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自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第93集(2018年3月)/「卒業」&「引っ越し」
15/34

02 柳橋美湖 著  引っ越し 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。最初は怖い感じだったのだけれども本当は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 他方、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職し、マダムと北ノ町へ来る列車の中で、神隠しの少女が連れ去れて行くのを目撃。そして北ノ町のファミリーとマダム、それに白鳥さんを加えて、少女救出作戦が始まる。一行は北ノ町一宮神社から軽便鉄道列車に乗り、ターミナルから鉄道連絡船で、大陸にたどりついた。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

ローレライ wikiより



   北ノ町の物語 

.

    46 引っ越し(ローレライの岩礁)

.

 クロエです。ついに私たちを乗せた連絡船が大陸にたどりつきました。さらに連絡船は、蝶々鮫さんたちのいる大きな湖を通過すると、大河を遡上し龍の墓場を目指しているところです。

     ♢

 グランドキャニオンのような、深い岩場の渓谷をすり抜けて行きます。

 ときどき中型タンカーや貨物船とすれ違いました。

 連絡船クルーの皆さんはここにきて、合唱ばかりしています。なぜかと、脚のある人魚族の由香さんにうかがうと、

この先百キロいったところに、川幅が狭まった難所があって、過去に何隻もの船が沈没したそうです。

 というのも、そこにはローレライという妖精がいて、先方が歌を投げかけたときに、船乗りたちが返歌をしないと、礼儀知らずだと怒らせてしまい、結果として転覆してしまう。

 そういうわけで、連絡船クルーの皆さんは、コーラスの練習に余念がありません。

ならばと、

 浩さんは、得意のピアノで連絡船合唱団のお手伝いをすることをかってでました。

 眼帯をかけた髭の船長さんから許可をとると、相棒である瀬名さんの守護天使・護法童子くんに手伝ってもらって、電脳執事メフィストさんは、レストランから練習用ピアノをメインデッキまで運んできました。二人は、私たちの膝丈くらいしか身長がないのに力持ちです。

 川面から崖までの高さは、マンハッタンあたりの摩天楼ビルくらいあるように思えます。そのため陽が射していません。やがて、歌う船は、最大の難関である岩礁地帯を通り過ぎようとしたとき、水面から突き出た柱のような形をした岩の頂に、髪の長い少女が立っていて、歌を歌い始めました。しかしどうしたことか、皆の熱唱にも関わらず、クルーの皆さんが船縁に押し寄せて川に飛び込もうとだしたではありませんか。

 やむを得まいとばかりに、

 お爺様と、マダムとが、キャビンから出てきました。お爺様が長弓を構え、マダムが魔法少女に変身して、ローレライを迎撃しようとしましたところ、急に、ハスキーな声がしてきました。

 ソロで歌っていたのは、白ワイングラスを手にした白鳥さんです。あまりにも美しい歌声だったので、歌詞が頭に焼き付いています。


  なじかは知らねど心わびて

  昔のつたえはそぞろ身にしむ

  さびしく暮れゆくラインのながれ

  いりひに山々あかくはゆる


  うるわしおとめのいわおに立ちて

  こがねの櫛とり髪のみだれを

  梳きつつくちずさぶ歌の声の

  くすしき魔力ちからたまもまよう


  こぎゆく舟びと歌に憧れ

  岩根もみやらず仰げばやがて

  浪間に沈むるひとも舟も

  くすしき魔歌まがうたうたうローレライ


     ハイネ作詞、リスト作曲『ローレライ』近藤朔風訳詞

     https://www.youtube.com/watch?v=orz24W-c3G8


 さすがは吸血鬼!

 妖精ローレライすらも魅了したのでしょうか、岩柱からの歌が途切れました。

 白鳥さんは、さらに、コウモリみたいな一つ目の使い魔さんを飛ばして、岩柱の上を調べさせました。

「あれはホログラフだ。実体はここにはいない。どこかに引っ越ししたみたいだな……」

 えっ、ローレライさんがお引っ越しした? なんのために?

どこへ行ったのだろう? 私たちは、そうつぶやくと、互いに顔を見合わせました。

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木紅子/クロエの祖母。故人。女学校卒業後、三郎に嫁ぐ。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。

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