機嫌が悪い
だがロイの返事は、予想に反するものだった。
「無事だ」
とロイ。
「ちょっと激しかったから、変わりに俺がこの導師を送り届けに来た」
激しい、という言葉にカースはますます哀れみの目をクスナに向けた。
ロイはクスナから離れ、長老にそっと耳打ちする。
「ケイの怪我ならこの男が治したぞ。お前が犯人だってことは内緒にしてやる。もうおかしな真似はするなよ」
長老は冷水を浴びせられたような気分だった。
待ち望んだものが手に入る――そう確信したのに、それをこのクスナという男のせいで壊された。
長老はクスナを睨みつける。
だが、ロイとカースのいる手前、すぐに目を反らした。
* * *
ファウと、環境維持ロボのキョウは、泉から帰って来た小舟に走り寄っていた。
思わぬところにファウがいたので、長老は焦った。
一瞬、自分の悪事がバレたのか、なんて危惧もした。
長老は恐る恐る舟から降りる。
「お勤めご苦労様です」
だがファウは長老には一礼する。
長老は平然を装う。
ファウは、その後から降りるクスナに手を差し伸べた。
「どうされました?」
クスナはファウが迎えに来るまでは予想はついていたものの、自分がまるでレディであるかのようにこんな手を貸されるとは思わなかった。
「なんか、顔色が悪そうだったから」
ファウのその言葉に、長老は冷笑する。
「なんでも、激しかったそうですね」
長老は嫌味のつもりのようだ。
それに関してクスナは何とも言えない顔をした。
嫌味を言いつつ、憎しみのこもった目つきで長老は帰って行く。
「どうも、長老は機嫌が悪いようで」
クスナは苦笑していた。
長老の行動はおかしなことだらけだ。目の前の最高位が誰かもわかってないし、大怪我の人物を前に笑っていた……?
クスナにとっては不可解以外の何物でもなかった。
「何かあったの?」
とファウが聞く。
「最高位の一人が怪我をしていまして魔法で治してきました。結構な怪我で疲れました」
「怪我?」
ファウは怪訝な顔をするが、クスナはどう説明したものか困った。




