第一章 二話 零と紗月
さて、あの席替えと言う名の聖戦が終わって早1週間。
俺はいつもの通りの放課後、窓側の席に座っていた。
座っていたと言うよりも寝ていたと言うのが正しい。
5月初めの今日この頃、それはそれはとても気持ちいい風が流れていた。
瞼を閉じた世界も、黒ではなく鮮やかな朱色になっている。
外からは、何やらいつもより激しい声が聞こえてくる。
本当は、部活の掛け声が聞こえてくるぐらいが丁度いいのだが、熱量の高い声が響いてくる。
俺は少し重くなっていた瞼を開けた。
視界に映るのは、放課後の誰もいない教室……
ではなく、奥が輝いてる綺麗な蒼眼に、ちゃんと手入れのされており、夕焼けによって太陽のように眩しくなっている金髪と笑顔がそこにはあった。彼女は前の自分のイスの背を壁に向けて座っていた。
「やっ、おはよ。」
「あぁ、……おはよ……。」
寝ぼけながらも、太陽のような彼女に返答をする。
「やっぱ気持ちよさそうに寝るね。」
「お前も寝てみろよ、気持ちいいぞ。」
「じゃあ……寝てみようかな。」
そういうと、彼女は俺の机に突っ伏して寝始めた。
俺はイスの背もたれに寄りかかって教室を見渡した。
少し前まであった自己紹介カードならぬものも無くなっており、その代わりに「妥当!紅組!」ならぬものが黒板の上に貼ってあった。
彼女の名前は本城紗月。スクールカーストは上の上。見た目も派手で、金髪蒼眼のギャル。常に周りには友達がいて、俺とは真反対な存在だ。
さらに、誰とでも分け隔てなく話しかけるやさしさ、魅力的な体つき、そしてあの太陽のような笑顔を持つところから、「童貞キラー」並びに「男性キラー」などという異名を持っている。
そんな彼女はこの日以来、放課後は俺と一緒に寝るという日々が続いた。
せっかくなので、少し話をしてみる。
「お前、友達たくさんいるだろ、放課後に出かけたりとか遊んだりしないのか?」
「それ、レイが言う?」
「まぁ良いじゃねえか、俺はそういうキャラだ。」
「そうだけどさ……」
「……友達と喧嘩でもしたのか?」
「いや、そんなことはないよ!」
「……まぁ良いか。」
「てかレイ、どうするの?体育祭?」
そういえばそうだった。実は後二週間ちょいで体育祭が始まる。
この学校の体育祭は紅組と白組に分かれて戦う。全学年1〜4組あって、1,2組は紅組、3,4組は白組になる。
このクラスは3組なので、今年は白組だ。あぁ、だから「妥当!紅組!」なのか。
「どうするって、テキトーにやるさ今年も。」
「そうじゃなくて!競技だよ!2つやらなきゃいけないのにどうするの?」
「なんでお前が俺のことを気にするんだ?」
「そ、それは…友達だし?」
「まぁ良いか、とりあえずは組対抗リレーには出るかな。」
「そういえばレイって足速かったよね!」
「まぁな、一応朝走ってるからな。」
「えぇ〜以外〜」
「別に俺はボッチなだけで、引きこもりではないからな。てか走ってんの知ってんだろ。」
昔からダッシュは朝欠かさずやっているのだ。なぜかって?
朝早く起きて、ダッシュをして負荷をかけることによって学校で良く寝る事ができるからだ。
「他は?」
「他か…どうしようか…」
「じゃあさ、二人三脚出ない?レイがいれば百人力だからさ。」
「二人三脚はしんどい」
「だって今一人足りないんだもん!」
「お前友達山のようにいるだろ、それに、お前の頼みとあればやってくれるようなやつ、いくらでもいるだろ。なんで男の俺なんだよ。勘違いされちゃうっての。」
「そういう子たち入れるとありふれちゃう子が出ちゃうから。それに公平無いし。」
「南谷はどうした?」
「楓は実行委員で仕事と二人三脚の時間被っちゃったみたいで…」
「あの人、意外とアグレッシブなんだな。」
「ともかく……っやってくれない?!」
そんな今にも泣きそうな顔を、その外見で見せてくるな。こっちがしんどくなる。
「っわかったよ。やるよ、二人三脚。」
「やった!ありがとう!レイ!」
ったく、この太陽は沈ませるわけにはいかないよな。
俺は、昔からこいつには弱くなってしまう。
彼女。本城紗月とは別に付き合ってるわけでは無い。親友というか、腐れ縁というか、ともかく仲の良い俺の少ない友達のうちの一人だ。
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彼。設楽零とは、幼馴染というわけじゃ無い。彼氏…というわけでもなくて。
友達。
しかも大切な。
彼と出会ったのは、中学3年生の時、受験のために通い出した塾が同じになった。
紅葉が綺麗で、落ち葉で絨毯が敷けそうなそんな時期、うちは彼と出会った。
その日は、大寒波が訪れ、雪がパラついた、ある寒空の日だった。
こんにちは、久しぶりに書こうと思ったので書いた次第です。いよいよ物語が進んでいきます。まぁヒューマンドラマなんで、どう転んでいくのかが気になるものですが、もしかしたら予想の出来る展開になってしまうかもしれません。その辺はご愛嬌。まぁ、こういう作品、こういう視点で書かれるんだと一つの例として読んでいってくださいな。