表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第16冊/2018年上半期(第91-96集)  作者: 自作小説倶楽部
第92集(2018年2月)/「針」&「水」
10/34

03 柳橋美湖 著  水 『北ノ町の物語』 

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 他方、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職し、マダムと北ノ町へ来る列車の中で、神隠しの少女が連れ去れて行くのを目撃。そして北ノ町のファミリーとマダム、それに白鳥さんを加えて、少女救出作戦が始まる。一行は北ノ町一宮神社から軽便鉄道列車に乗り、ターミナルから鉄道連絡船で、大陸を目指しているところだ。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

チョウザメ wikiより


      45 水

.

 クロエです。船旅の中で、カラス画廊のマダムと、旧知の間柄だったお婆様・紅子について話題をしていました。お婆様、は太平洋戦争の最中、民間人引き揚げ船で本土に帰還中、他の家族と別れて移動し、行方不明になっていたとのことですが、ちょっと変。時期的に、もう一世代・少なくとも二十年間がないと、つじつまが合いません。鈴木家にはまだまだ謎が隠されていると改めて思いました。

     ♢

「次は蝶々鮫ノ湖に停泊します」

 脚のある人魚・由香さんが、船内アナウンスで話しました。

 外洋で波に揺れていた船体が、急に揺れなくなってきました。奇妙なもので、揺れというものに慣れてくると、逆に静かな状態で、身体が揺らされているように感じます。

 私達を乗せた連絡船は、大陸西海岸に辿り着きました。その西海岸の玄関口が、蝶々鮫ノ湖です。湖の名前になっている蝶々鮫のことですが、そのことについて、由香さんにお話を伺うと、私の後ろを指さしたので、振り向くとそれがデッキで、羽繕いをしていました。

 蝶々鮫は、全長三メートルで、ヒレが進化して蝶々のようになっています。しかし、誰も捕らえて食べようとはしません。というのも、彼らは人とお話ができるからです。釣り針なんか引っ掛けたりしたら、それこそ裁判沙汰になってしまうのだとか。どこの裁判所かというと、蝶々鮫ノ湖の裁判所で、ここには彼らの王国があります。

 船が彼らの王国を通過するとき、船長は、警備兵に挨拶します。それが、デッキの上にいる彼なのでした。

 蝶々鮫の警備兵さんが書類にスタンプを押した後、船長さんとお爺様が、ワインを勧めて長話をしました。警備兵さんに限らず、蝶々鮫の皆さんは白ワインが大好物なのだとか。お爺様は、長話をしながら、神隠しの少女の似顔絵を描いてみせると、

「前に通った不定期便船に乗っているのを見かけた」

 とおっしゃっていました。

 もちろん、連れ去った神隠しの“神”も一緒です。

 この“神”というのが今一つ分かりません。いつも頭巾を被っているので顔も分かりません。ただ、体型から女のようだと警備兵さんがおっしゃっていました。さて、そこで、瀬名さんと浩さん、それから、白鳥さんが、パラソルのついたテーブル席で、キャビアを載せたトーストを肴にグラスを傾けていると、警備兵さんが何やら文句を言っていました。

 そのあたりは、船長とアテンダントの由香さんが、うまくなだめてお引き取り戴いたようです。

 元魔法少女であるマダムがおっしゃるには、蝶々鮫さんは、キャビアの匂いがとてもお嫌いなのだとか……。そういうことは、船長さんが前もって乗客に知らせるべきことだと、文句を言われた皆さんが、口をそろえて言っていました。

 確かにそうですね。

 蝶々鮫さんが漁師なのですから、沿岸にある人の住む町には、港はあっても漁師さんがいません。また、蝶々鮫の湖は淡水で、ここに棲む生き物たちは、独特の生態を持っています。蝶々鮫さん達はここで、畑の海藻やイケスの魚貝類を近隣の町に出荷しているのですが、最大の収入源は真珠なのだとか。懇意になったダイバーさん達の中には、蝶々鮫さんたちの王都に招待された人もいたのですが、酸素マスクのため、御馳走が食べられなかったとのことです。

 蝶々鮫の皆さんは陸にいても平気なようで、逆に沿岸の町に飛んで来ては、パブで白ワインを飲むのだとか……。だから“酔魚亭”って名前のお店が多いのだそうです。

 さて、私達を乗せた連絡船の旅もそろそろ終わりに近づいてきました。蝶々鮫湖に注ぐ、大河を上流に遡って行ったところに、ダイヤモンド鉱山“竜の墓場”があります。

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

.

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木紅子/クロエの祖母。故人。女学校卒業後、三郎に嫁ぐ。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ