コップ
この時のクスナは長老が当然ケイを治したいのと思っていた。
そのためにもなるべく長老に多くの情報を伝えた方がいいと判断したのだが……
「長老?」
クスナは不審に思った。
今、長老はケイのことが心配と言った。ケイの怪我を治したことで喜びこそすれ、怒る理由はないはずだ。
その疑問を口にしようとしたのだが。
「長…老……?」
呂律が回らない。
視界がおかしい。
目の前にいるはずの長老が歪んで見える。長老だけでなく目の前のものすべて、視界が歪んでいた。
歪んで見えた長老の腕がぐにゃりと伸びた。
長老の指がクスナの首にかかっていた。
「あの毒は長年研究を重ねて、呪いと相性のいいものを選んだんだ」
「なにを?……」
長老の指がクスナの首をしめていた。
「毎日毎日少しずつ念を込めて、呪いをかけたのにそれを浄化させただと?」
「次こそ最高位になれると思ったのに。すべて台無しだ。おまえのせいで! おまえとあの捨て子のせいでっ!」
捨て子?
クスナには何のことかわからなかった。
「長……くる、し……!」
外そうともがくが体に力が入らない。
その時だった。
ミンが部屋に入って来た。
「長老、何を……」
ミンは、慌てて長老に体当たりする。
女性であるミンは体力では敵わないと判断し、この時、魔法の打撃も加えていた。
壁にぶつかった長老は低く呻いて昏倒した。
やり過ぎた! とミンは思ったが後の祭り。
長老が襲い掛かっていた人物は……?
「導師様!?」
そこにいたのは、レファイ家に雇われている魔導師クスナ・ク・ガイルだったのだ。
「なぜ、ここに?」
だがそんな悠長なことを考えてる場合ではなかった。
クスナは意識がない。それだけならまだしも苦しそうに首を掻きむしりぜいぜい呼吸していた。
テーブルの上のコップ? まさか……とミンは思うが。
「導師様、大丈夫!?」
ただ、首をしめてるだけじゃなかった。
叔父でもある長老が毒を飲ませた? ミンは信じられない思いだった。
だが、考えてる暇も悩んでる暇はなかった。




