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午前2時  作者: ZOO
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人間の暗さ

第1章

人間の弱みは、握られてしまうと大切な人、物が、目に見えなくなる。大切な事は、自分の心には置かない。そうしないと、自分の弱さは、そこ一点に限られる。ショータイムは、夜でも昼でも、朝でも、いつ始まるかはわからない。頼りにする人を選ぶ、そうすれば、自分の醜さが分かるだろう。人は簡単に人を裏切る、目に見えている光の報酬に、人は簡単に騙される。物語の主人公には、どうすればよかったのか、分かるだろうか。分かるはずがない、脇役の想いなんて。


熱い、熱い、熱い!あの男の手には、沸騰間近のやかんが、斜め下を向いて女の口にたらたらと、流れている。女は眼球に、手をおき、その汚い腕のアザを上下上下とゆらしている。


「もう、お願い!許して!」高い声で言うその言葉は、もう80回は耳に通っている。



「黙れ!お前が悪い、全部お前が悪いんだよなぁ、ハァ、ハァ、ハァ、その綺麗な顔がどんどんブスになってく姿、可愛いな!」


その男はそう言いながら、やかんの向きを徐々に真下に傾けている。やがてそれが1時間も続くと、女は口を開け、笑ったような顔で死んでいった。男は女を殺したあと、血が出るまで吐き続けた。



「おぇー」「おぇー」単調な声を上げ吐いている。その声は女の高い声に、少し似ていた。 男は、マンションのエレベーターを使い、1階まで降りるとそこにはその男の母親が涙を流しながら、男を抱き寄せ、



「ごめんね、ごめんね」と男の耳元で、囁いている。男は



「ママ・・・ もう遅いよ」と、呟いた男は、母親の胸を血の付いたサバイバルナイフで、刺し、上に下に動かしている。やがて、母親の声が小さく薄れていくと、男は涙を流し、コンクリートの地面に力一杯握った拳を、振り上げ地面に叩きつけている。地面を叩く瞬間の音に、自分の奇妙な泣き声を、マンションの中に、響かせるように合わせている。血に染まった地面、そして、午前2時に悲鳴をあげているその声は、聞いたことがある声、ボリュームだ。マンションの部屋の、10か所の窓ガラスからは、人が棒のように見ている。男は、何度も地面を叩き殴り終えたあと、マンションの方へ、真顔のまま、歩き去っていく。真っ白な壁に、黒く光かけているエレベーターを、使わず、階段を使い自分の405号室に、戻ろうとしている。彼には今、筋肉の疲労、精神的疲労が正常の人間の、20倍ほどの、圧がかかっているのではないだろうか。エレベーターに乗れば、一人の静かな時間、長方形の空間が、彼の現実を呼びつける。しかし、階段ならば自分のサンダルの音が耳に残る。現実を待たせることができる。男の顔には、疲れが出ていた。唇がカサつき、目のクマが男の印象を暗くし、笑った時の口の中は、白いものが見えなく、不気味すぎる。今までの展開で、自分の部屋に戻るという行為は、「ヤバイ」の概念を変えいるのではないだろうか、拍手喝采を送りたいと思ったほどだ。「ハイ、カット」!その声が鳴り響いた時、僕の目に映っていたその光景は、映画のシーンという型に、ハマる。



「まぁこんな感じかな、君に最高の演技をしてもらうために、人気のない小劇団に一連の映画のシーンをやってもらったんだ。どうかな?」


「感動しました。凄すぎます、こんな素晴らしい作品、僕なんかが、主役をやらせてもらっても良いんですか?」

あまり思ってないことを言うと、人間、言葉に詰まる。ただし、作品がどうであれ主役を、やるとなると、この世界の関係者は見たこともない新人が、すごい演技をしている、となれば芸能社は見逃さないだろう。こんな、人生に一度あるか無いかのチャンスを逃してはならない、その強欲の気持ちで僕は今、嘘をついている。監督を「よいしょ」、しまくっている。今後の、人生のために。僕の夢は一流の役者、だった。憧れて10年、今はコンビニのバイトと、居酒屋のバイトを、両立している。そして月1、2回ある映画、ドラマのオーディションに参加し、たびたびそこの映画監督に、怒らてしまう。しかし、この時は、ちょっと違った。その映画監督から、


「だから、感情がねぇーだよ。この役の気持ちになって考えて芝居しろよ。なぁ、分かったか?じゃあ、よーい・・・ハイ!」

今さっきから感情をフルに出し、演技しているつもりなんだが、やはり向いていないのかと思い、監督が言ったように、役の気持ちになりきり120%の演技をしてみた。どうなっても良いや、という気持ちで。演技が終わり、また受かんないんだろうなと思い、監督の顔を見ると、唇が1秒間に何十回振動しているんだ、と思うように、震えていた。そして目には涙が、次から次へと溢れていた。監督は僕に向かい、


「君しか、いない!この高校生役やってくれるね」

その時僕の10年間が一気に報われた気がした。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」

何回その言葉を、その場で言ったことだろう。じゃあ9月から、このスケジュールでよろしく。やっと役者、主演の役が出来る。監督に泣きながら、良い映画にしましょうね、と握手を交わし、ドアを閉めた。さすがにあの一言は、余計だっただろうか。期待や不安を胸に抱えながら、いつもの4階建てのオンボロマンションに、オンボロ自転車で帰る。こんな日々から早く解放されたい、そう思っていた10年、やっとチャンスが巡って来た 。僕はテンションが上がりまくり、昔の友人2人と、


「俺の家で一杯やろうや、俺の金で飲ませてやるからさ」とメールで伝えた。

3年前まで、一緒に役者を目指していた友人だ。その時の感情は、自慢が9割だったかもしれない。4階建てのオンボロマンションに帰ると、玄関の前に女の人がうずくまって、泣いている。気味悪さを感じながら、「誰ですか?」と疑問な気持ちのまま聞いてみた。ストーカーならば、とポケットには、左手を添えていた。女は顔を上げた。

「ズキューーーン」と音が鳴ったみたいだった。

とっても綺麗だった。一瞬で好きになってしまった。しかし、女の頬に、目を合わせると、打撲の痕や、切り傷が生々しく残っている。女はかすれた声で、


「人生・・・やり直せますかね。」

とゆっくり言い終わったあと、静かに倒れていった。

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