第一章 一話 運命というべき席替え
2年生になって3週間も経って、この環境に少し慣れ始めて来た今日この頃。
いつものように俺は窓側の席に座っていた。
早速席替えがあったのだ。
名前の順のままでは不公平だとどこかの誰かが言ったそうな
みんな最初の席替えともあって気合が入っていた。
当然ながら、俺も名前の順では流石に窓側には座れないので、心なしか手が震えていた。
このクラスの座席は前横共に6列の計36席。
その中で窓側の席を座るためには6分の1の確率なのだが
その中で最悪でも前から4列目以降を狙いたい。
さらにそこからベストポジションである窓側の列の前から5列目を狙うには当然、36分の1、わずか約2%の確率で引き当てなければならない。
しかも、自分が引く前に引かれないというのが絶対条件としてあるわけで、それも考慮したらどれほどの確率かわかったもんじゃない。
最悪、窓側じゃなくても後ろの方なら妥協出来るし放課後他の人に席を貸してもらえばそれで良いのだが、
自分の席であるのとそうでないのとではあまりにもメリットの差がある。
さて、運命の聖戦(席替え)が始まる。その合図を担任の渡辺恭子が出す。
「よーし、お前ら席替えするぞ。」
溜まった唾をゴクリと飲み込む。
「まぁ例によって例のごとくクジ引きだ。
ただ、残念だったな名前が先の方のやつ。初の席替えだからって名前の順でやると思うか?」
は?なに言ったんだこの人
「今回は名前の順で最後のやつから引くことにする。さぁお前ら、並べ並べ。」
くそっ。
こうなってしまえば俺のベストプレイスが取られてしまう可能性があるではないか。
なにやってくれてるんだこのアマ。だから婚期を逃すんやぞ。
予想通りというかなんというか、良い席はどんどん無くなっていく。
半分の席が決まる頃には一番後ろは全て埋まった。前になって発狂するやつ、友達と近くになれて喜ぶやつ、孤立して目が死んでるやつなどいろいろだ。
ただ、奇跡というのか、必然だとでもいうのか、俺のベストプレイスはポッカリと穴が空いていた。
この必然とも言える奇跡を俺は活かすしかなかった。
俺が引くべきクジはA5のクジ。
教卓を背に左から順にA〜F、縦から順に1〜6なので、窓側の5列目を狙うならA5のクジだ。
前のやつがクジを引く。
それでもなおベストプレイスには名前が書かれない。
「おっ、お前。前年度から席替えが窓側の5列目から一切動かないで有名だったな。」
篠崎先生が煽るように話しかける。
そう、俺は高校1年生の時、5回席替えをやったが、あのベストプレイスから一切動いたことが無かった。
「今回も座りますよ。最早ここまで来たら運命ですから。」
「はっ、やれるもんならやってみろ。」
クジが入っている箱の中に手を入れる。
この瞬間だけは毎回緊張する。
手に汗が出てる。
俺は残り僅かなクジをかき混ぜて一枚の紙を掴み取る。
これだ。
俺は掴み取った紙に書いてある文字を見る。
A5
俺は普段見せない喜びの感情をグッと堪え、下を向きながらA5の書いたクジを持っている右手を天井に突き上げた。
席の移動が開始され、ベストプレイスに着席した。
「やっほー!零君!これからよろしくね!」
金髪ロングのの綺麗な髪を持つ女子が明るく挨拶をしてくる。本城紗月だ。
彼女は俺の前の場所に席を陣取った。
「おっす、よろしくな。」
「てか安定してそこなんだね。ある意味すごいよ。」
「まぁ、窓の席の神様に好かれてるからな。」
「なにそれ〜」
自分の前の席もとい、自分の周りの席の人が知らないやつだと苦労することが多いが、知ってるやつならとても過ごしやすい。
だから本城が来てくれたのはとてもありがたかった。
「設楽君、こんにちは。紗月もよろしくね。」
「あ!楓!近くて良かった!」
クールな委員長である。今日もメガネがお似合いだ。
「よろしく、南谷。お前が後ろだと安心だわ。」
「ふふ、頼りにしていいからね。」
普通、クールキャラというと割りかし冷たい印象があるのだか、彼女は違う。
みんなに頼られるお姉さん気質なのだ。勉強も良くできていて、俺も何度か質問した事があるがとてもわかりやすい。
「なんだかこの席は飽きる事が無さそうね。」
「本当だね!零君いてもお喋りするからよろしくね!」
「まぁいいや。別に気にしないからさ。」
別に静かな環境が好きというわけではなく、むしろ少しうるさいくらいが良い。
人間観察が好きな俺にとっては何気ない会話でも心地いいものなのだ。
こうして、第1回目の席替えが終わった。
この席でしばらくは過ごすらしい。
ベストプレイスに座れ、周りのメンツも良好だ。
これで少しは楽しそうな学校生活が送れそうだ。
お疲れ様です。第1話読んでいただきありがとうございます。皆さんは席替えにどんな思い出がありますか?僕はろくな思い出が無いので思い出しません。
さて、少し気になった人もいるのでは無いでしょうか。なぜ、こんな地味なやつがギャルとか委員長とかと普通に話せているのか、なぜ、こんな有意義な学校生活を送れているのか。色々疑問というのが思い浮かぶと思います。
しかし、その疑問こそが本を読む、物語りを読むという事なのでは無いでしょうか。先の展開も予想していくのも本を読む醍醐味ですよね。
次回も気分が乗ったら書きます。不定期です。なのであまり期待はせずに待っていてください。
次回どうやって続けるのって?そりゃまぁ、この席になって、周りのメンツがこうなったらね?って事で今回はここまでです。