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自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第93集(2018年3月)/「卒業」&「引っ越し」
17/34

04 E.Grey 著  卒業 『黒谷御前8 公設秘書・少佐』

   //粗筋//

.

 衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。そして、空き時間をみては、遠距離恋愛をしている婚約者・三輪明菜とデートを楽しむのだった。今回の長野入りは、センセイの縁者である黒谷夏帆が、愛車スバル360に佐伯を乗せての登場だ。幼馴染の不穏な動きに明菜は心穏やかではない。夏帆の祖父は黒谷御前といい、地域では有数の資産家だ。その黒谷御前が何者かに命を狙われているという。センセイの命もあり、佐伯は、夏帆の運転で、明菜とともに御前の屋敷へとむかった。その晩、御前は、時限式で放たれる吹き矢によって殺害された。

挿絵(By みてみん)

Ⓒヤッホーさん「笑顔」 モデル:五十嵐優美さん/足成


    08 卒業

.

 私・三輪明菜は、婚約者の佐伯祐を手伝って、黒谷御前殺害の犯人を追っている。容疑者は、動機からして、御前の娘である朝比・夕比の姉妹、孫娘である黒谷夏帆に絞り込んだ。

 素朴な疑問だ。

「時限式で発射される吹き矢に、どれほどの威力があるの?」

 私は佐伯に訊いてみた。

「これは空気銃の一種だ。空気銃には、スプリング式、ポンプアップ式、液化ガス式なんかがある。今回の殺虫剤缶をつかったものは液化ガス式だな。――被害者は、耳穴に、毒針付きの吹き矢を撃ち込まれて死亡した。――明菜君、実際に撃ち込んでみよう」

 初老の巡査部長が口を挟んだ。

「佐伯さん、遺体損壊になる。それはさすがにまずい」

 すると、襖が開いて、黒谷家の家政婦・菊野さんがいくつかの小道具を持ってやってきた。

「佐伯さん、仰せのものを準備しましたよ」

「助かります」佐伯がそう答えると、初老の巡査に顔を向き直した。「真田さん、どのみち当たったところで遺体ですし、空気銃弾丸自体それほどの威力はないと思いますが、そのあたりは大丈夫」

 佐伯は、透明プラスチック板を私に渡した。――遺体頭部を守るついたて? まさか、私にこれをもたせて、毒針を発射する気か? 

「手に刺さるかもしれない。危ないじゃないか!」

 空気銃弾丸は、プラスチック製で、テルテル坊主のような形をしている。佐伯は笑いながら、「もちろん、毒針はペンチで抜いて、代わりに縫い針の先端を同じ長さに折ってはめ込む」と言って、

 私は火鉢の箸を借りて、私が透明プラスチック板を遺体頭部の前に立てた。

 板の上に横置き固定した殺虫剤スプレー缶が機関部になる。塩化ビニール管が銃身だ。――佐伯は、吹き矢発射装置を、三十秒後に発射するように再セットした。

 三十秒後。

 プシュッと、装置のスプレー・ガスが噴射した。

 私は思わず目を閉じそうになったのだが、我慢して、事の顛末を見届けた。

 飛翔体は、たどたどしく飛んできて、遺体の直前で落ちた。

「――これじゃあ、毒針が刺さらないじゃないか。どうやったら、殺せるんだ!」

 駐在所の真田さんが、目を大きく見開いた。

 黒のスーツ姿の佐伯は正座して、遺体と毒針発射装置、吹き矢を交互に見やった。佐伯は、腕組みをしてから眼鏡をずり上げ、「なるほどそういうことか、おかげで先入観から卒業できた。――明菜、ナイスなヒントをありがとな」と言った。それから、「真田さん、関係者を呼んでもらえますか」どうやら核心に達したらしい。

 タマが襖を前脚で勝手に開けて入ってくると、黒谷御前が寝かされた布団の上を、反復して跳ぶ一人遊びを始めた。――猫がそれをやると、静電気で遺体が半身を起こすという俗説があるのだが、さすがにそれはなかった。

          つづく

  //登場人物//

.

【主要登場人物】

佐伯祐(さえき・ゆう)……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。

三輪明菜(みわ・あきな)……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。

●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。

●真田巡査部長……村の駐在。

.

【事件関係者】

●黒谷御前……地方名家で島村センセイの縁者。

●黒谷源一郎……黒谷御前の一人息子で夏帆の父。先の大戦で戦死した。

●黒谷朝比……黒谷御前の長女。源一郎の妹。

●黒谷夕比……黒谷御前の次女。源一郎の妹。

●黒谷夏帆……黒谷御前の孫娘で女子大生。現在は東京在住。明菜の幼馴染にしてライバル。

●菊乃……黒谷家の家政婦。

●楓……菊乃の養女。

●タマ……黒谷家で飼われている雌の黒猫。

*全10話程度の予定です。

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