表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第11話 ケレス神殿
90/702

4_5

4


 目を覚ました。

 たき火は燃え尽きておらず、肉も焦げ落ちてはいない。

 意識を失っていたのは、わずかな時間のようだ。魔力も多少回復している、魔力回復薬の効果が残っていたのだろう。

 それにしても、意識を失うほど魔力を使ってしまうとは不覚だった。

 よく焼けた肉をかじりながら、この二日間の練習の成果を振り返ってみる。

 やはり基本の練習が大事だ。それを痛感した。

 〈灯光〉の練習を繰り返すことで、左手での魔力の扱いが格段に上達した。また、左手を伸ばして〈火矢〉を撃つ精度と速度を高めることで、自然に曲げた指から難なく火矢を発動できた。

 むずかしくて複雑なことをうまくなりたいときは、それを簡単で単純なことに落とし込んで、徹底的に磨き込んでゆくべきなのだ。

 それから、着想というものが大事だ。

 〈火矢〉などという魔法は、初心者か魔力量の少ない魔法使いしか使わない魔法だと、軽くみていた。だが、そんなことはなかった。レカンの魔力量であれば、青の大ポーション一個で、一度に千本の〈火矢〉を使うこともできるようになるだろう。それは、ぞくぞくするほど楽しい想像だった。もちろん、〈火矢〉は貫通力が弱く、たとえ千本同時に撃てても、迷宮深層の魔獣には通用しないだろう。だが、人間相手の面制圧には有効だ。戦い方がうんと広がる。〈炎槍〉にも、別の使い方があるかもしれない。いずれにしても、使い方を工夫することで、魔法の可能性はどんどん広がってゆく。

 着想を実現するための実験と練習も大事だ。いきなり本番で百本の〈火矢〉は撃てない。実際に撃ってみて、より効果の高い使い方を練り込んでゆかなくてはならないし、実戦で使うためには技術も磨いておかなくてはならない。

 ただし、実験のほうはともかく、そうした特殊な使い方の場合、練習のほうには、あまり力を入れてはならない。基礎と応用編の練習比率は、八対二か、九対一でいい。変わった使い方ばかりを練習しても、すぐに魔力も枯渇するし、魔力制御が上達するどころか、逆に荒っぽくなるように思える。そうでなくても、自分は魔法の初心者なのだ。なめらかで確実な魔法の行使を、体にたたき込まなくてはならない。

 ふと思いついた。

 シーラから教わった魔法は、すべて体全体で魔力を練ったあと、腕に魔力を集めて実行する。〈灯光〉〈光明〉〈着火〉〈火矢〉〈炎槍〉のような光熱系の魔法も、〈鑑定〉のような知覚系の魔法も、〈引寄〉〈移動〉〈浮遊〉のような魔法も、すべてがそうだ。シーラ自身、〈移動〉を使うときには手をかざしているし、〈光明〉や〈浮遊〉では手をかざさないが、明らかに右手から魔力を放出している。

 迷宮で使う〈階層〉と〈転移〉は腕に魔力を集めたりしないが、そもそもあれは正確には魔法ではない。技術ですらない。呪文さえ唱えれば魔力のない人間にも使えるわざだ。

 ところが、〈突風〉はちがう。

 これは、もといた世界で身につけた能力だ。練習によって獲得した技術ではなく、迷宮で獲得した技能だ。

 〈突風〉の発動では、魔力を腕から放出したりしない。体のなかで魔力をぐるぐる回したこともない。ただ呪文を唱え、発動させる。

 もしかしたら。

 レカンは、目の前の何もない空間に意識を集中した。

 魔力を体内で練ることはせず、起こるべきことをイメージした。

「〈火矢〉」

 何もない場所から〈火矢〉が生まれ、たき火に突き刺さった。

 火のついた枯れ木が、真っ二つに割れた。

「できた」

 発動も遅い。

 威力も弱い。

 それでもこれは、この世界に生まれたまったく新しい魔法なのかもしれなかった。


5


 朝起きるなり、魔法の練習を始めた。

 今のレカンは、魔法の練習が楽しくてたまらない。魔力量に恵まれたことを、あらためて感謝した。

 この日は、たくさんの〈火矢〉を同時に発動する練習はしなかった。しようにも、うまくイメージすることができなかったのだ。

 百本の〈火矢〉と、口でいうことはできても、生々しく心に思い描くことはむずかしい。百とはどんな数なのか。それが同時に発動されるとは、どういう状態なのか。どうにも練習の進めようがわからなかったのである。

 その代わり、左手で素早く〈炎槍〉を撃つ練習をした。

 〈皺男〉を一撃で葬ったような、本当に威力のある〈炎槍〉は、右手で撃てばいい。

 左手で撃つ〈炎槍〉は、剣で戦っている最中か、その戦いが膠着したときに使う攻撃だ。近距離かせいぜい中距離で使うことになる。威力は大きくなくていいし、精度もそれほど気にする必要はない。必要なのは発動速度の速さと確実さだ。迷宮の深層で戦っているときに、発動すべき魔法が発動しないというようなことがあれば、命に関わる。

 まず右手で剣を振り、実戦のときに左手がどういう動きをしているかを確認した。

 次に、その動きのなかで、左手の手のひらに〈灯光〉を発動させる。

 次に、左手を前方に突き出し右手で支え、〈炎槍〉をイメージしながら〈灯光〉を発動させる。何度も何度も。より素早く、より確実に。

 この三つの動作を、繰り返し繰り返し行った。

 そして最後に、実際に剣を振る動きのなかで〈炎槍〉を発動させてみた。

 かなり満足のゆく結果が出た。

 昼食にしようかと思ったころ、〈生命感知〉にニケの気配が表示された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここですね 呪文も省略してレカンが魔法を発動したシーンです
[良い点] https://ncode.syosetu.com/n3930eh/516/  ・レカンの〈魔力吸収〉は、もともとスキルであり、魔法ではない。 ・そしてもとの世界では、〈収納〉〈魔力感知〉…
[気になる点] 書籍版を読んだとき致命的な間違いがあり、ずっと気になっていたのですが、WEBで見ると内容が違いました。 書籍版は「昼食にしようかと思ったところ」のあと「異常に光の強い赤点と、かなり強い…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ