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狼は眠らない  作者: 支援BIS
第55話 両雄激突
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 ボウドの体はわずかにのけぞった。

 頭がわずかに沈み込んだ。

 だが、それだけだ。

 両断されるはずのボウドの頭と体は、そこにそのままある。

 それどころか、兜を断ち斬ることさえできていない。

 あり得ない光景がそこにあった。

 レカンが加速をつけ最大の力で打ち込んだのである。

 どんな相手も真っ二つに切り裂かれるはずだ。

 だが、ボウドはびくともしていない。

 レカンの目の前には兜がある。不気味な魔神の顔を模した造形なのだが、目玉は丸く大きく、奇妙な愛嬌がある。

 その作り物の目玉の奥で、ボウドの肉眼がレカンをみているような気がする。

 外側に湾曲した巨大な牙の奥で、ボウドの口元がにやりと笑ったような気がした。

「〈力よ(ガスパー)〉!」

 しまった、と思う間もなくボウドの巨大なバトルハンマーが旋回してレカンを襲う。

「か、〈風よ〉!」

 〈突風〉を発動してボウドの攻撃から逃れようとしたが、わずかに遅い。

 バトルハンマーの先端がレカンの腹に食い込む。

 レカンは、ぐるぐる回転しながら吹き飛ばされ、地に叩きつけられた。

 受けた衝撃で視界が曇るが、レカンは必死に起き上がり、左手を腹に当てた。

「ごふっ。〈回復〉! 〈回復〉!」

 口から血を吹き出しつつ、腹に回復魔法を連発する。

 ボウドがバトルハンマーを右肩にかついで、のしり、のしりと近づいてくる。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 片膝を突いたまま、左手を前方に向け、〈炎槍〉を五連射した。

 かなりの魔力を込めた。

 五発の〈炎槍〉は、ボウドの顔、右肩、左胸、腹、腰に着弾して大きく爆発した。

 だがボウドは小揺るぎもせず、平然と耐え、また歩き出した。

(くそっ!)

(〈硬質化〉だ!)

(間違いない)

 五発の〈炎槍〉が着弾するとき、ボウドは動きを止めていた。〈硬質化〉を強く発動するときには、ボウドは動きを止めるのだ。

 その前のレカン渾身の一撃も、ボウドは〈硬質化〉で防御しきったのだ。

 〈硬質化〉は発動に呪文が必要ない任意発動型のスキルなのだが、習熟すると長時間連続して発動できる。ボウドは戦闘のとき、弱く常時発動させておいて、ここぞというときには動きを止めて最大限の発動をさせていた。

 だが、〈硬質化〉を強く発動させるときには大量の魔力を消費するはずだ。魔力のない今のボウドが、なぜ〈硬質化〉を発動させられるのか。

 うなりを上げてボウドのバトルハンマーが右上から左下に向かって振り下ろされる。

 レカンはボウドの攻撃動作が始まってから、素早く立ち上がりつつ左に跳んだ。

 風圧で白炎狼の外套が引きちぎられそうになる。

 すれちがいざまに〈レカンの剣〉で、ボウドの右手の二の腕に斬り付けた。

 硬い手応えだが、弾力もある。

 空振りしたボウドが態勢を立て直す隙に、後ろから袈裟懸けに斬り付けた。

 まともに当たったのだが、あまり斬れたという感触はなかった。

 ふつう〈硬質化〉は身体と共に服や鎧にもかかるが、〈硬質化〉の効果が高い鎧と低い鎧がある。金属鎧は効果が低い。魔獣素材は概して高い。

 ボウドの鎧は魔獣素材のようだ。非常に上質な品のようで、しかも強い〈硬質化〉がかかっている。これを斬るのは容易ではない。だが、斬って斬れないことはないような気がする。

 ボウドが大きく右に回転して振り返り、力をためてバトルハンマーを振り回してきた。

「〈力よ〉!」

「〈風よ〉!」

 後ろに跳びすさりつつ、〈突風〉の力を借りて大きく跳んだ。

 力よ、というのは〈剛力〉というスキルの発動呪文だ。そして先ほどの打撃には、間違いなく〈衝撃貫通〉が込められていた。

 レカンは口にたまった血を吐き出した。

 〈回復〉をかければ傷は修復されるが、腹のなかに流れ出てしまった血がなくなりはしないし、内臓のダメージや痛みが完全になくなってしまうわけではない。レカンは内臓がねじれる痛みと気持ち悪さを抱えたままだ。

 ボウドは、〈衝撃貫通〉〈剛力〉〈硬質化〉の三つのスキルを間違いなく使える。レカンの〈突風〉は、もとの世界では魔法には分類されなかったが、この世界では魔法扱いだ。〈生命感知〉や〈魔力感知〉は、この世界のルールに適応して作り替えられた。ボウドの場合、〈衝撃貫通〉〈剛力〉〈硬質化〉は、この世界では魔法ではないとみなされたのだろう。だから魔力ではなく、ほかの何かを消費して発動している。この世界のルールにしたがって、そう作り替えられたのだ。そうとでも思うしかない。

 それにしても、レカンの渾身の一撃が頭部に直撃したのに平気だったのは異常だ。この世界に来て〈硬質化〉が異常な進化を遂げたのか。あるいは〈硬質化〉の効果を高めるような装備を身に着けているのか。

 そして大炎竜の鎧ごしにレカンの腹部に多大なダメージを与えた、あの攻撃。

 〈衝撃貫通〉も恐るべき進化を遂げている。

 ボウドがバトルハンマーを大上段に振り上げて、悠然と歩み寄ってくる。

 レカンは身をかがめ、ぎりぎりまで待ってから、右に身をかわし、ボウドの後ろ側にまわり、すれちがいざまに左足の踵の上のあたりに斬り付けた。

 まっすぐ振り下ろされたバトルハンマーは、途中で軌道を変え、左側の大地をうがった。

 もしもレカンが左側に身をかわしていたら、あの打撃を身に受けていただろう。

(敵は一撃でこちらを戦闘不能に追い込めるが)

(こちらの攻撃はほとんど通じないわけか)

(さて)

(どう戦うか)

「〈風よ〉! 〈風よ〉!」

 レカンは後ろに大きく跳んで、敵と距離を取ると、〈レカンの剣〉を〈収納〉にしまい、聖硬銀の剣を取り出した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無敵モード並みの固さ [気になる点] 倒し方が浮かばない
[気になる点] ボウドの硬質化は防具も強くしますか? 兜も割れなかったのは硬質化の影響か、素の防御力が高いのか。 [一言] ボウドの方も一撃で終わらなかったことに驚いてそう。
[一言] 出来るか分かりませんが レカンが切って切れないことはないというなら浮遊、移動の魔法でボウドを動かして硬質化を弱めて渾身の一撃で両断ですかね
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