中二病令嬢と第一王子
ここは王国で最も崇高な学園。15歳になると3年間、貴族、平民問わず様々な人がより勉学に励むべく集う場所だ。そんな学園の入学式で人々は浮き足立っていた。今年は第一王子が入学してくる。そしてこの国の宝石と言われている王子妃も。ある者は彼らに近づこうと、ある者は一目でも拝もうとしていた。
「新入生代表、シェフィールド公爵家ジュリエッタ令嬢による挨拶です」
カツカツと音がする度、場内にざわめきが起こる。漆黒の髪、マグマの様に赤い瞳、絹の様な美しい肌、あどけなさは少し残るが鼻筋の通った美しい顔、服越しでも分かる女性らしい身体に皆が見とれていた。彼女が壇上で頭を下げる。王族、しかも第一王子、未来の陛下が挨拶とはいえ頭を下げたのだ。場内は騒々しくなる。
「我が名はジュリエッタ=シェフィールドである。地平線の彼方からこの学園へ舞い降りた。この身に宿る聖なる力とこの聖剣で世界に蔓延せし悪を滅ぼす騎士となろう」
彼女は中二病だった。
やっちまっな。まずどこを見ても山ばっかりのこの国に地平線なんてねーよ。第一王子レクトール=ハインツは嘆息した。堂々と壇上から降りてくる彼女は、厳しい表情を作ってはいるがチラチラとこちらも見て愉悦を覚えたような顔をしてくる。また、どこからかさすがです女王さまと聞こえてくるが、もう慣れ切った彼は更に深い溜め息をつくだけだった。
そんな彼女と婚約が決まった当時の話をしよう。ジュリエッタとの出会いは5歳の時である。その頃の彼は大人しすぎると有名で、本を読まない時でも下を向いているような子供だった。逆にジュリエッタは手がつけられない程活発な子供で有名だった。
そんな2人が出会ったのは貴族達の子供の披露会である。子供の内から仲間を見つけ将来支え合い国に役立つようにと願いをこめた集まりであった。そんな事もつゆ知らず、彼は読書の場を求めて人気の無い所に、彼女は王宮に眠りし秘宝を見つけるため探索にそれぞれ出かけてしまった。
「おい貴様、伝説の聖剣はどこにある」
いきなり第一王子を貴様呼ばわりした彼女にレクトールは驚いた。彼女の美しさに一瞬惚けたが、王族をそのように呼ぶのは明らかに不敬だ。あと普通の聖剣ならともかく伝説の聖剣などこの世界どこを探しても無い。
「僕が誰か知ってるかい?いきなり貴様呼ばわりなんかしちゃ駄目じゃないか、それに名前を名乗らないと」
レクトールは王族として勇気を出しながらも優しく諭す。しかしジュリエッタは動じなかった。
「お前が王子など知っている。王子なら伝説の聖剣くらい知っているだろう?どこにある」
話が通じなかった。それどころか貴様からお前になってしまった。名前も教えてくれない。僕の手には負えないと、レクトールは結論づけ辺りを見回し両親を探す。すると両親はこちらを見て微笑んでいた。拳を握り胸の高さまであげ、口元は頑張れと動いていた。
レクトールは絶望した。理由は分からないがこの場を1人で対処しなければならない、しかし自身の性格を考えると到底無理な事であった。震えながらジュリエッタに問いかける。
「君は聖剣を見つけたらどうするの?」
「世界を征服する。まずはこの国からだ」
国家反逆罪だ。あまりもの発言に開いた口が塞がらない。衛兵を呼ぼう、そう決意した。
「我が右腕がこの城内に入ったとたん疼きだした。これは聖剣に導かれた際の反応だ。何かヒントがあるはずだ、ついてこい」
衛兵を呼ぶ前に腕を掴まれ連れていかれる。王族の誘拐だ、これはもうギロチン行きだ。両親を見るとどこかの夫婦と共に、こちらを指差しながら腹を抱え笑っていた。
「いいか、この世界は神により創造された。しかし人類にとって未だ世界は未知の存在で溢れかえっている。つまり聖剣を見つけ出すのは神からの試練なのだ」
黙ってついていくレクトールにとって、彼女が未知の存在だった。そして試練であった。何とか彼女から逃げようとするが子供の男女の力など変わらない、それどころか女性の方が強いまである。実際彼は彼女の手を振りほどく事はできなかった。
2人は小さな池に辿り着いた。地面よりすこし高いところにある、レンガで作った人工の池である。そこは王弟殿下が指示を出し庭師が丁寧に造り上げた、王宮で最も有名な庭園の中心地だった。彼女はハッとし指を差す。
「きっとこの湖の底に聖剣がある。これから我が魔法でこの水を全て抜いて見せよう」
魔法などない。湖じゃなく池だ。それは知っていたが、その頃にはレクトールも楽しくなっていた。彼女がこのあとどうやって水を抜くのか気になる。ワクワクしてきた。
「はあぁあああああ......ウォータームーヴ!!」
彼女は池の栓を抜いた。勢いよく水が溢れ出すとともに、周囲を水浸しにしていく。魔法ではないじゃないか!!彼は憤慨した。
「魔法はどうしたのさ」
「我の魔法は現実と区別がつかない」
レクトールは納得した。魔法とは非現実的なモノである。だがしかし、非現実的過ぎるが故に現実的に見えてしまう。と、彼は理解した。
全ての水が抜けきった時、周囲はずぶ濡れであった。芝生の上では水を探して色とりどりの魚が跳ねている。この後どうするのかと見ていると、彼女は言った。
「ふむ、ここには無かったか。だがいずれ我が右腕に封印されし光が聖剣へと誘おう。いくぞ」
彼女が叫び、子供らしく可愛い右手を上げたところへ丁度後光が差す。レクトールに衝撃が走る。きっとこれは神のお導きだろうと信じ、彼女の後を追うことにした。惨状を残したまま。
王弟殿下は今日もナンパしていた。王とは年が離れた彼は、まだ20歳そこそこと若いながらも官僚として驚く程の才能を発揮し、遠方の国にさえ王の背に王弟の目ありと言われるほど名声を高めていた。だが女癖が悪かった。妻と3歳になる息子がいるが、今日も見知らぬ美女とチュッチュしようと庭園へ誘いだした。
「見てごらん、ここが僕が造り上げた王国でもっとも有名な庭園なのs......イャアアアアア!!僕の庭園がぶっ壊れてるぅウウウウ!!」
陛下の元へ伝令が走る。王弟殿下が不倫相手を連れ半狂乱になっていると。陛下は爆笑して、かつて戦場の武神と呼ばれた王弟殿下の妻に伝えた。彼女は目の前の柱にヒビを入れた後、何処かへ駆けて行った。だが、妻に伝えたのは少しやり過ぎかも知れない。でも普段生意気だからちょっとくらいいいだろうと考えた。妻に伝えたのは伝令ということにしよう。
王弟殿下の心を抉った2人はその後も探索を続ける。場内の林や川の中、騎士の甲冑の中、陛下のベッドの下まで。さすがにまずいと思った陛下が止めに入った。
「そろそろ聖剣探しは終わりだ、今から話があるので2人共くるがいい」
衆目の中陛下が言った。
「父上その前に聞きたいことがあります」
レクトールは尋ねる。陛下も気になったので続きを促した。
「ベッドの下にあった道具は何に使うのでしょうか」
衆目の中レクトールは言った。陛下が冷や汗を流す。そんな時背後から気配がする。王妃である妻だった。なぜここに、先に向っているはずでは。
「あなたの弟が、陛下のことが心配だから見てこいと仰られたの」
王弟殿下の復讐であった。陛下の妻は夜会の鬼神と呼ばれている。陛下は今夜、自身の身に起きることに不安を抱えつつ、何も言わず彼らを連れ貴賓室へと向かった。
青い顔をした陛下と一切笑顔の崩れない王妃に先に入るから準備ができ次第入ってこいと言われる。化粧直しをした後、揃って貴賓室に入る。そこには3組の夫婦がそれぞれのソファに座っていた。左の白くなった顔の男と笑顔が怖い女性は彼の両親であり国王夫妻、右はシェフィールド家公爵夫妻、真ん中の男性は顔がおかしなことになって誰だかわからないが、隣に王弟殿下の妻が座っているのでそういうことだろう、彼女は過激だから。
父であり陛下が言う。
「実は集まってもらったのには理由がある。実は君たち2人、レクトールとジュリエッタの婚約が決定した。おめでとう将来の国王と王妃だ」
彼女がシェフィールド家の娘だと今知った。それよりもレクトールは先ほど神の導きだと感じた事を後悔した。良き友としてなら暮らしていけるが、妻となると無理である。妻ならば訳の分からないことを四六時中聞かなければいけない可能性がある。無理だ。あれは神の導きではなく悪魔の誘いであった。そしてここにいる人達は悪魔と契約したのだと。
「我は聖剣を探す旅に出なければならない。それ故婚約などは出来ぬ」
訳の分からない断り方だがジュリエッタを応援する。旅に出てしまえば結婚どころか婚約すらできないだろう。
「聖剣ならウチにあるぞ」
シェフィールド公爵が言う。陛下と不倫野郎も知らなかったのかという風にジュリエッタを見ていた。
「伝説の聖剣が欲しいんだよね?ジュリエッタ」
「あ、ああ……」
念押ししたはずが揺らぎ始めているジュリエッタに不安になる。
「婚約するならやるぞ普通の聖剣だけど」
「婚約しよう」
潔い返答だった。レクトールは項垂れる。
「聖剣を手に入れて世界を統治するのであろう?それならば王妃教育が手っ取り早い、来月から始める。あと休憩時間はレクトールを聖剣の試し切りに使ってもいいぞ」
女の敵人間のクズの提案にジュリエッタは歓喜し国王夫妻の前へ跪く。
「これより我、いや私ジュリエッタはこの国を、国の民を、そして王族を守る騎士になることを誓います」
レクトールは膝から崩れ落ちる。ジュリエッタは騎士ではなく王妃になる予定である。あと忘れてもらっては困るが、試し切りされるレクトールは先ほど守ると誓ったこの国の王族である。あまりにも理不尽すぎて彼は何も言うことができなかった。
こうして僕らは婚約者になり共に生きていくことになる
初連載物の試作として作りました
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