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自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第91集(2018年1月)/「富士」&「追憶」
3/34

02 柳橋美湖 著  追憶 『北ノ町の物語』 

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職した。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

作品:Ⓒすしぱくさん「和傘と袴姿の女性」

モデル:河合友歌さん

素材元:ぱくたそ



      44 追憶

.

 クロエです。神隠しの少女救出作戦で、北ノ町一宮神社発の軽便鉄道車に乗り、ターミナルになる港で、大陸にむかう鉄道連絡船に乗り換えました。鉄道沿線や島々そして大海原で、お爺様の英雄譚は続いています。前回のお話で、彫刻家であるお爺様の作品を一手に引き受け、私を秘書として雇ってくださる、カラス画廊のマダムとのお話の中で、お婆様の話題がでてきましたので、その続きをしたいと思います。

     ♢

 お婆様・紅子について、母ミドリもそうでしたが、お爺様も、あまり話をしたがりません。そのため、お婆様についてのことは、従兄の浩さんや、女学校時代から交流していたマダムを通して知ったエピソードばかりです。

 お爺様・鈴木三郎が画学生であったころ、女学生だった許嫁のお婆様のお屋敷を、ときどき、美術学校の学友である、マダムや、後にマダムのご主人となられる、カラス画廊創業者の方とが、ご一緒して、訪れていたそうです。ヌードにこそなりませんでしたけれど、お婆様をモデルにして、デッサンをしていたのです。

 マダムが遠い目をなさっておっしゃいます。

「紅子さんは、世の中のどんな女性をも嫉妬してしまうくらい、綺麗だったわよ。着物を着れば京人形というか博多人形のようであり、ドレスを着ればフランス人形のようでもあった。「モダンガール?」

「モダンガールというと、尻軽女という揶揄もある。モダンガールは帽子にスーツ姿で髪はショートヘアにするの。紅子さんは長髪に赤いリボンをつけていらした。そのあたりは古風だった」

 連絡船メインデッキの椅子に、並んで腰かけているマダムが、私の顔をじっとみつめました。

「ほんとうに、あなたって、紅子さんに生き写し。まるで、生き返ってきたみたいだわ。――昔、私が、連れ合いや三郎さんと、紅子さんをモデルに描いていると、ときどき、紅子さんの後ろに、精霊のようなものが立っていることがあったわ。邪気はまったくない。きっと紅子さんの守護霊のようなものだろうと、当時の私は考えていた。でも、今はね、あなた自身が時空を飛び越えて、お爺様やお婆様とコンタクトをとっていたような気がするの。――そんな夢とか見ていない?」

 夢。

 そういえば、子供のときから、そんな夢を繰り返しみたような気がします、洋間応接室に画学生ふうの人達が集まってきて、椅子に腰かけた、赤いリボンの女学生を描いていたような……。

 学校を卒業したお爺様は、信託統治領だった南洋の島の学校に美術教師として赴任したのですが、その傍らで民俗学研究をして、名声を得ました。南の島には、現在のトンガ王国や、昔あったハワイ王国、タヒチ王国に似た海洋文明があり、お爺様は写真を撮影したり、スケッチしたりして、日本の学術誌に寄稿していたそうです。小さな島には、石積みの王宮、石のコインなんかもあったようで、その学術誌は好評を博したといいます。お婆様も、お爺様と一緒に南の島に渡り、楽しい生活を送り、伯父と母とを生み育てました。

 ところが、そこで、あの大戦が始まったのです。敵に制空権を奪われたことから、空襲を頻繁に受けるようになってきましたので、鈴木一家は内地に引き上げます。引き上げ船は数隻の船団からなっていて、万が一に備え、お婆様と母、お爺様と伯父とが、別々の船に乗り込みました。そして、船団が硫黄島沖を通過したとき、お婆様の乗った船が空爆を受け沈没しました。

 このとき、救命ボートで、半数の人が助けられたのですが、定員を超える人数で、まだ赤ちゃんだった母だけを、先にボートに乗っていた人に手渡して、お婆様は乗ることができず、そのまま行方不明になりました。

「――それで、お爺様は、伯父様と母を連れて故郷の北ノ町に帰ったのですね」

「そういうこと……」

 数日前まで氷山が漂うところにいた連絡船は、いつの間にか、椰子の木が揺れるサンゴ礁の沖合を航行していました。

 不意にメールの着信音が鳴りましたので、私はスマホの液晶画面をのぞきました。

「第二衛星“猫ノ母月”と、孫衛星群“子猫たち”からのお便りです。ユーザーの方からお預かりしていた、あなた宛てのメッセージをお預かりしています。では、開封しますので、どうぞお受け取りください」

 GPS衛星に相当する、第二衛星とその孫衛星群にある電波塔を管理する、兔型の知的生命体が、送ってくれたメールには、動画まで添付してありました。そこには、なんと着物を着た、私そっくりの女性が映っていたではありませんか。

「初めまして、鈴木三郎と私・紅子との血を受け継ぐ子孫の皆さん」

 えっ、お婆様?

 私は液晶画面に映った、お婆様・紅子に聞き返しました。

「お婆様は生きていらしたのですか?」

「はい、もちろんですとも」

 死んだと聞かされていたお婆様・紅子が実は生きていた。それも、この異界に……。お爺様が、ときどき、異界にやってきて、英雄叙事詩を残して行くのは、お婆様に会いにきていたのだとすれば合点のいくところです。

     ♢

 ふと、思ったのですが、戦時中に引き上げた世代である、お爺様やお婆様、伯父や母との世代、それから、携帯やスマートフォンが普及した時代の、私達との間には、少なくとも、高度経済成長期あたりに生まれた、もう一世代が絡まないと不自然です。

 鈴木家には失われた二十年がある。

 私のルーツである鈴木家の謎は、また深まりました。

 めまいが……。

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木紅子/クロエの祖母。故人。女学校卒業後、三郎に嫁ぐ。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。

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