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狼は眠らない  作者: 支援BIS
最終話 伝説の始まり
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 王国暦百二十年七の月の十八日、ザイドモール家において、ガスコエル・ザイドモールとヴォーカ子爵令嬢スシャーナの婚礼が行われた。レカンはこれに出席し、小火竜の肉を大盤振る舞いした。

 その結果手持ちの竜肉がなくなったので、そのあと、ロトルに向かう。着いたのは七の月の四十日である。すると迷宮が休眠していた。領主邸を訪れ、ユフ迷宮騎士団のしわざだと知る。

 八の月の四十日、再度ロトルを訪れたレカンは、小火竜を狩る。


 翌月、マシャジャインに寄ったとき、マンフリーから、ワズロフ家の近況などを聞いた。ずいぶん交際が広がっているらしい。交易相手も増えた。やり取りを望む諸侯のなかには油断ならない相手もいるし、そうでなくても付き合う諸侯とその領地のことは調査しなくてはならない。最近新規に密偵をかなりの人数召し抱えたのだが、あまり優秀なものはいない、などとぐちをこぼしたので、ちゃっかり顔を出したぽっちゃりを紹介した。このとき、ぽっちゃりは、結婚式で色のついた玉を投げていた大道芸人は実は自分だったと告げた。これに対しレカンは、ああそうだったな、と答えた。気が付いたけれど無視していたのだ。


 同じく王国暦百二十年の九の月、シーラを通じてヤックルベンドから連絡があり、貴王熊の外套の修復が完了したというので、受け取りに行った。もとの世界の魔石をねだられたので、二つ渡した。それとは別に、〈湯沸かし君〉の謝礼だと言って、もとの世界の品をいくつか渡した。貴王熊の外套は、エダが懐かしがって、どこかにしまい込んだ。


 王国暦百二十年の十の月、ザイドモール家当主ザンジカエルは、筆頭騎士エザクにチッコリー村を領地として与え、トロンギルト家を立てさせる。また、ショアーの町、ガスコー村、ボイド村の代官に任じる。


 王国暦百二十一年となった。この年から、パルシモ製の〈自在箱〉が王都で販売されるようになった。ふつうの〈箱〉の百倍もの値段だったが、王都や各地の貴族や有力者が争って買い求める。特に外套や上着に〈自在箱〉を付けたものがよく売れた。


 同じく王国暦百二十一年の一の月、『サースフリー薬草学全書』の刊行が始まる。まず第一巻から第三巻までが刊行され、スカラベルの名で各地の薬師に配布された。


 同年二の月、レカンはバンタロイの町で、シャントラー神殿の暗殺神官に襲撃される。


 同年三の月の二十三日、ノーマが第一子を出産する。女児である。レカンがユナと命名した。「癒やし」という意味があり、古代の伝説的な薬師の名だという。


 同年四の月に、エザクはチッコリー村の村長を解任して追放する。この村長は父親が死んだため数年前に村長になったのだが、強欲で無能で、いくつもの不正をしていた。この男が以前エダにしでかしたふるまいをエザクはレカンから聞いていたので、領主となるやただちに調査を行っていたのだ。


 同年五の月、短い患いののちスカラベルが死去する。最後は〈浄化〉も効かず、王から下賜された神薬もわずかな延命しかできなかった。枕元には、『サースフリー薬草学全書』第一巻から第三巻までが置いてあった。満足そうな死に顔であったという。年齢はわからないが、のちにアーマミールはレカンに、たぶん百十一歳ぐらいであられたと思います、と語っている。


 スカラベルがこの世を去ったころ、レカンはロトル迷宮の小火竜を狩っていた。

 翌月もレカンは小火竜を狩った。

 そのあとユフ迷宮騎士団の騎士五十人がロトルに到着し、迷宮が休眠しているのに当惑するが、復活するまで待つことになった。ロトル迷宮の休眠期間は四十日である。

 七月になり、迷宮が復活するや否や、ユフ迷宮騎士団を出し抜いてレカンが小火竜を狩った。

 デュオ・バーンがレカンをみつけて問い詰める。話しているうちにデュオも怒り出し、騎士団の一部をロトルに常駐させて小火竜を狩り続ける、と宣言する。

 その言葉通り、八月にはユフ迷宮騎士団が小火竜を狩った。

 ロトル迷宮は「目覚めない迷宮」と呼ばれ始める。

 困り切ったロトル領主はワズロフ家に泣きつく。マンフリーの仲裁で、小火竜狩りは、レカンは年に二度、ユフ迷宮騎士団は年に一度にとどめること、レカンは五の月と六の月には小火竜を狩らないことを誓う。

 この出来事は、誰言うともなく〈竜肉戦争〉と呼ばれるようになる。


 レカンはバンタロイに寄り、チェイニーに小火竜の肉を贈る。そのとき、トロンの剣とトロンの槍の専売契約について話を聞く。ザイドモールから入ってくるとげから作った品は、王家あるいは王家から斡旋された諸侯が買い取っているのだが、それ以外に、王家の許可証を持ってトロンのとげを持ち込み、剣あるいは槍を作ってほしいと頼む貴族が次々に現れているのだという。また、最近、チェイニーの周りには何人もの密偵が張り付いているという。


 このあとレカンはバンタロイの町で、シャントラー神殿の暗殺神官に襲撃される。二回目である。


 レカンはマシャジャインに引き返して、トロンのとげについてマンフリーに尋ねた。

「建国王陛下がトロンを討伐なさったあと、目や牙や心臓その他の内臓、骨や皮など、価値ある部分は、わが家を含め功績の大きかった諸侯に下賜なされた。そのほかの者たちには、トロンのとげを下賜なさった。だからこの国にはトロンのとげを持っている貴族がたくさんいるというわけだ。ただ、あれは加工できないと思われていたし、硬いのはわかっていたが、魔法を消す働きがあることは知られていなかったから、記念品という以上の価値があるとは誰も思っていなかったのだ。宰相府としては、チェイニーがどうやってとげを加工しているのかを知りたいのだろうな。いつまでも隠しおおせるものではないから、今のうちにせいぜい稼いでおくことだ」

 加工しているのはシーラだ。どうやって品の受け渡しをしているかはわからないが、やすやすと気取らせるようなシーラではないし、かりにシーラにたどりついたとしても、その技術はたぶん模倣不可能だ。

「とげの加工方法を盗み出せないと、チェイニーに危害が及ぶかもしれんな」

「それはないだろう。ザイドモール家とウルバン家を昇格させたのは、君の機嫌を取るためだ。君とチェイニーの親密さは、婚礼のとき明らかになったからね。チェイニーを害して君を敵に回すようなことはしないとも」


 この年十の月、ヤックルベンド・トマトは、この世界の魔石を使った〈自動修復〉の付与に成功する。ただし恩寵品には付与できなかったし、修復の力は徐々に失われていくもので、実用性はさほど高くない。だが、これは新たな何かの始まりだった。


 同じくこの年の十の月、王が退位する。

 王国暦一二二年一の月、王太子が即位する。


 同年二の月、ヴォーカのレカンのもとにスカラベルの弟子を名乗る人物から手紙が来て、王都に呼び出される。相手は三人だった。貴族出身の神官で、「カーサ・スーラの名のもとに」という合い言葉をレカンに告げ、自分たち三人が後継者に指名されたので、秘義を伝授してもらいたいと要求してきた。秘義とは、魔力回復薬と体力回復薬の特別な作り方のことだ。かつてレカンはスカラベルから、合い言葉を告げた人間にそのわざを伝授する約束をした。

 レカンは、必要な機材の準備などを指示して時間を稼ぐ。本来一人でやるはずの作業を三人がかりでやるというのは、スカラベルの約束と違うと思った。指導を受けようというレカンを呼び出したのも、スカラベルのやり方とはちがうと思った。

 スカラベルの屋敷に行くと、カーウィンがいたので話を聞いた。カーウィンの言うには、スカラベルから合い言葉を聞いたのは自分だという。ただし、まだ魔法の同時発動がスカラベルの要求した水準に達していないので、修業を積んでからレカンを訪ねるつもりだったという。

 アーマミールを訪ねて話を聞いたが、決定的なことは知らなかった。

 レカンはマンフリーからぽっちゃりを借り受けて調査させ、証拠を集めて三人の貴族神官を糾弾する。マルリアが猛然と協力してくれた。三人の貴族神官は神官位を失い、それぞれの家から絶縁されたうえ、王都を追放された。背後には薬師たちを牛耳りたい王都ライコレス神殿の暗躍があった。


 このとき、レカンは王都で所有する魔石の整理をしていて、みなれぬ魔石が交じっているのに気付く。それは、ドロース・シェプターから贈られた魔石だった。この魔石がきっかけとなり、レカンはドロースに再会する。折りしも王都魔法協会と王立魔導協会の対立が激化しており、レカンは成り行きにより、王都魔法協会の代表として王宮でのトーナメントに参戦する。決勝戦で、ヤックルベンド自慢の魔法結界を破壊してしまい、〈破壊者レカン〉と呼ばれるようになる。


 四の月になり、レカンはロトルに行って小火竜を狩った。肉の処理に三日かかる。そのあいだ珍しくロトル伯爵のところに泊まった。ロトル伯爵の言うには、〈竜肉戦争〉が諸侯のあいだで評判になり、そんなにうまい肉ならと、騎士団を派遣した領主が五人いたが、五十階層にもたどりつけなかった。冒険者を雇って小火竜の肉を手に入れようとした領主もいたが、今のところ果たせたパーティーはいないという。ここ最近レカンは肉の分け前をロトル伯爵に提供していなかったが、少しでも売ってもらえないかとロトル領主が懇願した。王家はじめあちこちから引き合いが来ているらしい。レカンは小さな包みを一つだけ贈呈した。


 そのあとバンタロイに行って、チェイニーに竜肉のおすそ分けをした。お前まだ引退しないのかと聞くと、あなたのせいですという答えだった。


 バンタロイで、シャントラー神殿の暗殺神官に襲撃された。三回目である。


 レカンがヴォーカに帰ると、そのすぐあとにボウドも帰ってきた。中小の迷宮二十三か所を踏破したという。

 ユリウスもやって来た。アリオスとウイーに娘が生まれたという。

 ユリウスがレカンのもとで修業するのは、翌年いっぱいで終わりになるとのことだ。そのあとユリウスには別の使命があるらしい。

 三人はフィンケル迷宮に向かう。七十日で百四十階層まで進み、レカンとユリウスはいったんヴォーカに帰る。ボウドはふらりと旅に出た。


 この年八の月、ジェリコとユリーカの子が生まれる。男児であった。頼まれてエダがラゴスと命名した。


 九の月、エダが第二子を出産する。女児であった。レカンがレーヌと命名した。「翼ある使徒」あるいは「良き知らせをもたらす者」という意味で、もとの世界の女神の使いだという。

 ゴンクール家の庭の離れが手狭になってきたので、新たに建物を建てた。建築したのはチェイニー商店だが、材木の手配はピラリコという老商人が請け負った。ピラリコは、レカン様には恩義があると言い、格安でよい材木を納めた。ノーマはレカンにピラリコのことを聞いたが、レカンはその名前を覚えていなかった。

 こうして王国暦百二十二年は喜びのうちに終わった。


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[良い点] 「わしは領主に感謝なんかせんぞ! 誰が感謝なぞするものか!」 と言っていたピラリコさんが登場してて感激 今は領主と和解したのかな? [一言] ゴルブル迷宮のジョンとソリスのその後を知りたか…
[気になる点] 登場しましたね氷刃の先生が。
[一言] ピラリコ、ググりました。あーこの人だったか! たった一言の承認が、再生させたということか、実に喜ばしい
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