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3、キャラメイク

「『IN the GRIMOIRE ONLINE』の世界へようこそ!」


 かわいらしい声でと共にログイン特有の浮遊感。そして景色は真っ白な部屋になっていた。目の前の重厚な机の上には1冊の本が置かれている。今ではほとんど見ることのない革表紙の立派なものだ。表紙のタイトルは読むことができない。


「グリモアってタイトルじゃないのがむしろ意外だね」


 本の上ではビックリマークアイコンが主張している。


 もちろん開く。


「うわあ」


 ……吸い込まれた。


 剣戟が、大樹が、龍が竜が、魔法陣が、飛び散る花弁が、白い街並みが、鐘の音が、草原が、様々な姿の人々が、目くるめく景色の奔流。

 それは突風のように襲い掛かり、数秒で収まった。


「びっくりしたぁ。今のオープニングか。公式のストーリーで多少予想はしてたけど、すっごい没入感だな」


 VR技術も日々進化しているのだ。

 どうやら白いレンガ造りの壁に囲まれた庭のようだ。少し先に東屋が見える。どこかの城の中庭みたいだ。

 見廻して、東屋に向かう。東屋の中になぜかカウンターがあって、気だるげに座っている女性がいるのだ。受付嬢か?周りをピコピコ動く妖精(?)が飛んでいる。


「こんにちは」


 声をかけると受付嬢が背筋を伸ばした。


「はじめまして、『IN the GRIMOIRE ONLINE』へようこそ。異界の探究者様ですね。本日探究のサポートをさせていただくAIのナビゲーターです。よろしくお願いいたします」


 つられて一緒に礼をする。


「まずはキャラクター設定を行いましょう」


 お願いね、とナビゲーターさんが妖精に声をかけると、妖精がくるりとひと飛びして光るエフェクトと共に大きな鏡が現れた。


「メニュー画面を開いてください」 


 あー話しかけるスキがないな。情報収集されないように割と他人行儀なAIなのかな? 思いつつ言われるままに操作する。


「ウィンドウ」


 このあたりの基本操作はVRアプリ全般と変わらないようだ。視界の端で小さく開いていたウィンドウが目の前にやってくる。


「お客様はすでにアバターデータを作成しておられますね」

「あ、はい」

「では、タップして呼び出して下さい」

「ほい、キャラクター名、『ゆえち』っと」

「それでは現在のアバターに反映させますね」


 実は、あんまり直視したくない。アバターは奥さんと一緒に作っていたのだが、作成時、散々からかわれたのだ。しかも絶対変えちゃダメだという。……ちらっと鏡を見る。

 鏡に映るのは超絶イケメンだった。ちょっとおっさんだけど。

 自分のアバターだと信じたくないが、一応確認する。右手を挙げたら向こうは左手を上げた。首を振ると向こうでもアンニュイに首を振っている。くそっ。


 外見年齢30代半ばくらい、自分で言うのもなんだが、大人の色香ってやつが凄まじく漂っている。本体爺なのに。なんでこんな恐ろしくイケメンになったんだ。正直微調整しようといろいろ足掻いたのだが、ダウングレードは案外難しく、5分で断念した。自分の生体データをベースに年齢バーを適当に若くして『身体の最適化』を実施しただけだ。僕は悪くない。そのあとは髪型と目の色をいじってみたが大して効果はなかった。

 余談だが、この『身体の最適化』はとても優秀で、顔は微かに自身の面影を残しつつ美化を施し、体形も含め絶妙なバランスでアバターを『いい感じ』にしてくれる、と説明されている。実際、クッソイケメンだが、自分の面影はある。だからきっと、多分、おそらく、みんな美形になっているハズだ。そうだそうに違いない。


 ゆえちはそのことについて考えることを放棄した。……が、せめて髪型と色合いだけでも雰囲気が変わらないかと再度悪あがきをはじめ、ようとして、しばし考え込んだ。


(俺、楽しむためにこのゲームやるんだよな。)


 今、自分の髪は、無難なダークブラウンに少し長めの落ち着いた髪だ。


(なんで、目立たない、とか、無難とか考えてるんだっけ?)


 視線誘導を狙って金のメッシュが入っているのはワンポイントで、瞳の色だけは現実にはない色にしたくて紫だが。


(別に、もうちょっとはっちゃけてもいいだろ。少なくとも、公序良俗に反しない程度なら)

(現実と全くおんなじ、心の枷はめて、楽しいか?)

(楽しくないだろ!)


 ゆえちは、イケメンを最大限生かす方向に舵を切った。

 なお、体形は初期設定のままだ。もともと、まあ、弄る必要ない感じになっていたからである。

 いいだろちょっとくらい。シックスパックってやつに憧れるくらい許してくれ。


 VRゲームが普及し始めた当初、ゲーム内外での身体差の影響を考慮して体形はあまり変更できなかった。……が、「ゲームの中でまで短足……」「ゲームでキモデブとかww自分の姿見るのがツラくてソッコー垢削除したwww」などの意見が相次ぎ、一瞬で淘汰された。

 慣れない当初は現実との差で転びそうになる人もいたが、そういった人はVRリビングで慣らしてから現実に戻ればいいのだ。


「せっかくですので景色を変更しますか? メニューから変更できますよ」

「え? そうなの?」

「開始時に選択できる『クリムゾンフラワー』『フォレストジェイド』『アンバーオーシャン』の街のみですが」


 作ったキャラとの雰囲気を試す為だろう。


「クリムゾンフラワーは主に獣人が住む街です。草原の街で幻想的な赤い花畑の丘が近くにあります」


 途端に景色が赤い花びら舞う一面の花畑に変貌した。少し離れたところに素朴な街が見える。空は青く、高い。遠くで狼のような生き物が走って去っていった。


「次はフォレストジェイドですね。エルフの街です。世界樹と呼ばれる大きな樹の周りにツリーハウスを主体とした街を形成しています」


 鬱蒼とした森は先ほどの眩しいばかりの青い空を見た後だと薄暗く思える。フィトンチッドが溢れていそうだ。街並みを歩くエルフが尊い。


「アンバーオーシャンは海辺の街です。鱗を持つ住人が多いですよ。人魚のお店の噂もあります」


 白い砂浜の広がる、エメラルドグリーンの海が現れた。砂浜の向こうには桟橋と船が見える。海風など久しぶりに感じた。あそこを歩くのはドラゴニュートだろうか?


 なお『IN the GRIMOIRE ONLINE』では、種族を、既に解放された種族から自由に選ぶことができる。種族によるパラメータ格差も誤差範囲でしかなく、ランダムレアなどのガチャ要素は無い。

 ゆえちは、というと、せっかくいろいろ選べるというのにヒューマンである。悩みに悩んだ挙句結局ヒューマンになったのは、人気なさそうだから、という消極的な理由からだったりする。


「どの街を選んでも問題ありません。種族割合こそ違いますが、どの街にもほぼ全ての種族が住んでおり、基本的に良好な関係を築いています。全ての設定の最後にお聞きしますのでどの街から始めるか決めておいてください」

 

 ゆえちは、しばらく景色を楽しみ、自分の頭に猫耳や狐耳をちょっとだけつけて遊んだあと、しっぽをふりふり最初のヒューマン設定に戻した。なお、最初の東屋は中央にある都市『ホワイトブリック』とのことだった。ヒューマンがメインの街で、ほかの街より大きいらしい。開始場所には選べないが。


「ではステータスとスキルの設定をお願いします。メニュー画面から自分で設定されますか?」


 初期ポイント50ptを自分で振り分けるらしい。

 大体決めていたので、パパパっと振ってしまう。 


  STR:5

  VIT:5

  INT:5

  MID:5

  DEX:10

  AGI:10

  LUC:10


 正直適当だ。極振りロマンを活用できるプレイヤースキルと脳の反射神経が老人にあるわけがない。いろいろやってみて、必要ステを上げる方向で、決定、と。


「それではスキルについて説明します」


 公式サイトで見たが、ステータスがレベル制、スキルは基本自力取得となっていた。現在スキル枠は2つしかない。少なッ。


「スキルには、パッシブスキルとアクティブスキルの2種類があり、レベル1ではそれぞれ1つずつ空きスロットがあります」


 ふむ。


「スキル枠は開放ポイントを使って解放できます。パッシブスキル枠は3pt、アクティブスキル枠は2ptで1枠開放されます」


 ふむふむ。


「スキル枠開放ポイントはレベル上昇で取得できるほか、イベントやクエストで取得できることがあります」


 ふむふむふむ。


「スキルは様々な行動で取得できますが、スキルスロットにセットしなければ効果を発揮することはできません。具体的には、パッシブスキルの場合はそのまま効果を発揮しません。アクティブスキルの場合は<アビリティ>が使用できませんね」


「アビリティってのは?」


「例えば【剣術】のスキルですと、<横薙ぎ>を初期アビリティとして使用できます。攻撃対象との距離が効果範囲内の場合に「横薙ぎ」と言っていただくか、剣を横に構える動作から横に薙ごうとするとシステムのアシストが発生し、一般的に通常攻撃より強力な攻撃が放たれます。光るなどのエフェクトが発生するのでわかりやすいですよ」


 ふーむ。


「また、スキルの熟練度はスロットにセットしていないとほとんど上昇しません」

「ほとんど?」

「はい。セットしていなくても、該当する行動を取りますとごくごく微量ながら上昇いたします」


 スキル制であることくらいは公式で読んでいたが詳しいことはほとんど見ていない。どう枠を増やすかは悩みどころだな。


「スキルの取得数に制限はありませんので、自分なりの組み合わせを考えてみてください」

「……ジョブは?」 


 あるって書いてあったように思うのだけど。


「条件を満たせば職業が解放されます」


 最初からは選べないんだな、知らなかった。


「最後に称号について説明いたします」


 思ったより短かったな。チュートリアルは街の中でのパターンか。


「称号も、スキルと同様複数所持できますが、セットできるのは一つだけです。また、ステータスにはセットした称号のみ表示されます。また、非表示設定にもできます」


 現在の称号は、……『かけだしトラベラー』。効果はLv10まで取得経験値UP(小)か。


読んでくださってありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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