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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第10話 ザイカーズ商店
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12


 ゴルブルに着くまで、山で二泊した。

 その道中、レカンを実験台にして、エダはニケから〈回復〉の手ほどきを受けた。

 エダの魔力量は尽きるということがないかのようで、あきれるほど繰り返して〈回復〉を発動した。魔法というのは、使えば使うほど上達する。ふつうは魔力が回復するまで時間がかかるため、上達の速度もそれほど速くならない。その点、エダはいかさまじみた才能の持ち主だといえる。

 ゴルブルに着いたときには、レカンの傷は完全に跡形もなく消えていた。しかも体調が異常にいい。エダのおかげである。

「エダちゃん。ここの宿代は、レカンが全部出してくれるよ」

「ほんとかい、レカン?」

「ああ」

 これは断るわけにいかない。

 前回の迷宮探索で得た金がある。〈白亜館〉の宿代ぐらい、命を救われ呪いも傷もきれいさっぱり治療してくれたことを思えば、安いものである。

「これは、レカン様。ようこそおいでなさいませ」

「支配人。また世話になる。オレには最初に泊まったときと同じ部屋を、女二人には、近くの部屋を頼む。料金はオレが全部払う」

「かしこまりました」

 食事はレカンの部屋でとった。

 ニケは高いワインを次々にがぶ飲みした。

 レカンは蒸留酒をあおった。

 今さらだが、エダは酒を飲まない。飲むのをみたことがない。以前少しワインをなめたことがあるらしいが、こんなまずいものはいらないと思ったそうだ。


13


 夜更けにレカンは目をさました。

 迷宮に行きたい。

 強烈に、そう思った。

 〈白亜館〉を出て迷宮に向かった。

 あくびしていた警備隊員の前を通り過ぎる。

「おい。今の〈黒衣の魔王〉じゃなかったか?」

「あ、そうかもしれん」

「〈魔王〉が迷宮に来たら隊長に連絡することになってるぞ」

「隊長が今夜どこで飲んでるか、お前、わかるか?」

「見当はつくけど、ちょっと遠いかもな」

「朝が来て交代の時間になったら、宿舎に行って、たたき起こして報告しよう」

「そうだな。そうしよう。どうせ魔王は深層に潜るだろうから、何日かは出てこないしな」

 レカンは奥に進んだ。

 そして呪文を唱えた。

「〈階層(シジメル)〉」

 心のなかに、〈印〉を刻んだ階層が表示される。そのなかの最下層である第二十六階層を選択した。

「〈転移(パルプ)〉」

 次の瞬間、レカンは第二十六階層にいた。

 魔力のない人間にもこの階層転移の魔法は使えるらしい。ひどくふしぎな話だが、それをいうなら迷宮自体がふしぎのかたまりだ。

 〈生命感知〉を使い、地図を参考にして、接敵しないように下層におりてゆく。

 第二十七階層を探索しているパーティーがいたが、これとも接触しないようにして進んだ。

 そしてレカンは、最下層に到着した。


14


 レカンは、〈ザナの守護石〉を装着せずに、最下層に足を踏み入れた。

 前回の戦いは、引き分けだった。

 いや。

 守護石の加護を受けてようやく引き分けだったのだから、実質は負けにひとしい。

 装身具の加護は実力のうちではない、などという気はない。

 そんなことを言い出したら、剣も鎧もなしで戦わなくてはいけない。

 強くなるということのなかには、よい装備を手に入れてゆくことも含まれている。

 ただし、装備に頼り切った強さは、本当の強さではない。

 そこをみうしなえば、便利な加護のついた装身具は、自分をまどわせ、弱める働きをするだろう。

 きちんと自らの力を研ぎ澄まし、そのうえで装身具の加護を上乗せするなら、それは強みとなる。

 今度こそ、レカン自身の実力で、あの強敵を倒すのだ。

 この敵には、そういう勝ち方をしなくてはいけない。

 今の自分ならそれができる、とレカンは感じている。

 階層の中央部に進んでゆく。

 やはり中央の部屋に主はいた。

 立ち止まりもせずレカンは、〈大剛鬼(ウルガング)〉に近寄ってゆく。

 今度も寝ている。

 最大出力の〈炎槍〉で攻撃すれば、一撃で殺せるだろう。あるいは致命に近いダメージを与えられるだろう。だが、そんなことをしにここまで来たのではない。

 わずか十歩の距離まで近づいて、レカンは剣を抜き、声をかけた。

「起きろ」

 すくっと大剛鬼は身を起こした。

 あのときと同じだ。圧倒的な武威がレカンに向かって放たれる。

 ぞくぞくした。

 これから、本当の戦いが始まるのだ。

 よくみると、同じ大剛鬼なのだが、前のときとはわずかに姿がちがう。少し前より細身だし、体毛の色も黄色がかっている。だが、武威の強烈さは変わらない。

 大剛鬼は動こうとしない。

 レカンも動かない。

 お互い、もう半歩近づけば、相手の間合いだと知っている。

(前回はこちらに決め手となる攻撃がないため勝負が長引いた)

(だが今度は)

 大剛鬼が、両の手を振り上げ、指に力を入れた。わずかに十本の爪が発光した。スキルを発動したのだ。今やあの爪は、聖硬銀の剣に匹敵するほどの切れ味を持っている。

 予備動作もなく、大剛鬼が飛び出した、それを受けてレカンも飛び出した。いや、飛び出しは同時だったかもしれない。

 レカンは、大剛鬼の喉元ただ一点をみすえていた。

 これは以前にはなかった感覚である。

 どこをどう突けばよいのか、体が教えてくれる。

 一瞬ののち、両者は交差し、レカンの剣は、大剛鬼の喉を貫いていた。

 やはりそうだ。

 〈刺突〉のスキルは、刺突の際に攻撃力と正確さが大幅に上昇するのだ。

 レカンにとって、これは奥の手の一撃となる。

 それが大剛鬼との再戦で証明された。

 実力が同じ程度の相手と死闘を行うとき、決め手となるのは、抜きん出た必殺技だ。剣士であるレカンがいくら強力な魔法を覚えても、それは補助とはなっても決め手とはならない。その決め手を、今こそレカンは手に入れたのだ。

 大剛鬼が消え、宝箱が現れた。

 開けた。

 短剣が入っている。

 鑑定した。

 〈ハルトの短剣〉という名だった。

 効果は、呪い無効。

 この短剣を装備していると、ほとんどの呪いにかからない。

 それでも呪いにかかってしまった場合、短剣で自分の体に傷をつければ、短剣が呪いを吸い取ってくれる。

「行きがけに寄ればよかった」


15


「おはようございます」

「ああ、おはよう。レカンは起きてるかい?」

「レカン様から、お手紙をお預かりしております」

「へえ?」

「どうしたっすか? 手紙に何が書いてあるんすか?」

「…………エダちゃん」

「はい?」

「レカンは一足先に、ヴォーカに帰ったよ」

「えええええっ?」

「宿代は払ってあるそうだ」

「あ、それはよかったっす」

「ゆっくり買い物して帰れってさ」

「望むところっす」

「おめでとうございます」

「へえ? 何がだい?」

「レカン様は、またも迷宮を踏破なさったようでございます」

「へ?」

「レカン様が夜明け前に帰って来られ、急いで出立されました。その直後に、迷宮の魔獣が消えてしまった、またも迷宮が踏破された、と大騒ぎになったのでございます」

「……へえ」

「これは予測にすぎないことでございますが」

「何だい?」

「まもなくここに、領主様のお使いがおみえになるのではないかと思います」

「あたしたちは、レカンと何の関係もない。そういうことにしといておくれな」

「おそれながら、それはむずかしいかと存じます」

「どうしてだい?」

「先ごろ、当館において、ご領主様からのご接待をお受けになられたとき、ニケ様とエダ様も同席しておられたからでございます」

「そうだったね」

 ニケは手紙を破り捨てた。

「あの野郎」

「何? 何? 何が起こったんす?」

「エダちゃん」

「はい?」

「とりあえず、飯を食おうかね」

「はいっ。賛成っす」


16


 シーラの作った体力回復薬を飲みながら、レカンは走った。

 ちょうど門が開いた直後に到着した。

 こんなに朝早くては、まだ冒険者協会も開いていない。

 シーラの家に帰ってジェリコにあいさつし、食料を〈収納〉から出して軽い朝食をとり、それから冒険者協会に足を運んだ。

 いい仕事を得ようとする冒険者たちで、協会はにぎわっている。それでもレカンが受付に進むと、周りの冒険者たちは恐れをなしたように道をあけた。

「あ、レカンさん。お帰りなさい」

「アイラ。行きがけには世話になった。礼を言う」

「いえ。あんなことが協会のなかで行われるなんて、失態もいいところでした」

「依頼は無事完了し、三人とも約束通りの報酬を受け取った」

「それはけっこうでした。ちょっとこちらに来ていただけますか」

 アイラは物陰にレカンを連れ出し、こう言った。

「神殿がエダさんを探しています。そのようすが、ちょっと普通ではありません。ぜがひでも探し出して連れ帰りたいようすなんです。何か心当たりはおありですか?」


「第10話 ザイカーズ商店」完/次話「第11話 ケレス神殿」

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― 新着の感想 ―
こっちの世界の技能はレカンが元いた世界と違って発動ワードなしで使えるのが優れた点ですね
[良い点] あぁまたまた厄介ごとが… 面白いです!
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