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自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第95集(2018年5月)/「燕」&「妖精」
27/34

05 らてぃあ 著  燕&妖精 『とあるおとぎ話』

挿絵(By みてみん)

 Ⓒ 奄美剣星 「ツバメの巣」


 あたしは幼馴染の『のえる』が嫌いだった。

 読めない漢字で『のえる』なんて読ませる名前を付けるファンシーな脳みそのママを持った彼女はママの理想通りの大きなリボンにフリルのついたワンピースを着るような女の子に育った。

 そして「いつか王子様がのえるを迎えに来てくれるの」とぬかした。

 さすがに小学生でも失笑だ。いじめに発展しなかったのは担任の先生方の努力に加え、のえるがあまりにも目立つ存在だったからだろう。いつだって己がヒロインだと信じて疑わなかった。町内のカラオケ大会でジジババが歌う中に飛び入り参加して優勝したこともある。あたしの祖父母もしばらくは「のえるちゃんだっけ? 面白い子だねえ」、「優しくしてやらないかんよ」と言っていた。年寄りにものえるのテンションは痛々しかったのかもしれない。

 中学生になると、のえるは「もうそろそろ行動を起こさなければいけない」と言った。オーディションでも受けるのかと思ったら、「王子様と出会うために何かしなくてはならない」と言う。何かが何なのか、のえる自信にもわからないようだった。成績はいつも学年最後尾を争い、部活にも入らず、うわの空でいることが多かった。

 あたしはのえると距離を置くようになった。放課後にのえるを含め女子数人で男子の噂話に華を咲かせた時、「A? ああ、トド君ね」というのえるの一言に爆笑が起こった。確かにA君はトドに似ていた。のえるは人を動物に例えるのが上手かった。しかし密かにトドに恋していたあたしは笑いながらも結構傷ついた。

 高校が別々になったもののメールアドレスを教えていたのが運の尽き。こちらが滅多に返信しないのに、のえるからは頻繁に近状報告のメールが入った。

「黒魔女先生は本当にイジワルなの」

「クマさんとバッタさんは、のえるのことが好きなの。どうしたら二人を傷つけずに済むかな」

「クラスメイトのCちゃんは魔法使いかもしれません」

 高校二年目にのえるが家出したという噂を耳にした。追加情報によれば彼女の両親はいつの間にか離婚しており、のえるを育てていたのは母方の祖母だった。

 しばらくメールが途絶えたが変わらぬ調子で再開した。

「ガマガエルのママは親切です」

「モグラさんはママの彼氏です」

「ツバメさんはとても楽しい人です」

 どうやら、のえるはどこかのバーのママに拾われて、年齢を偽ってママの店で働き始めたらしい。

 メールによれば「ツバメ」はそこそこ男前、陽気で友達の多い男らしかった。のえるはツバメの友達のD氏こそ待ち望んだ王子様に違いないと考えた。だからツバメが病気で入院した時、頻繁にお見舞いしたのも打算からである。

 ある日、メールが止まっていることに気が付いた。最後の日付は10日前だった。前回よりも長い中断だと思った。しかしそれは再開することはなかった。

 あたしは、のえるを探そうとは思わなかったし、モグラやカエルが暮らす町なんて探しようもなかった。



 のえるに再会したのはまったく偶然だった。

 あたしの目の前を横切った三歳くらいの男の子は見事に、べたっとショッピングセンターの床に転んだ。思わず助け起こす。男の子は追いかけて来た母親の足にしがみついて、叫ぶように泣き出した。

「あれえ、陽子ちゃんじゃない」

 礼のひとつも言わない若い母親はオレンジ色の長い髪を大きなリボンで束ねていた。のえるだった。おまけに後からついてきた色の黒い痩せた男は前抱きの抱っこ紐の中にもっと小さな赤ん坊を抱えていた。

「へえ、あれが、のえるの王子様?」

「ううん。ツバメさんよ」

 少しだけ嫌味を込めて言ったのに、のえるは眩しい笑顔で答えた。

 働き者の燕さんの久しぶりの休日に家族そろってお出かけだという。

「ツバメさんは、のえるを幸せの国に連れて行ってくれるのよ」

 アドレスを交換して、別れ際にのえるはあたしにささやいた。

 何日かして、あたしは昔ほどのえるが嫌いではなくなっていることに気が付いた。

          了

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