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自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第95集(2018年5月)/「燕」&「妖精」
24/34

02 E.Grey 著  妖精 『黒谷御前10 公設秘書・少佐』

   //粗筋//

.

 衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。そして、空き時間をみては、遠距離恋愛をしている婚約者・三輪明菜とデートを楽しむのだった。今回の長野入りは、センセイの縁者である黒谷夏帆が、愛車スバル360に佐伯を乗せての登場だ。幼馴染の不穏な動きに明菜は心穏やかではない。夏帆の祖父は黒谷御前といい、地域では有数の資産家だ。その黒谷御前が何者かに命を狙われているという。センセイの命もあり、佐伯は、夏帆の運転で、明菜とともに御前の屋敷へとむかった。その晩、御前は、時限式で放たれる吹き矢によって殺害された。当初の容疑者は、朝比・夕比の姉妹と、孫娘である黒谷夏帆の三人だった。佐伯は、時限発車式の吹き矢が見かけ倒しで、直接吹き矢を御前の耳に刺すという、真犯人のトリックを見破った。すると殺害時刻に佐伯の入浴をのぞいていた三人のアリバイが成立する。その真犯人とは……。

挿絵(By みてみん)

Ⓒ工藤隆蔵 「モデル/五十嵐優美」足成



    10 妖精

.

 私・三輪明菜は、婚約者の佐伯祐を手伝って、黒谷御前殺害の犯人を追っている。殺虫剤スプレーをつかった時限式の吹き矢発射装置がこけおどしで、他の容疑者にアリバイがあることから、真犯人が母娘だと割り出すことができた。では、なにゆえに、母娘は、黒谷御前の殺害に及んだのか……。

 包丁で刺し違え自決を図ろうとした菊乃と楓の母娘は、佐伯と真田巡査部長とに取り押さえられていたが、取り押さえられたことで、張り詰めていた気持ちがほぐれたようだ。

「菊乃さん、理由を話してもらえませんか?」佐伯が言った。

 ――菊乃さん、こうしてみるとけっこう美人。和服熟女の色香が……。佐伯、近すぎる。なんで菊乃さんの手をとってみつめる。菊乃さん、なに、そのポッて表情は……。

 菊乃さんは、十五で長年黒谷御前の屋敷に奉公にでて、女中頭になった。結婚はしなかった。そして最近、両親を亡くした親戚の楓ちゃんを引き取って養女にしている。菊乃さんが目じりで楓ちゃんのほうをみながら、犯行の動機を語りだした。

「御前は、奉公にあがったばかりの私を、生前の奥様の目を盗んで、お部屋に連れ込み、無理やり……。それも一回だけじゃなく、その後も……。さらに、あんなことや、こんなこともされて……」

「――燃え上ってしまった。もしかして楓さんは?」

「み、淫らですわね。……楓は、養女ということにしてありますが、御前と私との間にできた実の娘です」

 佐伯は煙草をくわえようとしてやめた。

「なるほど、黒谷夫人が亡くなり、御前も寝たきりとなって、実質的な介護をなさっていたのは菊乃さんと楓さんだった。ところが、遺言状の下書きとなるエンディングノートがたまたま、寝ていた御前の枕元にあったのを見つけ、手に取ってしまった……」

 菊乃さんがうなずいた。

「御遺産は、跡継ぎとなる孫娘の夏帆様が大半を相続、残りは朝比様と夕比様にと……。妾にされ、下の世話までしていた私のことはもちろん、もう一人の娘である楓のことは一切触れられていなかったのです。こんな理不尽ってありましょうか」

「そろそろ弁護士さんが到着しますんで話を聞くといい」

 弁護士を乗せた自動車がやってきた。屋敷に上がり込むと、早速、広間にきて、遺言状の封を切って読み上げた。その声は厨房まで聞こえてきた。

「総資産の五割を跡継ぎである夏帆に。一割ずつを朝比と夕比に。残り三割の分配は使用人たちに……。そのうち半分は、儂の下の世話を長くしてくれた菊乃と楓母娘に。楓は菊乃に産ませた儂の娘でもある」

 エンディングノートの内容とはだいぶ違っている。――というか、菊乃さん、御前を殺害する理由なんてなかったんじゃないか。

 弁護士は続けた。

「エンディングノートに法的な強制力はありません。あくまでも遺言状こそが法的な根拠です。しかし、遺贈者を殺害したとなると、相続権そのものが消失します」

 ――あなたたち、なんて馬鹿なことをしたんだ。

 菊乃さんが、「ごめんなさい」と叫んで、広間に駆けだした。そして布団に寝かされた黒谷に突っ伏して泣いた。

 ところがだ。その菊乃さんは、布団の中から、ニュッとでてきたミイラのような手につかまれ、布団に引きずり込まれた。――黒谷御前、あんたはゾンビか! いや、いつの間にか、吹き矢の猛毒を体内で無毒化し、息を吹き返していたのだ。そして今、布団の中で、菊乃さん相手に、布団の中でカクカク腰を動かしている。

 もう一度死んでこい、妖怪!

 孫娘と、二人の娘が、布団の上から怪老の腰を蹴った。

 黒猫のタマが大きく伸びをした。

          了

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

●黒谷御前……地方名家で島村センセイの縁者。

●黒谷源一郎……黒谷御前の一人息子で夏帆の父。先の大戦で戦死した。

●黒谷朝比……黒谷御前の長女。源一郎の妹。

●黒谷夕比……黒谷御前の次女。源一郎の妹。

●黒谷夏帆……黒谷御前の孫娘で女子大生。現在は東京在住。明菜の幼馴染にしてライバル。

●菊乃……黒谷家の家政婦。

●楓……菊乃の養女。

●タマ……黒谷家で飼われている雌の黒猫。


*全10話完結。お題の妖精、妖怪も広義ではそうかなあと(くるしい)。ご高覧ありがとうございました。

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