7、クラフターギルド
「すみませーん」
冒険者ギルドと違って、きれいなお姉さんがいない。いないがカウンターの向こうにアホ毛がぴょこんと1本見えた。ドワーフ的な何かかな。生産ギルドだし。
「ここで工房を借りられると聞いてきたんですが」
「うん?」
よっこらせっ、という掛け声とともにロリエルフが顔を出した。どうやら踏み台が隠れていた模様。……ロリエルフ? 耳がとがっているし、エルフさんだと思うけど、エルフじゃない別種族の可能性もあるのかな。
「よく来たな。個室の工房は1時間500エーンだ。……!っと、 キサマ初めてだナ。クラフターギルドの案内をしてやろう」
……半ば無理やり案内されることになった。受付に人がいなくていいのか?
「すぐに終わるし、ここは自動化が進んでるからナ。一応受付にゴーレムを置いてきてるし」
『ヘイゴーレム嬢』って話しかけたら質問には答えてくれるらしい。ほとんどの手続きも可能な有能なゴーレムとのこと。
「ここが工房エリアだ。この大部屋は登録料1000エーンを払えばいつでも使えるようになるナ。定期的に……あー、1ヶ月に1回以上ギルドのクエストをこなしてくれれば自動更新されるからほぼ使い放題だナ。この入り口の柱にギルドカードを当てると入れる」
ついでのようにギルドカード出せ、とひったくられる。
「これで良し! 利用者登録はしたからナ。 あとは『ピッ』としたあとエーンを払えば入れるようになる」
「ここからは個室エリアだ」
廊下の両側に3部屋ずつ?
「少なくないか?」
「あー、実は個別空間になっててナ、6部屋しかないように見えるが実質無限だ。一部屋じゃ雰囲気出ないし、パーティーで来て別部屋に入りたいとき面倒だからナ」
なるほど。ゲームならでは。
「ついでに言うと、この個室では時間加速が使えるナ」
「時間加速?」
「そう、個別空間だからナ、部屋の中だけ時間の流れを変えられる。2倍、4倍、8倍から選べるナ」
え?! それってもしかして。
「わかりやすく言うと、時間加速8倍で個室を利用したら、1時間で8時間分の作業ができるナ」
「めちゃめちゃいいじゃんそれ!」
さっそく使いたい!と、詳しく聞くと、めちゃめちゃ高かった。2倍で1時間当たり2000エーンですって! 8倍だと1時間当たり5万エーン。そんな金あるか!
ついでにリアルリンクモードだとそもそも使用できなかった。
「時間加速ってこの世界では一般的なのか?」
「そうだナ、ダンジョンはだいたい入ると時間加速されるナ」
「ダンジョン! ダンジョンあるの? この近くにはある?」
「この近くには無いナ。あーいや、探せばあるかもしれないかナ? 割とすぐ出来ては消えるから」
出来立てダンジョンは浅く、ダンジョンと気づかれないことの方が多いらしい。きちんとしたダンジョンマスターのいない野良ダンジョンは成長も遅く、気づかれないまま自然消滅していくことも多いらしい。それに、その辺の冒険者が雨宿りをしたり、野生の魔物が巣穴にしたりして、うっかりコアを破壊してしまうこともあるんだとか。なんだその謎設定。
「ほら次に行くぞ」
廊下の突き当りには……カウンター?
「あれは、素材屋だ。初心者が使うような素材なら大体売ってるナ。商業ギルドほど大きな規模じゃないが、素材に特化した委託販売も受け付けてる。ギルドランクが上がると出品枠が増えるナ」
「ギルドランクって冒険者ギルド……?」
「クラフターギルドに決まってる。あとで教えるが、冒険者ギルドとおんなじようにクエストがあるから出来そうなものはやってみるといいナ」
納品クエストがほとんどで、木工系などはたまに家の修理のようなものもある、と雑談交じりに教えてくれる。
「この階段を上がると資料室だナ。大部屋と同じで入り口で『ぴっ』とすると入れるぞ。本の貸し出しはしてないが、ノートにメモすることはできる。あ、そうだ、スクリーンショットでとると真っ白になるから注意ナ」
このゲーム、微妙に割り切ってるのか、NPCの発言が割とメタい気がする。みんなそうなのかな。
「資料室、いいねぇ!」
ゆえちは本好きである。
自宅には学生時代から大切にしていた本が入りきらないほど置かれている。
老眼になったら本が読めない、と絶望しかけていた矢先にVR技術が発達してきて、VRリビングで電子書籍が紙の本さながらのリアリティで読めると知った時には狂喜乱舞したものだ。
そのため、ゆえちとてったの家のVRリビングには本部屋への扉が存在する。電子書籍のタイトルがずらりと並んだ、書店か図書館か? といった様相の本部屋は二人の宝物である。
「そういえばこの街に図書館はないのか?」
「ないナ。大きな図書館はホワイトブリックにしかない。他の街はせいぜい資料室か、特定分野に特化した書庫くらいだナ」
たびたび出てくるホワイトブリック、これはさっさとレベル上げて早いとこ行った方がいいかもしれない。
さて、最初の受付カウンターに戻ってきた。
「最後にクエストだが、一応このカウンターで受け付けている。……が、あたしらが面倒なんでナ、工房のあちこちに無人クエストカウンターを作っておいた。ゴーレム嬢に話しかけてもいいナ。納品以外のクエストの受注も出来るから、ここには、どうしてもわからない時やおかしいと思った時だけ、声をかけるんだナ」
そう言って案内は終わったとばかりに、ロリエルフの受付嬢(?)はカウンターの下に消えた。
「…………」
覗き込んでみる。
と、何やら紙にいろいろ書きこんだり、分厚い本をパラパラしたりしている。
「ね、何してるの?」
「! オマエまだいたのか! 自分の研究だよ。あたしの研究は書物相手が多いからナ、ここの受付を押し付けられてるんだよ。……まぁいるだけで給料がもらえるのはオイシイって面もあってナ……、あたしのほかに3人、交代でやってるんだ。わかったら行った行った」
クラフターギルド職員は基本クラフターなのか。人不足なら割り切ってバイトを雇えばいいのに。
いや、そういう設定か、運営の。わりとあちこちで現実を思い出させてくれる割に、こう、雰囲気がリアルで色々忘れそうになるな。それにそもそもバイト雇うくらいならゴーレム嬢増やしそうだ、ここの人たち。
「他の受付の人もエルフなの?」
そんなあからさまに面倒そうな目で見なくてもいいじゃない、と思う。
「あたし以外は違うナ。クラフトが好きなエルフは多いんだが、趣味に留めてるモンが多いナ。最近の若いもんは強さに憧れよって」
「最近の若いもん、ってあなたも若そうなんですが」
「これでも300歳は越えてるぞ? エルフの年齢は耳の長さで大体わかる。ロップイヤーなエルフを見かけたら長老と思うといいナ。ま、あたしはこんな形なので、異界の探求者どもにはよくロリだなんだ言われてナ、……ロリって子供って意味なんだって? ひどい話だとおもわんか? ナ?」
読んでくださってありがとうございます。