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古嵐探譚  作者: 更紗 悟
第一章 求めるもの
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ゴウライ

     6 ゴウライ


「おし。では、行くか」 と、ゴウライが言う。さあ、そこまで出かけるとするかという気軽さに聞こえた。

「え? どこへ?」

 (てのひら)に水気を擦り付けながら、クイは平常心を取り戻そうとした。

「急がねば、腐ってしまう」

「えっと……。あぁ、遺体が腐ると心配しているのね。いえ、あの方は、もう……。じゃなくて、なに? 貴方、もしかして、一緒に来るつもり? そう聞こえるんだけど?」

 ゴウライは、きょとんとした顔をする。

「そうだが。いやか?」

「嫌。というか、なんというか。唐突で、しかも、意味が分からないし」

「悲しい思いをした。だから、生き返らせたい。そのために無理をしている。だろう? なら、俺は、その手助けをしたい」

「助けてくれるの? 私の話が、本当かどうか分からないのに? そもそも、叶うかどうか分からない、私の自分勝手な願いなのに?」

 ゴウライは、またしても不思議そうな顔をする。

「おめぇの願いじゃねぇんだろ?」

「ん。そうは、言ったけど……」

「なんにせよ、そんな悲しい思いを、またさせちゃならねぇ。防げる方法があるんなら、叶えさせてやらねば、と思った」

「あぁ、うん、それは、そうね」

 クイは眼を泳がせて、思案する。ちらりとコランの顔も窺うが、彼は澄ました顔をしている。

 特に何も考えていないのだろう。

「はぁ……。断りたくても、こちらは弱い立場だしね。自由にしてもらえるなら、うんと言っておくべきね」

 クイは小声で呟き、うん、と頷いた。

「よし。許す。えっと、ゴウライ、と言ったわね。私のお供をする栄誉を与えよう」

「おお。栄誉ってのは、よくわかんねぇが、よし! 行こう!」

「うむ、行こう!」 と、クイは精一杯体を跳ね上げ、勢いよく手を上げた。


     *


 ゴウライの同行は決定となった。その決断もあっさりとしている上に、旅支度もあっという間に終わった。

 当面は食うに困らないだけの物を得たとはいえ、手下達を置いていく事に抵抗はないようだ。そもそも、ゴウライがビド達の頭になったのも最近の事で、飢え細る彼らを見かけて、同じような押しかけ問答をしたらしい。

 奇天烈な言動が多い頭であり、怖ろしくもあったが、ゴウライの優しさも手下達は感じていたようだ。ここを去ると聞かされ、大いに残念がり、別れを惜しんでいた。

 引きとめようとする声が上がった時、ゴウライは厳しい声で言った。

「俺は行く。クイの手助けになる。もう決めたことだ」

 決然として言うゴウライに、手下達は反対しなかった。短い間の頭領とはいえ、情のためにすると決めた事はする男だと分かっている。後はビドらしく、引き摺らず忘れ去り、静かに森の中へ去って行った。



「さて」 と、さすがに気恥ずかしそうに鼻を鳴らした後、ゴウライは肝心な事に触れた。

「四奏環を手に入れるといっても、どこに行けば良いんだ?」

「分からないわ。何しろ相手は真央。顕現する事すら極めて稀だからね。そうひょいひょい現れても迷惑だし」

「じゃあ、当てもなく彷徨っているのか?」

「当てもなくというより、情報収集しながら、進んでいるのよ」と、クイは無い胸を張った。

「呆れたなぁ。俺より歯歌だ」

「言うわね。でも、そんな連中に付いていこうというのだから、貴方も同じよ」

「同じか? それは、嬉しいな」

「どこかが欠けた、不完全な混成だという点では、同じでしょうね」

「不完全、か。……そういえば、あいつ、どうして喋らない? いつもそうなのか?」 と、コランを指差して言う。いつものように、周りを気にせず、コランは先に歩き出している。

「じっとしていると、凝物かと思うぞ」

 うんうん、とクイは同感を示した。

「だけどねぇ、凝物なら、動いたりしないでしょう?」

「そのぐらい、静かという事だ。それなのに、あの迫力。あいつ、何なんだ?」

「分からないわ。それを知りたいから、一緒にいるという面もあるの」

「ふぅん」

 否定したいということではないようだ。自分を負かしたコランに対して、負の感情を持っていてもおかしくはないが、ゴウライはただ興味があるだけのようだ。

「それより、何か心当たりない? この辺りで、真央とまでいかなくても、素真(そしん)が現れた話を聞かない?」

「素真かどうかは知らないが、おかしな気の素の話を聞いたことがある。モカテマ高地に、気の素クウに悩まされ続けている郷があると」

「あの気まぐれなクウが、じっとしているっていうの? それは、気になるわね」

「なら、とりあえずそこに向かってみるか」

「そうね。良かったわ、目的地ができて」

「大丈夫かぁ、そんなんで」 と、ゴウライは我が事ながら、可笑しそうに笑った。




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