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自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第92集(2018年2月)/「針」&「水」
12/34

05 らてぃあ 著  水 『ある夜の魔法』

挿絵(By みてみん)

 Ⓒ真夏さん「おばあちゃんの手」/足成より



こんばんわ。まあ、あなた泥棒? まあ、怖いわ。

うふふふふ。そうね。怖がっている態度じゃないわよね。

ごめんなさい。

この歳になると怖いものなんてなくなるのよ。

大丈夫。この家にはわたし以外誰もいないわ。

そんなことより、見てちょうだい。美しい絵でしょう? 水の絵よ。

じいっと見てみなさい。不思議な気持ちになって来るでしょう?

昔むかし、この絵を描いた画家には病気の娘がいたのよ。

その娘が「元気な子供のように泳ぎたい」と言ったから部屋の壁に水底の世界を描いたのよ。

その娘がどうなったって?

死んだと言われているわ。でも違う。

行方不明よ。今夜のように月の明るい夜に居なくなった。

何故だかわかる?

夜の魔法よ。

耳を澄ましてごらんなさい。水の流れる音が聞こえるでしょう。

ほら、魚がはねた。

あの夜もそうだった。

わたしは気が付くと水の中にいた。息苦しくもなく、身体は嘘のように軽かった。

わたしは夢中で泳ぎ回って、気が付くと夜が明けて、美しい砂浜に流れ着いていた。


そこでは言葉が通じるのに、わたしの両親や住んでいた場所を知る人は一人もいなかった。つらい目にもあったけれど、わたしはもう病気のひ弱な少女ではなくなっていた。きっと夜の魔法がわたしの細胞まで変えてしまったのね。病気ひとつしなくなっていたわ。

でもそれも今日でおしまい。

この絵がこうして存在していると知った時、わたしにかかった魔法を終わらせるべきだと悟ったのよ。わたしはまた泳いで、両親のいる小さな家に帰るわ。

ねえ、泥棒さん。

あなたはここからどこへ行きたい?


「行方不明になっているのはこの家の主の海野真波さんです」

「往年の大女優じゃないか? こんな田舎町で隠居していたのか。ううん。知っていればサインの一枚でももらっていたのに」

太った警部は部下の報告を聞きながら女優の部屋を眺める。

安楽椅子が中央に置かれた部屋の壁には青い水面の絵が貼り付けられているだけだ。最近女優本人が大金を出して購入したものだという。

金持ちはわからん。

それにしてもこそ泥は確かに鍵を壊してこの家に逃げ込んだのにどこへ行ってしまったのだろう。


首をひねる警部をよそに何故か担当外の黒衣の警部補は青い絵を眺めていた。

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