいぐい押しているんだけどさあ、どうして気にならないの?
ボクだけ恥ずかしい思いするのって、何だかズルくない?
こうなったらユージも恥ずかしがらせてやる!
「こんなに顔が近かったら、ユージにキスしちゃうぞ」
「え?」
は?
え?
ボク、今なんて言ったの?!
「キスって…」
「ちがっ、ちがうのっ!キスしそうなくらい顔が近いから、だからっしたいとかじゃなくてっ!」
「……」
無言のままボクから離れてベッドに腰かけるユージ。
そこで無言とか怖すぎるからやめてっ!
「そう言えば…最近、ゆかりんとキスしてないな」
「は?」
いきなり何を言い出すの?!
「小さいときは結構していたよな」
「それ、保育園までだよね?」
「あの時も俺たちは親友だったのに、小学校になってからしなくなったよな」
普通しないからっ!
「お風呂も一緒に入っていたのにな」
「それも小3までだよね?」
「よく覚えてるな」
だって、ユージとの思い出だもん。
「よし、汗かいたからとりあえずお風呂に入るか」
「ええっ?!一緒に入るの?!」
「ん?別々に決まってるだろ?」
「はうううううっ!」
恥ずかしくなって布団の中に隠れてしまうボク。
「沸かしてあったはずだから、追い炊きするか」
そう言って部屋を出て行くユージ。
「ううっ、ユージのばかあ」
布団から顔を出してそうつぶやくボク。
ずるいよお。
何でボクだけこんなにドキドキされられるんだよお。
こうなったらっ!
ボクが女の子だってことわかってもらうからねっ!
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