04 E.Grey 著 針 『黒谷御前7 公設秘書・少佐』
//粗筋//
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衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。そして、空き時間をみては、遠距離恋愛をしている婚約者・三輪明菜とデートを楽しむのだった。今回の長野入りは、センセイの縁者である黒谷夏帆が、愛車スバル360に佐伯を乗せての登場だ。幼馴染の不穏な動きに明菜は心穏やかではない。夏帆の祖父は黒谷御前といい、地域では有数の資産家だ。その黒谷御前が何者かに命を狙われているという。センセイの命もあり、佐伯は、夏帆の運転で、明菜とともに御前の屋敷へとむかった。その晩、御前は、時限式で放たれる吹き矢によって殺害された。
モデル:五十嵐優美/Ⓒ工藤隆蔵 足成
07 針
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長野県月ノ輪村役場の職員をやっている私・三輪明菜は、少佐の渾名をもつ国会議員公設秘書の佐伯とともに、性格の悪い幼馴染のゴタゴタに首を突っ込むことになった。
吹き矢の針について、毒の成分は真田さんを介して県警本部の科学捜査官に分析を依頼したところ、シアン系のものだと分かった。
駐在所の巡査部長・真田さんが佐伯に言った。
「夏帆って、そういば、東京にある理科系の大学に行っていたな」
「真田さん、夏帆が祖父の御前を殺す動機って何でしょうね? そもそも財産は夏帆に全部やるって言っている」
これに対して私は悪い噂を耳にしている。黒岩御前の好色ぶりは、村人達全員の知るところで、尾ヒレはヒレがついて、その毒牙は娘二人や孫娘にも及んでいるとまで囁かれている。娘二人が嫁に行けないでいるのも、孫娘がしばらく東京暮らしをしているのもそれが遠因だというのだ。財産が絡まなくとも、この三人の誰かに殺されてもおかしくない。
県警は内々に夏帆の通う大学に、シアンの瓶が紛失していないかあったのだが、瓶ごと盗まれたとか、目立った量のシアン粉末が減ったとかいうことは聞いていない。まあ、もっとも、シアンは0・05グラムで致死量だから、耳かき人さじほどチョロマカしたって、誰も気づかないことだろう。
夏帆が、犯人かと真田さんが踏んだとき、真田さんが県警本部と電話で連絡をとると、朝比・夕比の姉妹にはそれぞれ恋人というか、ペットのような男達がいた。それが、金属加工をやっている町工場で働く若い職工なのだそうだ。町工場の職工だから何なんだというと、佐伯によれば、
「確かに、単純に考えれば、理科系の学生はよく実験をする。シアンをくすねやすい環境にある。しかし、このシアンというのは、町工場の金属加工の際、触媒としてよく使われている。このシアンを入手することは、夏帆でなくとも、朝比、夕比でも何とかなるというわけです」
そういうわけで、犯人の絞り込みは、まだ上手くいっていない。
佐伯は、ここで、(素朴な疑問がある)というような顔で、例のスプレー噴射式の吹き矢をもう一回いじっていた。それはタイマー式の空気銃だ。
こういう機械を作れそうなのは、黒岩家では理科系の学生・夏帆しかいないのだが、町工場の若い職工をペットにしている朝比・夕比姉妹も、それができてしまう。
やはり手詰まりなのだろうか……。
つづく
//登場人物//
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【主要登場人物】
●佐伯祐……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。
●三輪明菜……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。
●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。
●真田巡査部長……村の駐在。
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【事件関係者】
●黒谷御前……地方名家で島村センセイの縁者。
●黒谷源一郎……黒谷御前の一人息子で夏帆の父。先の大戦で戦死した。
●黒谷朝比……黒谷御前の長女。源一郎の妹。
●黒谷夕比……黒谷御前の次女。源一郎の妹。
●黒谷夏帆……黒谷御前の孫娘で女子大生。現在は東京在住。明菜の幼馴染にしてライバル。
●菊乃……黒谷家の家政婦。
●楓……菊乃の養女。
●タマ……黒谷家で飼われている雌の黒猫。
*全10話程度の予定です。




