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5、フォレストジェイド

 再びの浮遊感の後目を開けると、そこは森の街『フォレストジェイド』だった。

 目前には、世界樹がそびえている。

 一目でわかる神々しさ。迫ってくるかのような圧倒的な質量感に息苦しさすら感じる。

 呼吸することを忘れるほどだ。ゆえちは思い出して深呼吸した。

 すぐ近くにあるように見えていたそれが実際には少し離れていることに気づき、改めてその世界樹の巨大さに驚愕する。


「天を衝く、というのは、こういうのをいうのかな」


 森の新緑の香り、木の香り、耳にかかる少し長めの髪を揺らす風。

 その本物としか思えない電子世界の情報量に、はじめて、ゆえちはここが現実ではない現実だと認識した。


「そうだ。フレメするんだったな」


 自分の立っている場所を確認すると中央の広場であるらしい。そこそこの人が絶え間なく行き交っているそこにはお約束らしく噴水があり、待ち合わせでもしているらしいプレイヤーがウィンドウを開き操作しつつきょろきょろしている姿もちらほらみられる。

 ゆえちも『てった』にメールを送った。



   ・・・



「うわー」


 てったに会って、開口一番これである。


「3Dモデルで見てたから知ってたはずだけど、中学二年生寄りに進化してるー」

「うっさいな、諦めて好きなようにやることにしたんだよ」

「イヤイヤ眼福ですよ旦那さま? 惚れ直しましたって。いやーいいねぇ。ぷふっ」


 ニヨニヨすんなと言いたい。


「そういうてったこそ、何それ。なんで、オトコになってんの? しかもだいぶ若くなってない?」

「永遠の17歳ですっ☆」

「うっわキモイやめろ」

「って言おうと思ってたけど女辞めちゃったしね、通りすがりの美少年ですっ☆」

「うーわー」


 17と言ってはいるが、実際にはもう少し上に見える。20くらい?あえて艶のない灰色の髪は、毛先に向かって赤にグラデーションを描いており、少し長めのショートカットが風に揺れる。


「女性が身体の最適化すると美形になりやすいっていうけどホントだね。いろいろ試してみたけど、中性的な感じになりやすかった。男ゲージグイってするとむっきむきでコワモテになることはなるけど、さすがにそれで決定する勇気はありませんでしたー」

「身長は僕よりちょっと低い? 170くらい?」


「あたり。あんまり高くしすぎても動きにくいかな、と。……あのさ」

「?」

わたしって言って」

「??」

「ゆえちの一人称。できたら、『わたし』にして」

「は???」

「イメージが! イメージが私な感じなんだよ!! さっき僕って言った時の違和感がすごかった、それか一人称『俺』の俺様キャラロールプレイででお願いします」


「くはっ」


 ゆえちは床に崩れ落ちた。諦めてたはずなのに、まだ割り切れていない部分があったようだ。

 いや、そうでもない。

 ユラリと立ち上がったゆえちの顔には、ニヤリと不敵な笑みが浮かんでいた。


「分かった俺、な」


 それを見たてったが「きゃー」とクルクル回っている。

(うわー、昔読んだ酸素の息子さんみたい。)

 なんかつぶやく声が聞こえるが、聞こえない、聞こえない。


「すぐ慣れるよ! メッチャかっこイイ!」

「わーったよ、ありがと。……それだったらてったも「僕」な!」

「うぐ」

「いつもみたいに「あたし」とか禁止な。通りすがりの美青年が一気におねえ化するからね」

「わかった」

「あ! あと! 必要以上に近づくんじゃねーぞ!」

「?」


 眉間にしわを寄せるゆえち。「なんでわからないかなぁ」呟きながら、肩を寄せ、てったの耳元に口を寄せ……ちょっと演技をする。


「例えば、こんな状態の俺らが、どっかの誰かみたいな人からどう見えるか、……解るだろ?」

 ハッっと大げさに仰け反るてった。

「そうだよ。基本同一視しないから気づいてなかったよ。そうだよねー」


 本好きの、過去女子だった女性が嗜んでいないわけがない。がっつり老腐人としての素養があるてったは、うっかり自分で妄想しそうになって困惑するのだった。


「ヤバイ。あた・・・僕今、男なのに惚れそう」

「中身老女でしょう。何言ってるんですか(小声)」

「老女言うな!リアルばれ禁止(小声)。あと、後でスクショをと」

「却下!」



        ・・・ 

 


「あれ? 前衛なの? 回復系って言ってなかった?」


 話は目標ジョブに移っている。


「ソロヒーラー、パーティー時は支援もします。得物はできたらハルバード」

「どう見ても破戒僧だな、ん? ……ああ、初心に返ったわけか」

「そうそう」

「そういえば好きだったな、自分のHP常に満タンに保つの」

「そうそう。ソロで戦える力と回復能力の両立をしようと思うとこれに行き着く」


 ゆえちとてったは、なんとなくパーティだけは組んで、それぞれ好き勝手するスタイルを予定している。


「そういえば、リアルリンクシステムのモニターの特典称号見た?」

「あ、忘れてた」

「かなりいい効果だったよ、RVRモードでしかセットできないけど」


 早速確認する。『かけだすトラベラー』


「ん? 初期称号と同じ、じゃねえ。何この名前」


 効果は、取得経験値UP(小)に加えてスキル熟練度上昇値UP(小)。しかもレベル制限がない。


「ぱっと見、他の人から分からないようにじゃない? まぁ、非表示にするけど」


 お互い最近ご無沙汰とはいえそこそこゲーマーである。目くばせしあう。


「称号はデフォルトだと見えるもんな」


 早速称号を付け替えて、非表示設定にして、と。


「まずは、目の前で勧誘合戦してる初期スキルのチュートリアルだねー」

「だな」

 

 

        ・・・




「剣術体験はここだぜ! 剣術スキルに興味があるやつ歓迎だ!!」

「槍はスタイリッシュですよ! 返り血も少なくて済みます! 多分! 槍術いかがですか?」

「回復魔法は必須ですよー。 パーティーに一人、回復スキル~」

「火魔法こそロマン……! いつか大火力に化けますよ!魔法使ってみませんか?」

「鍛冶師見習い募集中だ! 今なら最初から叩かしてやる! 自分の武器のメンテナンスもできるぞ!」

「罠術は……」「風魔法……」「短剣術……」「薬学……」「錬金術……」


 大学の新入生のサークル勧誘光景のようだ。違うのは、勧誘してる人たちの半数以上が美形エルフであることだろうか。エルフのイメージを覆すフレンドリーさである。

 一応断りを入れると、いつでもこの光景が広がっているわけではない、らしい。ちょうど第2期のプレイヤーがログインするタイミングだったらしく、このお祭り風景となっているようだ。

 世界樹の荘厳な雰囲気ぶち壊しである。



「すみませーん!剣術体験させてください!」


 早速声をかけてみた。


「お、よく来たな。剣を選ぶとは目が高い。まずはこの初心者用木剣をやろう」

「こうやってトレードするんだ。そうだ、それで合ってる。インベントリの中に入っているハズなので確認するといい!」

「インベントリ、と声に出していってもいいし、ウィンドウのメニューからインベントリをタップしてもいいぞ! 慣れたら考えるだけでもOKだ!」

「よし、インベントリのウィンドウを開いたな。アイテムウィンドウと呼ぶことも多いぞ。先ほどやった初心者用木剣を取り出してみろ!」


 正直返事する暇すらない。ウィンドウを見ると剣のアイコンがピッカンピッカン点滅していた。このゲーム、かなりの親切設計おせっかいだ。


「出せたな! 早速装備してみろ! 装備しなくちゃ意味がないからな」


 ただ『持つ』のと『装備する』のってどう違うんだ? 首を傾げていると装備ウィンドウのことを説明される。お気に入りの装備の組み合わせをセット装備として保存したり見た目の微調整をしたりできるらしい。


「細かいことは、メニューから見られるヘルプの書でも読んどきな! 大体のことはここに書いてあるそうだぜ!」


 ゆえちは剣を装備し、ついでに他には初心者用の服と靴しか装備していないことを確認した。


「よし、しっかり握れ。そうだ。もう少し上を持つんだ。親指の位置はここだ」

「うむ、悪くないな。振ってみろ」


 ぶんぶん。


『ぴろん♪ スキル【剣術】を取得しました』


 えー? これだけー? 初級スキルだし、そんなものなのか。そんなものなのか?


「これでよし。<横薙ぎ>ってアビリティが増えてるのはわかるか? 使い方がわからなきゃ、メニューからアビリティを開いてヘルプボタンを押すんだな! スキルレベルが上がると色々覚えるから試してみろ、強いぞ! あと、ついでだ、冒険者ギルドに登録しておけ」


 流されるまま光る板に触れさせられ、ギルドカードを押し付けられる。


「時間があったら訓練もかねて【剣術】を使ってホーンラビットを1匹狩って来い。そうしたらお勧めスキルを教えてやろう」


『ぴろん♪ クエスト「剣術の訓練」を受注しました』

 え? 強制的に受けさせらるの? クエスト詳細見たい。


===========================

クエスト:「剣術の訓練」

種別:討伐

対象:ホーンラビット(0/1)

条件:【剣術】スキルをアクティブにして討伐

期限:なし

詳細:剣術ギルド体験で取得したスキルを使ってみよう!

報酬:100エーン、パッシブスキル【斬撃ダメージUP(微)】

===========================

 期限も受注制限も無さそうなことを確認。なるほど。

 てか、アビリティ使って討伐、じゃないんだ。スキルセットだけでいいとは、だいぶ緩い。


 大体わかったつもりになったゆえちは、他の多くの人と同じように、目につくスキルを片っ端から取りまくった。


 【剣術】【短剣術】【投擲術】【縄術】【革加工】【木材加工】【繊維加工】【金属加工】【鍛冶】【細工】【裁縫】【薬学】【錬金術】あとは【生活魔法】と、【サバイバル】。


 なお、生産系スキルを最初に取得した時、生産ギルト加入の強制イベントがあったこともお伝えしておく。【裁縫】のおばあちゃんは、おっとり優しく、丁寧だった。

 そして今、早速、一番やりたかった錬金術を試しているわけだが。


「なんでどれもこれも溶けちゃうわけ?」


 もちろんアクティブスキル枠には【錬金術】をセットしている。

 その辺の石を拾って錬金術スキルを使用しようとしたら、できそうな反応があったのでやってみたのだ。できそうな、というのは、錬金台に乗せた時にウィンドウが浮かぶ状態を指す。『小石+小石』『小石+小枝』のように表示されるが、それだけだ。ちなみにできそうじゃない時は錬金台の上に載せても何も反応しない。

 何かやり方があるのかもしれない。アビリティ使うとか。攻略サイトや掲示板を見るのは意に反するが、サービス開始から半年経ってるし何かしらノウハウがありそうだよなー。

 ゆえちの心が揺れ動くが、ぐっと耐える。


「ひとまず錬金術ギルドの人にきいてみよう」


 

        ・・・



「どんなスキル取った?」


 老夫婦で昼食中である。


「私は予定通りだよ。回復魔法と槍と剣とメイス」

「メイスなんてあったか?」

「うん、棍棒術って名前ね」

「武器3種類なのは、ハルバードを見越してか……」

「ひとまず槍中心に上げようかな、とは思ってる。派生で薙刀出るって情報があったんだけど、剣術も取ってないと出なかったんだってさ」

「複合派生あんのか。ふふは」

「嬉しそうだねー。そっちは?」

「生産系を目に付く限りとりまくって、あとは剣術と短剣と、投擲、だったかな」

「どんだけとってんのよ、それだけで午前中終わってない?」

「バレた。でも少しは他のこともしたよ?」

「戦ってはいないんでしょ。レベル上げないとスキル枠増えないじゃん」

「午後からはレベル上げするつもり。どこで狩ってたの?」

「東側から出てすぐの森。うさぎといもむし」

「ちなみにずっと動いてて疲れなかった?」


 二人とも午前中はリアルリンクシステムを使ってプレイしている。実質ずっと立ちっぱなしということだ。


「実は結構疲れた。だから、午後からは普通のVRにする」

「予想通り結構いい運動になるね。そうだ、レベルいくつになったの?」

「6。割とすぐ上がるよ。一通りスキルのクエストやってパッシブスキルも覚えた」


 そこで何か思わせぶりな顔をしている。いやこれはどっちかというと悩ましい顔か?


「なに? なにかな? その表情かお?」

「いやさー、多分、スキルたくさん取ってる人であればあるほどスロットが足りなくて、うがーってなる予感? いっぱい取ってるんでしょ?」

「がんばる。……つまり6レべだというのにうがーってなってんの?」

「そう。うがー」


 こんなこと言っているが、決断力は高めなのでもう方針は決めてるんだろう。詳しくは聞かないことにする。


「明日の朝イチ一緒に狩り行こうね!」

読んでくださってありがとうございます。


この後は書き溜めのあるうちは毎日投稿、そのあとは週2投稿くらいのペースで出来たらいいな、と思っています。

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