表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狼は眠らない  作者: 支援BIS
第55話 両雄激突
670/702

2

 2


 敵の飛行部隊は、ざっと三百人以上だ。鳥系の獣人たちである。

 翼をはためかせ、レカンたちに向かって飛んでくる。

 そのなかに五人ほど、恐ろしいほどの魔力を持った者たちがいる。

 よくみると、飛行獣人たちの多くは武器らしきものを持っているが、先頭の巨大な羽を持つ五人だけは、別の獣人を抱えて飛んでくる。その抱えられた五人が、強大な魔力の持ち主だ。

 騎士プルクス率いる弓兵隊は、進路を少し左に変えて駆けている。敵の飛行部隊を迎え撃つつもりなのだ。だが間に合いそうもない。

 飛行部隊は急速に近づいてくる。

 一瞬、〈驟火〉を使おうかと思った。

 だが、今の高さでは届かない。

 本来〈驟火〉は集団で使う魔法で射程も長いのだが、レカン一人で撃つ〈驟火〉は、二百ないし三百歩程度の射程だ。

 攻撃してくるときには降下するかもしれないが、〈驟火〉の射程内に入るかどうかわからない。

 それに、〈驟火〉は上から下にたたき付ける攻撃である。降下したときに〈驟火〉を撃てば、味方も巻き添えにしてしまう。

 姿がはっきりみえてきた。

 杖だ。

 五人の魔法使い獣人は、杖を構えている。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 届かないのは百も承知で〈炎槍〉を連発した。せめてもの牽制だ。

「ジンガー! 魔法攻撃が来るぞ! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 レカンの後方から魔法矢が飛ぶ。

 エダが〈イェルビッツの弓〉で攻撃しているのだ。

 〈イェルビッツの弓〉の射程は〈炎槍〉よりはるかに長い。

 何発かは当たった。だが敵は平気だ。距離で威力が弱まってもいるだろうが、敵の魔法防御は高い。

 敵部隊は高速で近づいてくる。

 五人の魔法使い獣人の構える杖には、戦慄すべき密度と量の魔力が蓄積されている。もはや詠唱は終わり、いつでも発動できる態勢だ。

「槍だ! 槍兵たちよ! 槍を空に向かって構えよ!」

 ジンガーが命令を下す。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 先頭の五人が下降を始めた。

 エダの攻撃がいよいよ苛烈になる。しかし敵は落ちない。

 騎士プルクスの指揮のもと、弓兵たちが攻撃を始めた。しかし距離がありすぎ、角度も悪い。

 獣人の五人の魔法使いが、魔法を放った。赤色、青色、黄色、紫色、そして白色の五つの魔法攻撃だ。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 射程ぎりぎりだったが、〈炎槍〉の一つが五人の魔法使いのうち一人を直撃した。

 その直後、地上が爆発した。

 しばらく視界がふさがれた。

 レカンとエダは、〈インテュアドロの首飾り〉に守られ、無傷だ。そしてあの混乱のなかにあって、槍兵たちは高々と〈トロンの槍〉を掲げ、騎士たちは槍兵のもとに集まって防御態勢を取っていた。

 そこに、後続の飛行獣人たちが降下してくる。

 エダがすさまじい勢いで魔法矢を連射し、二体ほど敵を落とす。

 飛行獣人たちは、持っていた槍を投げつけた。

 三百本の槍の雨だ。

 エダは攻撃をやめ、地に伏して体を丸めた。

 エダの前にジンガーが立ちふさがり、〈ウォルカンの盾〉を構えて、飛んできた槍を防いだ。恐ろしい音がした。重量のある槍だ。

「〈炎槍〉! 〈炎槍〉! 〈炎槍〉!」

 レカンも〈ウォルカンの盾〉で身を守りつつ、〈炎槍〉を放つ。

 だが飛行獣人たちは、〈炎槍〉の射程には降りてこない。

 獣人の飛行部隊は、槍を投げつけると再び上昇して、遠くの空に舞い上がった。

 地がえぐれ、草は焼け、いたるところで馬と槍兵が槍に貫かれて苦しんでいる。

 騎士たちはさすがに装備のおかげで被害は槍兵ほど大きくない。

 飛び去った獣人飛行部隊は、旋回を始めている。すぐに反転して再度攻撃してくるだろう。そうなれば全滅に近い被害を受ける。

 そのときジンガーが、張り裂けんばかりの大声で命令を放った。

「立ち上がれ、マシャジャインの騎士たちよ! 敵陣に飛び込め! 乱戦に持ち込むのだ!」

 命令を受けて騎士たちが前進を始めようとしたそのとき、再び獣人たちの遠吠えが響き渡った。

(くそっ!)

(いやらしいタイミングで!)

「〈浄化〉! 〈浄化〉! 〈浄化〉! 〈浄化〉! 〈浄化〉! 〈浄化〉!」

 ばたばたとマシャジャインの騎士たちが倒れるなか、エダが六発の〈浄化〉を発動させた。美しく青い光の玉が、ジンガーと五人の騎士たちの頭部を守っている。

 だが、〈浄化〉で守り続けられる人数は、あまりに少ない。ほとんどの騎士と槍兵は、行動不能だ。

 彼方の空で、獣人飛行部隊が旋回を終えようとしている。

 その様子を、ジンガーが厳しい目でみつめている。

(やむを得ん)

(オレだけでも本陣に突っ込むか)

 遠吠えをしている獣人までは、もう千歩もない。〈白魔の足環〉を使えば、わずかな時間で本陣に到達できる。だがそのあと、一人で敵総指揮官までの血路を切り開けるか、どうか。

 そのときである。

 何かの気配を感じてレカンは首をめぐらして北東の空を仰ぎみた。

 飛んでくる。

 何かが飛んでくる。

 たくさんの何かが飛んでくる。

 恐るべき速度で百ほどもの大きな何かが飛んでくる。

(あれは?)

(白首竜か!)

 百頭もの白首竜が、巨大な翼を広げ、戦場めがけて飛んでくる。

 いや、そうではない。

 獣人飛行部隊をめざして飛んでくる。

(味方か?)

 西の空をみた。

 反転を終えた獣人飛行部隊は、高度を上げながら飛んでくる。

 新たな敵が自分たちと戦うために現れたことを知り、決戦を挑むのだろう。

 レカンは、シーラから譲り受けた〈ハルフォスの杖〉を素早く取り出すと、詠唱を始めた。

「魔力よ。魔力よ。大いなる魔力よ。わが呼びかけに応え、ここに集え」

 敵も味方も空の戦いに気を取られている。今なら先手が取れる。

「わが腹に宿り、渦を巻き。右腕を通り抜けて、杖に宿れ。杖に宿りし魔力は旋回せよ。旋回して合流の時を待て」

 白首竜の飛行部隊が、レカンの〈生命感知〉の範囲に入ってきた。

 懐かしい巨大な魔力の気配がする。

 ジザだ。

 パルシモ魔法研究所の導師、ジザ・モルフェス大老だ。

 百頭の白首竜には、パルシモの魔法使いたちが乗っているのだ。

「新たな魔力よ、湧き出でよ。湧き出でて、丹田に収まり、凝り固まりて威力を増し、渦を描いてつながり合い、杖に流れ込め!」

 パルシモ魔法軍団のほうが高度が高い。舞い降りるように敵に向かう。獣人飛行部隊がそれを迎え撃つ。

 高速で大空を滑空する二つの飛行軍団は、たちまち相手を射程に捉え、魔法の撃ち合いが始まった。だが、獣人たちの攻撃魔法使いは、強大ではあるものの四人しかいない。それに対してパルシモ魔法軍団からは二十人ほどが魔法を放った。いずれも長距離攻撃ができる導師級の魔法使いだろう。

「杖よ。杖よ。加速せよ。わが魔力を加速せよ。すべての祈りは一つとなり。すべての破壊はわが手にある。そして時至らばわれに告げよ。解放の時をわれに告げよ。もはや、そは遠からじ」

 パルシモ魔法軍団から放たれたひときわ巨大な魔法球が、いち早く獣人飛行部隊の先頭集団を爆発の炎で包んだ。レカンには、〈七頭の青杖〉を構えるジザの姿がみえるような気がした。

 レカンは右手に杖を構えたまま、前方に向かって走り始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] パルシモでジザにガイルベイを見せられなかったのはこのためか…!
[気になる点] 白首竜は王直属の竜騎士しか乗ること許されてないのに、こんないろんな所が見ている人がいるなかで出してもよかったのだろうか
[良い点] 今回の〈驟火〉が、〈火矢〉でなくて〈炎槍〉を大量に撃ったら強そうです。 獣人達は、対魔法装備は充実している様ですし、ただの〈火矢〉では効かないかもですし。 [気になる点] 〈驟火〉にせよ〈…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ