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知り合い

 とうとうこの日が来てしまった。

 

 「彼女の名前は、オリビア。前世でブドウノウカ?だったみたいで、すっごい強いんだよ!戦闘の指南とかいろいろお世話になってるんだー。」

 「武道家ね、武道家。もう、シルビィは、何回言っても覚えないんだから。あと転生者とか、言いふらすのも止めてって何度も……。」

 オリビアと呼ばれた女性は、頭を抱えながらヤレヤレと言った表情でシルビィと会話していた。

 俺たちは前回の町を離れ、次の町の道中にある宿屋に泊まっている。しかしそこで偶然にも以前にシルビィが話していた転生者に会ってしまったのだ。

 シルビィの勘違いが正されて、俺のニートがただの無職のろくでなしって分かったら、さすがの彼女でも幻滅するだろう。この旅ももう終わりか…。

 「それでね、こっちはアーロイ。なんと、彼も転生者なのです!!」

 「(さっそく本題来た!!)」

 「へー!そうなんだ。じゃぁ、何か特殊なスキルとか持ってるんだ。」

 「んー、まだそれらしい片鱗は見えないけどね。前世ではニート?とか、してたらしいよ。」

 シルビィの言葉で一瞬場が凍りついた。オリビアは、怪訝そうな顔を浮かべている。

 「あんた、ニートって…。ただの無職じゃん。」

 オリビアは、目線だけをこちらに向けてきた。この冷たい目は前世でも見覚えがあった。たまに外に出たら近所のおばちゃんから向けられてた目にそっくりだ。かわいそうな物を見るような、そして嘲笑も含まれていた。

 「これはハズレね。無職が無職のままこっちに来たって意味ないじゃない。チートスキルの一つでもあればいいけど、そんな感じもなさそう。足手まとい引き連れるくらいならあんた一人の方がいいんじゃない?」

 「…。」

 シルビィは、無言だった。俺は彼女の後ろ側に居るから表情までは分からなかったが、多分悲しい顔をしているだろう。もしかしたら、怒りかな?

 俺は、その顔をみるのが怖かった。

 何も言わずに振り返り、町の外に走っていった。

 走って、走って、街道の真ん中で力尽き、四つん這いになってうずくまった。

 「はー。何やってんだろ、俺…。」

 無性に涙がこぼれきた。

 今まで、どんなに蔑まれても何の感情も湧かなかったが、シルビィのそれだけは違った。彼女からの信頼、期待を失うことがこれ程辛いのかと胸を締め付ける。

 「どうして、俺ってこうなのかな。」

 辺りは暗くなってきた。遠くでは夕刻を告げる鐘が鳴っている。何処にも行けず。帰る場所もない俺はどうしたらいいんだろう。

 

 トントン。

 悲しみにくれ、立ち上がれずにいた俺の肩を優しくたたく感触があった。

 「シルビィ…!どうして?」

 顔をあげるとそこには、シルビィの姿があった。

 「どうしてって、それはこっちのセリフだよ。突然いなくなってるからビックリしちゃった。追いかけるの大変だったんだからね。」

 「だって、シルビィに俺が何もできないニートだってバレちゃったから…もう、必要とされないだろうから…」

 いろいろな感情が涙となって頬をつたってきた。

 「あの人が言ってたように、シルビィ一人だけの方が旅も楽に……」

 俺の言葉を遮るようにシルビィが優しく包容する。突然のことに言葉が出なかった。

 「そんな事ないよ。」

 耳元で聞こえる彼女の声はとても優しかった。

 「まだ短い時間しか立ってないけど、私にはアーロイが必要なんだ。何も特別なものなんてなくていい。あなたという人が必要なの。」

 今までの人生でこれほど必要とされたことはなかった。嬉しさや感謝、いろいろな感情が沸き上がってきた。伝えたい言葉もたくさん出てきたが、頭が回らない。

 「ありがとう。シルビィ。」

 いろいろ言いたかったのに絞り出せたのは一言だけだった。だが、シルビィは分かってくれたのだろう。優しく笑いかけてくれた。

 俺は俺のままでここに居ていいんだ。シルビィのお陰でやっと居場所を見つけられた気がする。

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