ひょっとして
ミンはケイの顔を見た。仮面で隠された顔は笑っているのだろうか?
ケイという男は、女相手に決してこんなこと言わないはずなのだ。
「あなた、まさか……」
ミンはあることに気づいた。だがそんなはずはないと思い直す。
ケイとミンが見つめ合ったまま動かないので、長老は慌てる。
「嫌ですよ、ケイ様、私の姪に何をするおつもりで? 冗談きついなー。あ、あはは……」
強引に笑い声を出しながら、長老はケイとミンの間に割って入った。
「まあ、冗談だよ。きみも冗談で言ったんだろう?」
と、ケイはミンに言う。
ミンは長老に促されるまま、長老の後ろに押しやられた。
「今日の話はこれでおしまいにしよう。それと長老にお願いがあるんだけどね? 明日、クスナ君をつれてきてくれない?」
「クスナ殿ですか?」
「あぁ。嫌とは言わせないよ?」
ケイは仮面ごしに長老を睨みつける。
「クスナ殿になんの用事が?」
「僕が彼にとっても興味があるのは知ってるだろう。……そういうことだよ?」
ケイは笑ったようだった。
長老は複雑な面持ちで頷いた。
*
最高位が住まうとされる神殿は、ルウの地中央にある一番大きな泉の中にある島の中にある。
謁見に赴く際は、小舟に乗り島に渡る。
帰りの舟に乗っているのは、オールを漕ぐ兵士と長老とミンだった。
ミンは長老に怒られるのを覚悟していたのだが、長老の怒りはクスナに向いているようだった。
「……あの男娼風情が! よそ者の癖に。最高位をたらしこんだ……」
長老は、長老とは思えぬような口汚い言葉をつぶやいている。
ミンは宥めるでもなくその様子を見ていた。そして思い出した。
二番隊隊長であるファウが攫われた時――
長老と一番隊長である弟のガイルと、レファイ家に雇われた魔導師クスナ・ク・ガイルがが急遽、謁見に向かったのだ。
『私がですか?』
魔導師クスナは不思議そうな顔だった。




