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レカンは〈雷撃〉を相手全員めがけて放った。
エダは右側に跳び出して、〈イェルビッツの弓〉から五本の魔法矢を四連射した。
レカンの攻撃とまったく同時に、梟獣人の持つ短刀から刃が射出された。しかも何十本という刃が連続して射出され、レカンたち四人に襲いかかった。
エダが放った魔法矢の四連射と、レカンが放った〈雷撃〉は、竜獣人の持つ盾に吸い込まれた。
レカンは飛んできた刃をかわそうとしたが、刃は〈インテュアドロの首飾り〉が生成した魔法障壁に当たって砕け散った。
エダに向かって飛んだ刃も〈インテュアドロの首飾り〉が生成した魔法障壁に当たって砕け散った。
騎士ヨーグと騎士ウォルトに向かって飛んだ刃は、二人が構えた〈トロンの剣〉にほとんど散らされ、残滓も盾によって防がれた。
梟獣人の持つ短刀は、魔法攻撃を放つ恩寵品だったのだ。
山猫獣人が、騎士ウォルトのすぐ前に迫っている。移動がひどく速い。
そして騎士ウォルトの左側に回り込むと、盾を持つ左手の肘の部分にショートソードで突きを入れた。騎士ウォルトの動きが一瞬止まる。ショートソードは防具のわずかな隙間に突き込まれたようだ。
梟獣人の放つ魔法の刃が立て続けに騎士ヨーグに襲いかかる。騎士ヨーグは身を縮めて〈トロンの剣〉と盾で攻撃をしのぐ。
レカンが山猫獣人に斬り付ける。山猫獣人は身を翻して、騎士ウォルトの陰に隠れる。そして素早く右に移動すると、左肘に受けた痛手で動きが鈍くなった騎士ウォルトの喉元に突きを入れた。
「〈浄化〉〈浄化〉」
エダの〈浄化〉が騎士ウォルトに飛ぶ。
レカンが〈彗星斬り〉で山猫獣人に斬り付けたが、山猫獣人はこれをかわしてもう一度騎士ウォルトの左側に回り込もうとした。そこに騎士ウォルトが剣を振り下ろす。
重傷を負わせたはずの騎士ウォルトの攻撃に、山猫獣人が体勢を崩す。
「〈睡眠〉」
エダの放った魔法で、一瞬山猫獣人の動きが止まった。
騎士ウォルトが〈トロンの剣〉で山猫獣人の腹を突く。
山猫獣人は、ショートソードで騎士ウォルトの右手首に斬り付ける。
「〈浄化〉」
山猫獣人のすぐ後ろに黒犀の獣人が迫っていて、斧を振り上げている。黒犀獣人は、山猫獣人の頭越しに騎士ウォルトに斧を振り下ろした。
「〈炎槍〉!」
騎士ウォルトの右側に飛び出したレカンが、左手で放った魔法が山猫獣人の頭を吹き飛ばした。
黒犀獣人の、上から振り下ろすような斧の一撃を、騎士ウォルトは左手の盾で防いだ。左手首が妙な角度に曲がった。
「〈浄化〉」
このとき、竜の獣人が騎士ヨーグのすぐ前に迫っており、巨大な盾を振り回して騎士ヨーグを襲った。
レカンは黒犀獣人も竜の獣人も無視して前方に突進した。
梟の獣人は立て続けに魔法の刃を飛ばしてくる。魔法障壁はそれをはじき続ける。
梟獣人の両目が怪しい光を放った。
レカンは一瞬不快感を感じた。何かの状態異常だ。だが、レカンには効かない。
〈彗星斬り〉を振り上げて梟獣人を斬ろうとしたとき、梟獣人の持つ短刀が、太陽のような強烈な光を放ち、レカンの視力は奪われた。
次の瞬間、梟獣人はレカンの背後から、短刀をレカンの背中に差し込もうとした。
その梟獣人の首を〈彗星斬り〉が斬り飛ばした。
目がみえなくても、レカンには〈立体知覚〉がある。梟獣人の動きをみのがすはずはなかった。
梟獣人の移動は、普通の戦士にはとても追い切れない異常な速度だったが、いくつもの大迷宮を踏破したレカンの反応速度は、その動きにきちんと対応できるほどのものだった。
レカンはこのまま総指揮官の近くに転移して決闘を挑むこともできた。
だが反転して竜の獣人のもとに向かった。この竜の獣人を倒しておかなくては、総指揮官への挑戦権は得られないような気がしたのだ。
騎士ヨーグは吹き飛ばされ、地に伏している。エダが竜の獣人の注意を引きつけている。竜の獣人が縦横無尽に振り回す長い盾を、エダは器用にかわし続けている。かわしながら、騎士ヨーグに〈浄化〉を飛ばした。
騎士ウォルトは黒犀獣人の攻撃に何とか耐えているが、剣は折られ、盾もひどく変形している。長くはもたないだろう。
レカンは竜の獣人の背中に〈彗星斬り〉で斬り付けた。〈彗星斬り〉の魔法刃は竜の獣人が持つ盾に吸い込まれた。
(後ろからでも吸われるのか)
竜の獣人が唸り声をあげて振り返った。巨大な盾を振り上げ、レカンを押しつぶすようにたたきつけてきた。
「〈浄化〉〈浄化〉」
エダが騎士ウォルトと騎士ヨーグに〈浄化〉をかけている。
竜の獣人が振り下ろす盾を回避しながら、レカンはエダに声をかけた。
「エダ! オレの目にも〈浄化〉を頼む!」
少し後退して竜の獣人から距離を取る。竜獣人が一歩踏み出し、右から左に長大な盾を振り回す。
「はあっ。はあっ。わかった! 〈浄化〉!」
エダが荒い呼吸をしながら〈浄化〉を飛ばしてきた。
だがその〈浄化〉はレカンの手前で軌道を変え、竜獣人の盾に吸収された。
竜獣人がレカンに迫る。
「〈炎槍〉!」
レカンは大きく後ろに跳びすさりながら、竜獣人の足下の地面に〈炎槍〉を放った。
踏み出そうとした足下の地面に穴が開けば、転倒するか、少なくとも体勢を崩すことができる。
ところがその攻撃も盾に吸われてしまった。
「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」
ずしんずしんと音を立てながら迫る竜獣人の上や右や左に、レカンは立て続けに〈炎槍〉を放った。どのくらい盾から離れたら吸われないか試してみようと思ったのだ。だが、三歩以上離れた位置を通り過ぎるはずの〈炎槍〉も吸われてしまった。
(もしかしたら吸収できる範囲を調整できるのかもしれんな)
(うん?)
竜獣人の動きが止まった。
レカンは左前方に、つまりエダのいる方向に走った。
エダはレカンの意図を正しく理解した。
「〈浄化〉!」
レカンの頭部が暖かい光でみたされ、視力が戻った。
そしてレカンは竜獣人の異状に気付いた。