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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第55話 両雄激突
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 斜め上から振り下ろされた攻撃である。

 左肩に鈍い衝撃を感じた。

 胸に強い圧迫感を感じた。

 右腰で、身体の一部が壊れたような感覚を覚えた。

 ボウドは振り抜いたバトルハンマーをくるりと旋回させ、今度は右横奧側から攻撃を加えようとしている。

 レカンは左手を持ち上げて〈炎槍〉を放とうとした。

 だが左手が言うことを聞かない。

 〈突風〉で背後に逃げようとした。

 だが声が出ない。

 バトルハンマーが迫る。

 レカンは聖硬銀の剣をふるった。

 狙いは迫り来るバトルハンマーの巨大な鎚頭を支える柄の部分である。

 ボウドがくるりと鎚頭を回してみせた。この戦いで二度目の小技だ。

 聖硬銀の剣が、バトルハンマーの鎚頭と激突した。

 甲高い音を立てて、聖硬銀の剣が折り砕かれる。

 バトルハンマーがレカンの腹を打ち据えた。

 後ろに吹き飛びながら、レカンは念じた。

(治れ! 治れ!)

(治れぇぇぇぇぇ!!)

 〈自己治癒〉が発動し、声が出るようになった。

 背中から草原に墜落した。

 大炎竜の鎧のおかげで、墜落のダメージは大きくない。

「〈回復〉!」

 右手を左肩に当てて〈回復〉を発動すると、くるりと左に身をひねって跳ね起きた。

 間一髪でバトルハンマーが大地を打ち据える。

 レカンは走った。

 だが、先ほど受けた打撃は足腰にも大きな損傷を負わせていたようで、思うように走れない。

 ボウドが後ろから走って追いかけてくる。

 このときレカンは〈立体知覚〉に意識を集中するような余裕はなかったが、ボウドが追っていることは、そんな技能に頼らなくてもありありとわかった。

 前方には観戦している獣人たちがいる。

 ずいぶん人数が増えている。

 すぐ後ろにボウドがいる。

 もつれる足をなんとか制御しながら、必死で走った。

 獣人たちが驚いた顔で避難し始める。

(邪魔だ!)

(どけ!)

 レカンが獣人たちの隙間に走り込もうとしたら、その真ん前に飛び出した獣人がいた。

 次の瞬間、木の根に足を取られてレカンが前のめりに転倒した。

 その頭上をバトルハンマーが轟音を上げて通り過ぎ、不運な獣人に命中して吹き飛ばした。

 レカンは右に回転しつつ起き上がり、そのまま観戦者たちのなかに逃げた。

(観戦しているやつらは木や石と同じだ)

(つまり障害物だ)

(障害物のなかを縫って走り抜ければ)

(距離が稼げる)

 なぜか観戦者がひどく多い。

 人間も多い。

 少し不思議に思ったが、今はそれどころではない。

 〈立体知覚〉を駆使して、レカンは障害物のあいだを駆け抜けた。

 しばらく逃げてから後ろに意識を向けた。

(少しは距離が稼げたか?)

 稼げていなかった。

 ボウドはレカンのすぐ後ろにいた。

 邪魔な獣人や人間を体当たりで吹き飛ばし、引っつかんで放り投げ、突き倒して乗り越え、まっすぐレカン目指して突進してくる。

 レカンはなおも逃げようとした。

 目の前にヴィスカー・コーエンがいた。

 目をみひらいている。

 素早くヴィスカーの後ろに回った。

 さらに奥に進もうとしたが、人が密集していて、〈立体知覚〉でも走り抜けられる道がみつからない。

 目の前に、デュオ・バーンがいた。ユフ迷宮騎士団長だ。どうしてこんなところにと思ったが、今はそんな場合ではない。

 レカンは振り返った。

 ボウドが左手で騎士を突き飛ばしつつ、ヴィスカーの脇にバトルハンマーの柄頭を引っかけ、右手一本でぶうんと振り回して、ヴィスカーを遠くに放り投げた。

 レカンはボウドに飛びかかり、バトルハンマーを持つボウドの右肩を左手で押さえて、奇怪な兜の顔面部分を右手でつかんだ。

「〈火矢〉!」

 四本の〈火矢〉が兜の内側で生成され、ボウドの両の目に突き刺さった。

 レカンは〈火矢〉を自分の体から少し離れた位置で発現できる。そしてボウドの兜には魔力が通るだけの隙間があったようだ。

 レカンは素早く後ろに跳びすさる。

 ボウドがうめき声を上げながら、左手を兜の顔の部分に当てる。

 レカンは〈収納〉から赤大ポーションを五個ほど一つかみにして取り出すと、首もとで握りつぶした。

 赤ポーションが鎧の下に流れ込んでゆく。

 さらに上を向いて大口を開け、赤ポーションを絞り、口に落ちてきたポーションをごくごくと飲み込む。

「〈回復〉! 〈回復〉! 〈回復〉!」

 自分に〈回復〉をかける。

 目の前ではボウドも〈収納〉から赤大ポーションをいくつかつかみ出し、絞って顔にかけていた。

「〈風よ〉! 〈風よ〉!」

 レカンは人のいないほうに走った。つまり、もともと二人の戦場だった場所の中央に向かって移動した。

 たちまち五十歩ほど走った。

 魔力が体に流れ込んできた。

(〈巫女の守護石〉か?)

 恩寵無効の範囲外に出たということなのだろう。

 ということは、ボウドの近くではやはり恩寵無効は働いているということだ。

 ちょうどそこに白炎狼の外套が落ちていたので、拾って着た。

 ボウドがバトルハンマーを肩にかつぎ、悠然と歩いてくる。

 レカンは〈収納〉から〈アゴストの剣〉を取り出した。

 そしてそれを左手に持ち換え、右手で〈収納〉から〈ハルフォスの杖〉を取り出し、〈驟火〉の準備詠唱を始めた。

 ボウドが歩み寄ってくる。

 準備詠唱が続く。

 ボウドが歩み寄ってくる。

 半分ほどの距離になったとき、準備詠唱が終了した。

「〈驟火〉!」

 本来は広範囲攻撃である〈驟火〉が、ボウドとその周辺に降り注いだ。

次回8月2日

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ボウドがこんなに強いのが納得いかない。 レカンが逃げ惑う状態になってるという事は、設定として少なくとも大迷宮クラスを3つ踏破してる事になりますが、ザカ王国以外に大迷宮無いってシーラ言っ…
[一言] ランバージャックデスマッチだったら押し返されたりして敗北したでしょうけど、そういう一定範囲から逃げたらだめな文化はないのね。
[一言] ボウドさすがに強いですね。 そして本日2回目の〈驟火〉キター٩(ˊᗜˋ*)و さあどうなる?!(わくわく
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